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閉ざされた群書@
※@とAは1更新です


閉ざされた群書

「他の群書、ですか?」

 柔らかな日の光が差し込む部屋の中央。木製の丸テーブルを囲み、 いつものようにのんびりと紅茶を頂いていた○○は、ふと、以前から疑問に思っていたことを口にしてみた。

 群書は他にも存在しないのか、と。

 自分がこれまで記名してきたのは"ラストキャンパス"と"サヴァンの庭"の二つだ。円環の広間で"准将"と顔を合わせても、 彼が薦めるのはこの二つか、彼自身が所有している単書のみ。
 しかし、あの広間には、二つの群書が保管されている部屋へと繋がるものの他にも、 似た形状の扉が幾つかあるのは確認していた。恐らく、その先に別の群書が保管されていると○○予想していた。
 この事は、何れ准将かツヴァイが説明してくれるだろうと考えて、 敢えて今まで尋ねずにいたのだが──痺れを切らした、という程でもないが、 茶飲み中の会話の種には丁度良いか、と話題に上げてみたのだ。

 対し、ツヴァイは少し驚いたように目を一度瞬かせて、「ええと?」と頬に手を当てる。

「私の説明、覚えていらっしゃいません? ……○○さん、最近物忘れが激しいとか言われませんか」

 そんな説明してもらっただろうか?
 ○○は唇を茶で湿らせる間に何とか思い出そうとしてみたが、 それらしき記憶は出てこない。しかし、ツヴァイの物言いからすると、どうやら既に説明は受けているよだ。
 となると。

(本当に、すっぱり忘れてしまっている?)

 今まで色々あったからなぁ、とは思うが、それが免罪符になる訳でもなし。
 諦めの吐息と共に○○は両手を広げ、降参と謝罪を述べる。すると、 ツヴァイは怒るわけでもなく、何故か満面といって良い笑顔を浮かべて、

「なら、きっと説明していないのでしょうね。私の方も、説明した記憶はありませんし」

「…………」

 にっこにっこと、物凄く嬉しそうにされると、文句を言う気力も失せる。
 ○○は無言のまま、手の振りだけで説明を要求。 そんな○○の様子に、ツヴァイは笑みを弱めるとこほんと一つ咳払い。

「御免なさい、少し冗談が過ぎました。それでは、 ○○さんたってのご希望という事ですので微に入り細に入り、張り切って説明を──」

 手短に。
 手短にお願いします。

「○○さんも、"箱舟"の皆さんや他の"迷い人"の方々と同じような事を言うようになりましたね」

 ツヴァイは「なるべく正確に、情報を漏れ無く説明しようとしてますのに、 どうして皆さん……」等と小声でぶつぶつ呟いているが、知った事ではない。
少なくとも、テーブルの上に置かれたポットが完全に熱を失う前に話を終えていただきたい、 と○○は断固とした態度でそう告げるが。

「何だか、説明する立場とされる立場が逆な気がして仕方が無いのですけど、 先刻少々からかった件もありますし、 正直私の話のどの辺りが長いのか自分ではあまり把握できておりませんので、全く自信はないのですが」

 望み薄だな、これ。

 それから、暫くの時間が経過して。

 残念ながらというべきか予想通りというべきか。 結局、短いとは口が裂けても言えなくなってしまったツヴァイの話を、 ○○は頭の中で理解しやすいように組み立て直す。

      ***

 ──ツヴァイが言うには。

 ○○の想像通り、円環の広間には"サヴァンの庭"や"ラストキャンパス"以外に複数の群書が存在し、 それぞれ○○が見た扉の先に収納されて固有の群書世界を展開、維持しているのだという。
 ただ、それらの群書に対して"挿入栞"を使った"仮記名"が簡単に出来るかというと、どうもそうではないようで。
 この事が、ツヴァイや准将が"サヴァンの庭"と"ラストキャンパス"以外の群書について○○に話さなかった理由であるらしい。

