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幻の中の幻

 エンダーはばつの悪い顔でアリィの方を見る。釣られて○○も彼女へ視線を向けると、アリィは不思議そうにエンダーと○○を見返すが、その手には赤い布がぐるぐると巻きつけられて、所々に生地本来のものとは異なる、黒に近い色が染み出していた。

「──それじゃ姫姉様。念のため、こっちで判断した最適述式使って今から戻るッスよー」

『……了解しました。くれぐれも、間違いのないように』

「うぃッスー」

 まだ先程の話を引きずっているのか、声音が暗いままなツヴァイを完全にスルーして、サニファが気の抜けた声を返すのと同時。
 本の世界から箱舟へと引き上げられる時お馴染みの、あの独特の感覚が来た。

(全く……)

 慌ただしい事この上無い終わりではあるが、何とか無事、目的を達する事は出来たようだ。
 それ対する充足の吐息を吐きつつ、○○は抗う事無く意識の手綱を放す。

 ──広間の一角。視界の片隅に白い影が一瞬過ぎるのも、いつも通りだった。


ツヴァイ

「あら。そういえば、何も片付けずに“玩具箱”に向かったのでしたっけ」

 自室の状況。机の上に放置された茶のポットとカップを目にして、ツヴァイは何気なくそう呟く。
 椅子がひっくり返っていない辺り、○○がわざわざ戻しておいてくれたのだろうが、どうせなら食器の方も片付けて欲しかった、と思うのは流石に贅沢だろう。何せ、この部屋で水周りを取り扱うには相応の技が要る。
 ツヴァイは部屋の中へと入ると暫く無言で片付けを行い、テーブルを拭いた所で一息。

「さて、では始めましょうか」

 椅子に腰掛けて、丸テーブルの上に改めて置いたのは、一冊の単書。
 黒星から預かった“竜の迷宮”である。
 黒星の述式により凝固状態にあるこの本を、今からツヴァイは徹底的に調べ上げ、得られた情報を元にして“竜の迷宮”を健全な状態に戻す。
 失敗は避けねばならない。今、目の前にあるのは貴重な標本だ。もしかするとこれが──あの“落丁”の瞬間を捉えたものであるのかもしれないのだから。

「────」

 右の手に愛用の述具を喚び出したツヴァイは、ゆっくりと、ゆっくりとその本へと先端を押し当てようとして、

「……そういえば」


続く






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