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竜の迷宮@
閉ざされた群書→黒星
※@とAは1更新

 エルアーク左側面から伸びた空中水路の先。箱舟の左前翼を形成する小さな島に、塔のような形状の建物が一つ。
“玩具箱”と呼ばれるその建造物は、言ってみれば“エルアークの物置”だ。旧時代の遺物や、“落丁”等によって偶然こちら側に現れた品。そして本の世界から人為的に物体を引き出そうとして ──失敗した品物等が、無秩序に積み上げられ、詰め込まれている。

 旧時代の遺物と聞くと、何やら超常的な力を秘めた凄い宝物が盛りだくさん、 というイメージを持ってしまうが、旧時代に創られた品は、 世界にその当時にのみ満ちていたという力を利用したものが多く、 大抵はガラクタの範疇を出ないものだとか。
 勿論、中には長い時を経た今でも強い力を保ったものや、 そういった不可思議な要素に頼らない逸品というものも存在するのだが、 そういった品々も挿入栞との縁を繋ぐ技術── “関連付け”が難しく、何やら特殊な素材のようなものが必要らしい。

 玩具箱へと近づき、すっかり古びた大扉を押し開く。 木霊達が幾度か補修した痕が残る、独特な色合いの金属扉が軋む音を立てて奥へ。
 中は暗く、かびた臭いが鼻腔をくすぐる。側壁上部に開いた複数の小窓と、 今開いた扉から差し込む光が数少ない光源。
 白と黒の斑に染まる建物の内部は、兎に角物が溢れて混沌としており、 この中に居る筈の“玩具箱の主”を探すのも一苦労だ。

「さて」

 ○○は小さく呟いて、暗がりに目を凝らす。
 その主殿。鼠人の小男が手早く見つかると良いのだが。

     ***

「──成程。原因は判りませんが、状況の方は把握しました」

 天井近くに開いた横穴からは細々とした光が差し込んでいる。 至る所に物が積み上げられてた巨大な部屋の一角で、ツヴァイは笑みを崩さず、 しかし右のきめかみを揉み解すように指を当てながらそう呟いた。
 ツヴァイの目の前には、直立する鼠が衣服を纏ったような人物──この"玩具箱"を住処とする箱舟の住人、 黒星が居り、彼とツヴァイの間には一冊の本が置かれていた。


竜の迷宮

「全く、自分としたことが、不覚を取ったでやんす……。 世界観の歪みの方に気を取られて、あのお二人のフォローをし損ねるとは」

 そう言って、済まなさそうに頭に手をやる鼠人は、 精神的にも肉体的にも疲弊しているのが見て取れた。
 先程聞いた内容を思えば、それも当然だろう。ツヴァイは首を浅く左右へと振り、

「仕方の無い事でしょう。御話を聞いた限り、 黒星さんの対応に問題があったとは思えませんし。 もし私が同じ立場でも、同じ選択をするでしょうから」

 そして視線を黒星から眼前にある本へと移す。

「この単書"竜の迷宮"に対する凝固述式も、ほぼ完璧のようですし。流石ですね」

 本の周りにわ淡く輝く文字の連なりが円となって幾重にも浮かんでいて、 まるで無数の円が本自体を締め上げているようにも見える。
 光の文字で編み上げられた円の正体はツヴァイの良く知るものだ。
 述具によって単書に干渉し、書が構築する世界を凝らせ、強固にするために使われる術の一つ。
 本来ならばこの術は、まだあやふやな形でしか世界を維持できない、 生み出されたばかりの単書を補助する為に使うものである。
 しかし、ツヴァイと黒星の間に置かれた単書は、新しく記述されたものではない。 "竜の迷宮"と呼ばれるこの単書は、黒星が所有していた古い単書の一つだ。
 自分が"箱舟"へとやってきた時には、既に彼はこの本を己の世界として扱っていて、 時折中に潜っては、箱舟側に顕現できそうな品を探していた。黒星にとっては深く馴染み、 親しんでいた本であるのには間違いない。
 だからこそ、今回の話は驚きで、そして賞賛に値するものであった。
 彼が遭遇した状況は、通い慣れた庭を散歩していたら、何故か落とし穴に引っかかるようなものだ。
 警戒心が薄い状況で起きた突発的な事態に対し、 咄嗟に対処出来る者は少ない。しかし黒星はそれをしてみせた。それは評価すべき事だ。