 では、何故簡単に"仮記名"が出来ないのか。
 その理由はいくつかあり、大きく三つに分類できるそうだ。

 一つは、"群書が世界を維持できなくなり、完全に消滅してしまった"というものだ。
 以前にも聞いた話だが、群書は過去に起こった"大崩壊"という滅びから逃れるために突貫で生み出された世界であり、 当時その創造手法には多くの不安点を抱えていたらしい。
 そのためにも、群書創造の中心となった人物は、 もし群書の構造に致命的な問題があった場合、全ての群書がその問題によって崩壊消滅する事を避けるため、 各群書ごと、可能な限りアプローチを変えて設計を行った。
 中には明らかに失敗といえる構造もあったらしく、酷いものでは、 創造から一年と経たずに世界を維持できなくなり、記名した人々ごと消滅してしまった群書もあったという。
 こうなってしまえば、そもそも入るための群書が存在しないのだから、 記名できる筈も無い。既に無い群書なのだから説明の必要も無いだろう、とツヴァイが話さなかったのも頷ける。

 もう一つは、"群書世界に記名した人々が何らかの原因で全て死に絶えてしまい、 人という種が諸滅してしまった"というもの。
 この状況は、書の集合によって生み出された世界観自体が人の生存に適さなかった場合や、 天災、流行病、更には人同士がいがみ合った結果、自分自身の手により世界と己を滅ぼしてしまった場合等々、 多様な経緯で起こりうるもの。
 群書世界によっては、こういった事態への対策が施された世界もあるというが、 第一の理由で上げた通り、群書世界は一貫した設計がなされているわけではない。 対処が施されていない世界でこういった事態が起こった結果、群書構築時に生み出された架空の存在しかいない、 空っぽの世界が生まれる事になる。
 こういった群書世界は、はっきりいってしまえば存在意義を失った状態だ。 世界の中で暮らす記名血統達を目印として打ち込む"楔"を維持することも難しくなるし、 箱舟側からの"楔"が無ければ記名すること自体が容易ではなくなる。それにもし記名出来たとしても、 箱舟側からの支援を受けられぬまま、誰も居ない場所にたった一人放り出される事になる。
 これらのリスクから、"迷い人"はこの世界に記名する必要無し、とツヴァイ達は結論付けており、 迷い人本人から余程の希望がない限り、記名を許可する事は無いとの事だった。

 そして三つ目。これに該当する群書は多く、一つ目や二つ目に当てはまらない群書は全て── "サヴァンの庭"や"ラストキャンパス"ですら該当する。
 その理由とは、"構築された世界が年月を経る事で徐々に深みを増し、完成していく過程で、 群書世界が外部からの進入を拒む程の強固さを備えた結果、 記名に対しても相応の抵抗を行ってしまった"というものである。
 要するに、群書世界とやらは、歳を重ねて成熟していく程、 記名がし辛くなっていく──より正確には、"外部から侵入する記名対象者を、 自分の世界の存在であると錯覚させる"事が難しくなっていく──ものらしい。 これは群書設計の不具合という訳ではなく、むしろこうなることが望まれていたもので、 そもそも群書構築から長い時を経過した後に、挿入栞を用いての仮記名を行うことが想定外だった、 という事のようだ。
 一度"仮記名"が成功してしまえば、群書世界はその存在を己の一つとして認め、 以後はいつでも記名可能になる。だが、最初の一歩、世界に自分を認めさせる一回目が難しいらしく、 成功させるには群書世界が持つ強固さを無視して記名できるタイミング、 ツヴァイ曰く「箱舟に近づく時」に合わせ、慎重に行う必要があるのだという。
"サヴァンの庭"と"ラストキャンパス"が現在記名可能なのは、丁度箱舟に近づいた状態というのが今だからだ。 この二つの群書は比較的記名可能な期間が長い世界であるらしく、 二つの群書内で生じている現象や歩んだ歴史、固有の基礎構造によって発現した特性が原因ではないか、 とツヴァイ達は推測していた。


続く



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