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竜の迷宮
閉ざされた群書→黒星
※@とAは1更新

「……はは、上の娘さんに慰められるとは、今日は"渇き雨"でも降りそうでやんすね」

 笑み交じりの聞き慣れない言葉に、ツヴァイは己の記憶を探る。確か、彼の"出身"の。

「渇き雨──確か、黒星さんの単書特有の言い回しでしたか」

「ん? と、ああ、そうでやんすね。渇き雨は、 降った土地の水分を揮発させて更に干上がらせるという厄介な奴でして。 自分等の土地では酷く珍しい"雨"の一つではあれど、恵みなりえぬ望まれない雨、 と疎まれてまして、その繋がりで出来た雨でやんすね。自分が生きていた場所では、 渇き雨の降る降らないは死活問題でして、結構笑い事ではなかったんでやんすけど」

 多少気力が戻ってきたのか、笑い事ではないらしい話を笑み交じりで話す鼠人に、 ツヴァイはうんうんと二度頷いて、

「……それはつまり、私の慰めが望ましくないものだった、という事でしょうか」

「いや!? いやいやいや、違うでやんすよ!? チガウデヤンスヨ!? 意味としては『酷く珍しいこと』 というだけで!!」

「あら。私、いつもいつも皆さんに対して繊細な気配りを忘れていないつもりなのですけれど。 とはいえ、その気配りも今のように無下にされる事が多々ある訳ですがー」

「本当、自分が悪かったでやんすから、そろそろご勘弁を……。というか、 あまりこうして暢気に話している場合でもないでやんすよ」

 話を誤魔化すにしては冗談の無い口調でいう黒星に、 ツヴァイもそろそろ真面目に話に戻ろうか目を閉じてふむふむと二度頷いて、

「判っていますわ。御話をしながら、ちゃんと今後の対応を考えていたところです。 勿論、黒星さんもそうですよね?」

「……上の娘さんは、ホント下の娘さんと比べて性格が」

「そうですよね?」

「……御免なさい。本当に御免なさいでやんす」

 目を逸らしつつ、深々と頭を下げる黒星。
 その程度で満足した訳ではないが、確かにこれ以上話を伸ばしても仕方ない。 ツヴァイは頷き一つだけでその意思を示し、黒星も姿勢を改める。

「で、どうするっすかね。取り合えずは人命救助を終えてから、 改めて書の状態の調査にと行きたいところでやすけんすけど。自分思うに、 救出するために取れる行動はそう多くないでやんすね」

「ええ。手段自体は幾つか浮かびますが、さて、どれを選択するのが最良か、という所ですね」

 ツヴァイは自分の中にある方法から、まず最初に潰すべき案を提示する。

「救助を最優先で考えるなら、黒星さんが行った凝固述式を完全に解いて、 すぐさま私達がエンダーさん達の抽出作業を行う、というのが最も単純な手ですが……」

 黒星が掛けた凝固述式は世界を外から押さえつけ、形を保つものだ。 その凝固を僅かに緩めれば、外から内部に干渉する余地は出来る。
 だが、黒星が行使した筈の存在抽出述式がエンダー達に通じなかったのが気に掛かるし、 凝固述式が掛かった状態とはいえ、こちらから内部への干渉が予想以上に拒絶──いや、 正確には手応えが不確かになっているというのもある。

「凝固述式を解いた後、こちらが使う抽出述式の全てが通じず、 更には"竜の迷宮"は変質が進んで、単書世界も、あの方々も失われるという展開も有り得ますし、 あまり好ましい方法ではありませんね」

 ツヴァイの言葉に、黒星も頷き、

「自分の凝固述式が掛かった状態では、外からの干渉で引っ張り出すのは難しいでやんすから、 確実を期すなら、遠隔ではなく直接述式を行使するのがベストでやんすけど……」

 一度彼らと"竜の迷宮"の中で接触し、 単書世界内と挿入栞の状態などを確かめながら適切な抽出述式を行使、 あるいは新たに組み上げるのが一番だろう。
 凝固述式を僅かに緩め、その隙に内部へと侵入。 凝固述式は世界の外枠だけを押さえ込むものであるから、外部から内部への接触は難しいが、 逆は展開する陣に干渉されない分比較的やりやすい。選択するならこの手だ。

 しかし、となると自分か黒星、どちらが入るべきかという話になるのだが。
 思い、ツヴァイは視線を黒星に向ける。

「ちょっと、難しいでやんすよねー、これ」

 撫で肩の彼の姿は、いつもより小さく見えるような気がする。 黒星の戦闘能力は然程高くない上に。既に一度"竜の迷宮"へと潜った後で、 疲労が未だ抜け切っていないのだろう。
 常の"竜の迷宮"常の彼ならばともかく、今の異常な"竜の迷宮"内では、 自力で切り抜けられない状況に陥る可能性もある。黒星自身が行使している凝固述式の影響で、 そういう事態に陥った際、箱舟側へ瞬時に逃げるのが難しい。展開と同様、 解除にも相応の時間が掛かるのだ。
 更に言えば、凝固述式を行使している本人がその内側へと入るのは好ましくない、 というのもある。凝固述式の維持は定期的な追記が必要であり、述具による繊細な記述を、 展開した結果の内側から外へ向けて行うのは至難だ。ツヴァイがその役を代わる事も可能だが、 述式は個人個人で癖があるし、やはり安定を求めるなら避けるべきこと。
 つまるところ、彼は救助役としては不適切であった。

