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閉ざされた群書A
※@とAは1更新です

 ──結局のところ。
 現在における群書とは、基本"閉ざされた"ものであるらしい。

「はい。どうぞ」

 と、自分の前に差し出されたカップに口をつけて、その味に驚き、 物思いに沈んでいた意識を完全に浮上させる。
 顔を上げれば、ツヴァイは手にしていたポットを机の上に置いて、 椅子に腰を下ろしている最中。○○が遅れて礼を言うと、 彼女は「約束を破ってしまったお詫びです。御気になさらずに」との答え。どうも、 先程まで飲んでいたものより数ランク上の茶葉を出してくれたらしい。

 そして、暫し無言で御茶を楽しんだ後。

閉ざされた群書

「さて。これで○○さんの御質問にはお答え出来たと思いますが、 他に、何か知っておきたいことはありませんか?」

(……ふむ)

 ツヴァイの言葉に、○○は深く椅子に腰掛けて小さく唸る。

 取り合えず、もう少し実のある話を聞いておきたい、というのが本音だった。
 例えば、今記名する事が出来る群書が二つだけならば、一体どうすれば他の──いや、 先程の話に従うならば、最も早く「箱舟に近づく」群書はどれで、そしてその機会が何時やってくるのか、とか。
 これを把握しておけば、それを踏まえて今後のスケジュールを組み立てることができる。
 ……もっとも、それが事前に把握できるものなのかどうかは知らないが。

 ○○が思ったままにそう話すと、

「可能ですわね。事前に兆候がありますから。確か、次に"箱舟"と概念的に近づくのは、 数ある群書のなかでも最初期に造られた世界、"ジルガ・ジルガ"の筈です。けれど、この群書は、少し……」

 そこまで言って、ツヴァイの笑みが少しばかり渋いものに変化する。

何か、不味い事でもあるのだろうか。
 もしや、その群書は既に人の居ない、"放置された群書"である、とか?

「いえ。ですが、そうですね……"異常"と言えばいいのでしょうか。 あまり宜しくない状態にある群書なのは確かです。○○さんに伝わる言葉で説明し辛いのですけれども、 言うならば"閉ざされた群書"と表現するのが一番近いでしょうか」

 歯切れの悪い言葉だった。それに、閉ざされているのはどの群書も同様ではないのか。

「ああ、うん、そうなのですけれど……」

 ○○の指摘に、ツヴァイはどう説明したものかと迷うように視線を泳がせて、

「んー、この言い方が良いかな。"ジルガ・ジルガ"は他の群書に比べて、"閉じ具合"がおかしいんです」

 閉じ、具合?

「はい。別の表現をしますと、硬軟が顕著、といったところでしょうか。 まず、初期記名が可能となる期間が至極短いです。およそ五年か十年に一度、 それも秒単位で断続的に、合計すれば一分程しか記名可能な状況が発生しません。 "ジルガ・ジルガ"はその数秒の間に限り、非常に干渉がしやすくんなりますので、 初期記名はとても簡単です。けれど、それ以外の時の接触の難しさは並ではなくて……今現在、 "ジルガ・ジルガ"に記名していた"迷い人"の皆さんと連絡が取れず、 私達の方でも内部の状況が正確に把握できていません。述具による干渉が、殆ど弾かれるんです」

「…………」

 それは確かに、まずいような。
 記名できるかどうかは脇に置くとして──既に記名している迷い人と連絡が取れない。 それはつまり、挿入栞を使って仮記名しても、箱舟に戻ることが出来ないという意味にならないか。

「そうです。一応、記名可能期間中に内部情報を極力得て、 中で人々が社会を築き、しっかりと生活されているのを確認してはいるのですが、 その情報も少々奇妙な点が見受けられます。何年も経過しているのに、 得られた情報の殆ど変化が無くて……正直""ジルガ・ジルガについては不可解な要素が多すぎて、 あまり記名を勧められる群書ではないのは確かですね」

 ツヴァイは茶のカップを手にとって、軽く口をつけてから一息。

「まぁ、今なら事前に挿入栞の方へ"ジルガ・ジルガ"専用の付加式を乗せておくことで、 内部から箱舟への帰還や、栞の拡張機能の利用も可能になるとは思いますが。……とはいえ、 この付加式も事前に施しておくのが絶対で、だから、あの時より前から群書世界に記名されていた方々に対しては、 どうしようもなくて」

(うん?)

 少し目を伏せて呟くように話すツヴァイの言に、○○は片眉を動かす。
 どうも先程から話を聞いていると、"ジルガ・ジルガ"とやらは徐々にではなく突然、 現在のような酷く"閉じた"状態になったように聞こえるのだが。

「はい。詳しい記録はありませんけれど、私が"主"から管理代行を任される以前の話ですから、 かなり昔の話になりますね。主は『これはこれで興味深いからそのままいこう』 などと無責任極まりない事をおっしゃってましたけれど。まぁ、群書は極めてデリケートな存在ですから、 私達が迂闊に干渉する訳にも行かず、結局傍観する他無かったのですが……ただ、今思うと、そうですね。 あの時のあの反応、もしかしたらあれは──て、え? 黒星さん?」

 と、そこまで話たところで、ツヴァイは突然口を噤み、微かな物音を聞き取ろうとするように動きをぴたりと止め、

「──突然どうされたので……は? なんですって?」

 独り言のように呟いてから、勢い良く立ち上がった。
 彼女の座っていた椅子がそのまま後ろに倒れて、がたん、と静かだった室内にけたたましい音を響かせる。

(なん、だ?)

 突然の行動に、何事かと目を白黒させてツヴァイを見上げる○○。そんな○○に対し、 ツヴァイは走り出そうとしていた動きを止めて、

「御免なさい。黒星さんのところで、少し問題が起きたようです。私は今からそちらへ向かいますので、 話の途中で申し訳ありませんけれど、今日のところはお引取りを。それでは」

 そして○○に小さく一礼すると、そのまま慌てた動きで部屋を出て行ってしまった。

「…………」

 唐突すぎる展開についていけず。
 ○○は手に茶のカップを持ったまま、開きっぱなしとなった扉の向こうへ遠ざかっていくツヴァイの背中を呆然と見送った。


─See you Next phase─



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