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宿木、探り求める者I |
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感情に乏しい顔が、石垣に座ったままの○○に向けられた。 「ご機嫌、よろしゅう」 ぽつり、と唇が小さく動いて、そんな言葉が降りてくる。 どう返したものかと迷い、取り敢えず頷いてみせる。 すると、彼女の方も小さく頷き。 「…………」 そして、互いに無言。ぼんやりとした視線が、石垣に座ったままの○○を見下ろしている。 気まずい。どうも彼女と一対一で向かい合うのは苦手だった。 ○○は何か話題を探そうと視線を泳がせて、思いついた事を深く考えず口に出す。 こうして群書の中で出会うのは珍しいな、とか。 「はい」 そちらは初回の時も問題なく“ジルガ・ジルガ”に記名できたらしいな、とか。 「はい」 昼の食事はもう取ったのだろうか、とか。 「はい」 なら、お勧めの場所は何処かにあるだろうか、とか。 「知りませぬ」 そうですか。 「はい」 「…………」 「……?」 駄目だった。碌に会話が続かない。○○は頭を抱えてぐぬぬと唸る。 「って」 そうだ、と○○は顔を上げた。 エンダーだ。○○の記憶の中では大抵、 彼女アリィとあの騒がしい金髪の少年エンダーは一緒に動いている。 なのに、今ここに居るのはアリィだけだ。 はぐれでもしたのだろうか。いや、 そもそも共に行動しているのは箱舟の中でだけなのか? それを尋ねようと口を開いた時。アリィの後方から、 件の少年が大声と共に赤衣を翻して走ってきた。 「アリィー! 勝手に何処行ってんだお前──って、あれ、○○?」 ぐい、とアリィの手を引いて振り向かせたエンダーの視線が、彼女を挟んで向こう側に座っていた○○を捉える。 「なんだ。○○がアリィを保護してくれてたのかよ。いや、助かったわ」 別に保護していたという訳ではないのだが、訂正するのも面倒でそのまま流した。 「んで、○○は何やってんのよこんなとこで。こっちには今着たところか?」 彼の言う“こっち”とは、“ジルガ・ジルガ”に、という意味だろう。 ○○は昼に入る前辺りにやってきた事を伝える。 「ほー。俺らは大体、朝方くらいだな。んで、 それからマイグラトリーレアずっと探して、やっとさっき見つけたと思ったら、 いつの間にかこいつが居なくなっててな。 大慌てで探し回ってたところ。やっぱ外見目立つと、 迷子になっても探すの楽だわ。聞いて回りゃ一発だし」 ──マイグラトリーレア、見つけたのか? 思わず立ち上がってそう声を上げると、 エンダーは二度ほど目を瞬かせ、 「ああ。って、あれかよ。○○も姫様から宿木の紹介状、貰ってたのか?」 ○○は頷き、そして今まで街の住人にマイグラトリーレアの場所について尋ね歩いていたのだが、総外れだったという事を話す。 よく見つけられたものだ、と感心の顔でそう言うと、エンダーは「ああ、それな」と小さく肩を竦めてみせる。 「実はそれ、“マイグラトリーレア”って名前が曲者なんだわ」 曲、者? 怪訝な顔で首を傾げると、少年は笑みをより深くして、 「いやな。どうもその言葉、宿木に所属してる連中だけが使う、隠語っぽいんだわ。だから──」 ……もしや、この街にある宿木の施設の場所を教えてくれ、 とでも頼めば簡単に場所が判ったという事だろうか。 「そゆこと。つっても、宿木ってのは結構裏稼業な組織くせぇから、 やっぱ知らない人は知らないだろうけどな。取り敢えず、 ○○も宿木行くつもりだったんなら案内してやるよ」 「…………」 何故過去の自分はそういう尋ね方をしなかったのだろうか。 全く、迂闊だった。 ○○は深く溜息をつきながら、 先を歩き出した赤衣の少年の後を追った。 続く |
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