 ならば自分か、という事になるが、ツヴァイはツヴァイで、こういう状況に適した存在とはいえなかった。
 そもそも、ツヴァイは"挿入栞"を所持しておらず、 その上"存在が肉体に依存していない"。今の身体は借り物のようなものだ。
 だから、安定した世界にならともかく、異常な状況下の世界──特に、 世界を構築する根本的な概念に揺らぎが生じている世界──に入るのは極めて危険な行為だった。 自分のような存在は、そうした世界で己というものを維持する事が非常に難しいのだ。 元が、不確かな存在であるが故に。
 もっとも、そうしたリスクを無視するならば、エンダー達を箱舟へと引き上げ、 本に生じている異変の詳細も確かめられる自身はあった。それだけの力と述を持っていると、 ツヴァイは己の力量を正確に理解していた。
 だが、自分はこの箱舟の管理を任された身だ。
 全ての状況を把握できているならいざ知らず、今のような不確定な要素が多々ある場面で、 迂闊に己の身を危険に晒すことは出来ない。

(……なら、他に打つ手は?)

 せめて腕に覚えのある"迷い人"がここに居てくれれば、 その人物の栞に付加式を掛けて"サニファ"を起こし、彼女にある程度の事を任せられるのだが。
 都合よく箱舟に滞在している人など居るだろうか、とツヴァイは意識を外に向けようしたところで、 背後で小さな物音がした。

「──?」

 音のした方へと振り向くと、そこには自分達の様子を訝しげに見つめる○○の姿があった。
 本を間に置いて向かい会う自分と黒星を見て、一体なにをやっているのかと問うてくる○○に、 ツヴァイはびしりと指差して、

「グッドタイミングです!!」

 突然の言葉に、その"迷い人"は白黒させた。

(何だか厄介な……)

 現場に出くわしてしまったようだ。○○は溜息と共に、 先程ツヴァイと黒星から説明された内容を反芻する。
 あれこれと専門用語の羅列が続いたような気がするが、結局のところは。

 ──本の中に入って、エンダーとアリィを見つけてきて欲しい?

竜の迷宮

「はい、端的に言えば。後は私達──正確には、貴方の"栞"がやってくれる筈です」

 一応、彼らとも顔見知りではあるし、ここで無視するのも目覚めが悪い。 話に乗るのは吝かではないが……そのような状態の本に入るのは危険ではないだろうか。 二次遭難は笑えない。
 ○○の言に、ツヴァイはもっともらしく頷き、

「その辺りも、貴方の"栞"が何とかしてくれます。貴方が戦闘等で力尽きた場合は別ですが、 少なくとも、概念的な干渉に対しては心配無用です。例え"竜の迷宮"が崩壊したとしても、 貴方だけは確実に箱舟に戻ってくる事が可能でしょう」

 何でもありである。そんな"挿入栞"は高性能なものだったかと呆れ混じりに言うと、

「今回は、気合を入れて貴方の"栞"を拡張しますから、特別です。太りますけれど」

 との答え。一体どんな事になるのか非常に心配、というか、 何がどうなって何処が太るのかがさっぱり不明だが、こういう事態だからと文句を飲み込む。

「兎に角、あまり悠長にしていられ状況でもありませんから、 出来れば○○さんには直ぐにでも単書への挿入をお願いしたいのですけれど、どうでしょうか」

 既に否という気は失せている。○○は反射的に頷こうとして、

「ああっと、ちょいと待つでやんす!」

 しかしそれを制するように、脇にいた黒星が声を挟む。

「この件は"本番"というか、今まで○○さんが群書の中で経験してきた事柄とは、 少しばかり趣が異なると言っても良いでやんす。だから、例え少々時間が掛かったとしても、 準備だけはしっかりと整えたほうが良いでやんすよ。それくらいなら構わないでやんすよね?」

 最後の問いかけはツヴァイに向けてのもの。彼女は少し思案するように唇に指を当ててから、 しかしこくりと頷いて○○を見る。

「判断は、○○さんにお任せします。この状況においては、 貴方にお願いするするしかありませんから」

 深く考えずに話を受けてしまったが、彼らの言から察するに、 どうやら救出への道程はかなり厳しいものがあるようだ。

 一度準備を整えるか、それとも直ぐにでも踏み込むべきか──。

─See you Next phase─



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