(あの方々──エンダーさんとアリィさんが、単書に取り残されたままというのは、 確かに残念な結果ではありますが……)

 黒星がそれを悔いるのも判るが、それは少々高望みであるようにも思えた。 ツヴァイは変える事の出来ない笑みに思案の色を乗せつつ、 先程黒星から説明された事柄を、頭の中で整理する。

     ***

 最初、黒星は用もなくふらりとやってきたエンダーとアリィに、 玩具箱の片づけを手伝わせていたらしい。その拍子に、 ガラクタの中から掘り出されたのが単書"竜の迷宮"だ。
 丁度エンダーとアリィという戦闘要員が来ていた事もあり、黒星は彼らを誘い、 "竜の迷宮"の世界へ挿入を行った。
"竜の迷宮"は世界各地に存在する"竜"での冒険を主題とした、 伝聞調の読み物を原型としている。 黒星はエンダーとアリィがまだ書の世界での行動に慣れていないだろう事も考慮して、 その中でも序盤、危険度の比較的少ない"竜"を選び、物語に沿う形で探索を始めた。

 探索を開始して暫くは順調であったらしい。"設定"されていた中盤の山となる箇所を抜けて、 所謂迷宮の深部へと到達。さぁ、そろそろ大物と対決か、という所で異変が起きた。

 その異変が、"竜の迷宮"という書物の中で元々用意されていたものならば良かったのだが── どうもそうでわなく。記名していた黒星達や、それを包む迷宮はおろか、 書によって構築された世界全体が、最初は小さく、しかし徐々に大きく揺れ始め、 そして震える世界の狭間、 砕け始めた空間の隙間から形を持たない靄のようなものが染み出してきたのだという。

 理由は判らない。
 だが、異常事態ではあった。
 少なくとも、"竜の迷宮"でこのような事態が生じるのはおかしい。

 理解した瞬間、黒星は素早く述具を使って"竜の迷宮"そのものに対して中から干渉、 まず世界の揺れを止める為に凝固処置を行い、 揺れと靄の侵入を力で以って強引に留める述式を展開。 そしてそれが発動する前に自分とエンダー達を本の世界から抽出する述式を行使した。
 効果は直ぐに発生し、黒星は箱舟へと無事顕現。続けて事前展開していた凝固述式が発動し、 何とか単書世界の揺らぎを押さえつけ、止める事には成功した。
 しかし、 これで何とか大事に至らずに済んだかと安堵しかけた黒星は共に箱舟に顕現している筈のエンダーとアリィの姿が無い事に気づく。
 慌てて確認すると、彼らを抽出する筈の式が何故か失敗しており、"竜の迷宮"内に取り残されたままになっていた。 黒星は外から述具で彼らを引き上げようとしたものの、 自分が掛けた凝固述式の効果に加えて"竜の迷宮"世界からも不自然な拒絶反応が返り、 精々生存確認が出来る程度だった。

 一瞬途方に暮れかけた黒星であったが、しかし直ぐに気を取り直すと、 彼は自分の上役に当たる人物に連絡を取る。

 結果、箱舟の管理代行を務める自分が慌てて玩具箱へとやってきた、 というのがここまでの流れだった。

「──ええ。やはり、黒星さんは出来うる限りの事をしたと私は考えます」

 思い返した内容を吟味して、ツヴァイは改めてそう呟いた。
 彼が述具による式の構築に失敗するとは思えず、 つまりエンダーとアリィの二人が箱舟側に戻る事が出来なかったのは想定外の要素。
勿論、それに備えて式を準備、行使するのが最良ではあるし、 黒星が悔いているのもその部分であろうが、余裕の無い状況でそこまでを望むのは酷だ。
 何よりそういった式の構築に余分な時間を使うことで、 何もかもが手遅れになっていたという可能性もある。 結果最良とは成り得なかったが、最善ではあった筈だ。
 対し、黒星は照れたように己の跳ねた髭を弄り、


続く



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