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幻の中の幻 |
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「なんか、静かッスね……」 “竜の迷宮”深部。 崩れかけた通路を走る○○は、肩に掴まり辺りを用心深く見回していたサニファの声を聞く。 確かに、と○○は頷く。“皇蜘蛛”の狩場である大広間からここまで一度も怪物と遭遇していないし、走る通路の先からもそれに類する気配は全く感じられない。ただ、自分の駆ける足音だけが遠く響いている。 「それに、“竜の迷宮”に本来居る筈の怪物の気配が、先刻からどんどん少なくなっていって──かわりに、何か、変な気配が何処かに集まっているような……」 何とも曖昧な物言いだった。 ○○がもう少しはっきりと、と問い質すと、サニファは考え込むように唸り声を上げて、 「……変な気配は、変な気配ッス。言葉にしづらいんスよ。○○様は感じないッスか?」 どう、だろうか。 走りながらで、集中し難いというのもあるかもしれない。多少迷宮の雰囲気が先程と違ってきているのが判るくらいで、気配が集まる、といった細かい動きまでは感じ取れなかった。 「んんん……、自分に乗っけられてる感知系の付加式の方が引っ掛けてるんスかね。それなら、○○様が判らなくて普通かもしれないッス。取り敢えず、どんな気配なのかは説明が難しいッスけど、でも、それが集まっていってる方向は何となく判るッス。あっちの方ッスね」 走る足は止めず。サニファが指差した方向を見ながら、○○は思案する。 自分達の目的は、エンダー達の探索だ。しかし明確な当てがなく、先刻からただ迷宮を走り回るという状況。サニファが言う方向に彼らが居るという可能性は全く持って未知数だが、しかし闇雲に走るよりは、何らかの“異常”が生じている場所へと向かう方が良いだろうか。少なくとも、そこには変化がある筈だし、エンダー達がその変化に惹かれてそちらへ移動しているという可能性もある。 「でも、危険もありそうッスよねぇ」 「…………」 全く反論できないが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。他に当てが無いなら、一先ずはそこに向かい、様子を確かめるのが一番だろう。 ○○は気を入れ直すと、走る速度を一段と上げた。 *** 結論から言えば、大当たりだった。 続く |
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