TOP[0]>攻略ルート選択 >リザルトTOP

宿木、探り求める者I



 眩んでいた視界が元に戻る。
 ○○は軽く頭を振ってから、ゆっくりと頭を巡らし、周囲の状況を確認。今居る場所は、街を囲う壁の影。見覚えがある。最初に“ジルガ・ジルガ”に記名した時に訪れた街だ。
 己の身体や所持品等に異常がない事も確認し、○○は細く安堵の吐息をつく。どうやら、箱舟から“ジルガ・ジルガ”への記名は問題なく行われたようだ。
 前回のように奇妙な光景を見る事も、人里離れた森の中に放り出される事も無かった。まだ数自体はこなしていないため本当に安全が確約されているかまでは判らないが、少なくとも必ず失敗するという可能性だけは失せた。それは幸いな事と言っても良いだろう。

「さて」

 壁の影から出る。日は高く、ほぼ中天に近い位置だ。それ程背のない壁が作り出す影はほんの僅かで、一歩踏み出すだけで陽光が肌を焼き始める。
 気温はそれ程でもないが、日差しはきつい。○○は額に手を翳《かざ》して影を作ることで白みかけた景色を元に戻す。
 今ではもう必要とされていないものなのか、背の低い都市壁は所々が崩れたまま補修をされておらず、用を成していなかった。○○は壁の崩れた場所を探し、 そこを乗り越えて街中へ。遠く、鈍く腹に響くような鐘の音が、ゆったりとした間隔で届いてくる。
 街の規模は、はて、どれ程のものだろうか。歩きながら、辺りをきょろきょろと見回してそれを測る。
 建物の規模と様式、道の幅と質、人の通りとその身なり。それぞれの水準は○○からすると相当に高く見えたが、しかし同時にこぢんまりとしているようにも見える。察するに、この群書世界──少なくともこの地域──の文化水準は高いが、その中に於いてこの街はそれ程大きなものではない、といったところか。
 同時に、戯馬に乗ってここへ訪れた時に見た街の周辺地形を思い出す。大きな川は見当たらなかったが、肥沃な平野と他方から集う舗装された大道が数本あった。地理的な詳細までは判らないが、単純な農村という訳ではないのだろう。つまり、大きくはないがそれなりに人が行き来し、物が集まり商いが行われる街という事だ。
 街路を歩く。時分は恐らく昼時。先刻鳴り響いた鐘の音に合わせて、街の気配は僅かに弛緩したものへと変化している。

 街の中心近くに広がる市では、手を休める者達とそれらを相手に商売をしようとする者達の二つに分かれて騒がしい。○○はその合間を足を止める事無く進む。
 軒先や屋内に所狭しと並べられた品々は、他の群書でよく見られるものもあれば、全く知らないものも多数だ。○○は少しの思案の後、一つの露店で足を止めた。
 品を指差し、愛想を振り撒いてくる主と値段の交渉をしつつ、世間話。把握しておくべき事は多い。幾つかのやり取りを経て、そして別れ際に一言問うた。

 ──宿木について何か知っているか、と。

「宿木《ヴィスクム》……? なんだい、あんた探求者に興味あるのか? 言われてみりゃ、そんな格好だけど……」

 途端、主の声と表情に険が浮かんだ事に気づいて、○○は首を横に振った。理由は不明だが、どうもまずい空気。反射的に、興味など無いがふと先程小耳に挟んだので、と苦しい言い訳を試みる。
 そんな○○を、店主はじろじろと見て、小さく鼻を鳴らした。

「あんたみたいな根無しが知らないってのも珍しいが……まぁ、どうでもいいか。なら、知らないままの方がいいよ。わざわざあんな異常な連中と関わりを持つ必要もないさ」

 ひらひらと主は手を振り、こちらから視線を外すと新たな客に向かって愛想を振り撒き始める。
 モノを取引する前に話を振るべきだったか、と○○は小さく舌打ちしつつ、先刻の店員の言葉と態度の変化を反芻する。
 どうやら、宿木はこの群書世界の者達の間──特に非定住者の間では半ば常識として通用する言葉であるらしい。
 そして、宿木という組織が存在するのは確かなようだが、どうもあまり良い感情を抱かれていないらしい、というのも同時に判った。何処か疎むような表情と言葉。目には畏怖と忌避の色が薄っすらと混じり合って存在していたように思えた。

(大丈夫、なのか?)

 ツヴァイの言葉を信じるならば、宿木はこの“ジルガ・ジルガ”に於ける冒険者ギルドのようなもので、そこに所属していれば七王国とやらの中ではかなり自由に動けるようになる、という話だった。
 が、先程の店主の態度を見ていると、どうにもそうには思えない。寧ろ動きにくくなるような、そんな感さえあった。もしかすると、ここが七王国という地域の外だという可能性もある。

「…………」

 ○○は無意識に眉根を寄せて、顎を撫でる。
 何やら暗雲が立ち込めてきたような、そんな気分になった。

     ***

 その後。
 街の何人かに話を聞いてみた○○であったが、宿木という言葉は通じれど、マイグラトリーレアという言葉を知る者に行き当たることは無かった。
 また、宿木に対する評価も皆似たようなものだ。遠回しに聞いたそれぞれの意見を一言にまとめると、

『危険を顧みない異常者の集まり。時には便利ではあるがどうにも胡散臭い組織』

 だった。
 どうも、宿木という組織とその人員が持つ力は人々に認められ重宝がられてはいるのだが、逆にその力や異質さのせいで怖がられ避けられてもいるように感じた。

「…………」

 果たして、そんな組織に身を置いてよいものだろうか。自問しつつ、広場を仕切る小さな石垣の上に腰を下ろす。
 昼時を過ぎ、街の人々は午後の仕事を始めるべく動き出している。街の建物から炊事の気配があまり漂ってこない辺り、ここでは昼には食事を取らないのが普通のようだ。とはいえ、視界に入る幾つかの露店では簡単に調理された品が並んで、それを購入する人の姿も目に付く。職人らしき者達が焼いた肉を突き刺した串を大量に抱えて走っていく姿を眺めながら、○○はこれからどう動くかと考える。
 宿木については……どうにも怪しげな噂が耳に入ってくるが、まだ自分の目で確かめた訳ではない。伝聞のみで断じるのはあまり良い判断とはいえないだろう。取り敢えずは、宿木がどういう組織であるのか。それを直に確かめるのが先決だ。
 が、そうなると最初の問題に立ち返る。
 宿木を直接知るには、宿木の施設マイグラトリーレアへと辿り着かなければならない。だが、マイグラトリーレアを知っている者が見つからないのだ。
 もしかして、この街にはマイグラトリーレアが存在していないのだろうか。○○がそんな結論に達しかけたとき、

「──○○」

 ふと声を掛けられた。

 知った人物だった。
 ○○と同じ“迷い人”である娘──アリィである。

アリィ


続く







画像、データ等の著作権は、 Copyright(C)2008 SQUARE ENIX CO., LTD./(C)DeNA に帰属します。 当サイトにおける画像、データ、文章等の無断転載、および再利用は禁止です。