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夜の校舎 |
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学校までの道のりでは、街の人にも怪物にも出くわさなかった。 というより、どんな生き物の姿も見ることはなかった。 まるで鳥や動物たちまで、この街を見捨てて逃げ出したかのように。 暗くうずくまる校舎には、一部の廊下と教室に明かりが灯っていた。 あなたはその光景を見て、どこかほっとするような、不安になるような、 奇妙な感覚を覚えた。 あなたとトモキは、無言で2階の、自分たちの教室を目指した。 普段と違った顔を見せる、静まり返った校内の雰囲気に気圧されながら。 校舎全体が、今にも何か始まりそうな予感に、じっと息をのんでいるようだった。 近づくと、蛍光灯の光のもれる教室からは、がやがやと喧騒が聞こえてきた。 ガラッとドアを引き開けると、中にいた全員の顔が一斉に振り向いた。 何人かの級友が、すかさず声をかけてくる。 「よう、お前らも無事だったか」 「風邪は大丈夫なのか、トモキ? 休んだんだろ、合宿」 「いったい、どうなってんだ、この街?」 「なんかゲームの怪物みたいなのがうろついてるの見かけたけど、あれってマジ?」 クラス全員32人のうち、半分ほどが集まっているだろうか。 ここにいない連中は、ヤツらに襲われたか、ファントムにとりつかれたりしたのか? 「だけど、なんだってこんな時に呼び出し、かかんだよ?」 「知らないよ、そんなの」 「ねえ、家族や街のみんなはどこ行ったの!?」 みんな妙にテンションが高いのは、パニック寸前の精神状態のあらわれかもしれない。 こんな状況では、それも仕方ないだろう。 蒼と出会ってなければ、今頃自分だってどうなっていたかわからない。 あなたが、クラスの皆の顔を見ながら、そんなことを考えていると……… ガラッと前方の扉が開いて、担任の藪谷が入ってきた。40代後半の、メタボ気味の女性教師だ。 薮谷は、つかつかと教壇に上がると、あなたたちに向き直って、 「こんばんは」 と笑みを浮かべた。 「おい、デブ谷、ざけんじゃねーぞ!」 「こんなわけわかんねー時に呼び出しやがって。何がどーなってんだよ!」 「みなさん、よく集まってくださいましたね」 と、何ら動じることなく女教師は続けた。 「学校は好きですか? 楽しいですか? これから、もっと楽しくしてあげますね」 女教師のリアクションに、声を荒げた生徒は毒気を抜かれたように、ぽかんとする。だが、 「今日は、みなさんと一緒にディナーを堪能したいと思います」 と彼女が続けると、途端に教室はブーイングの嵐に飲み込まれた。 「てめー、冗談もたいがいにしろよ! なんだよ、ディナーって?」 「信じらんない! アッタマ、おかしいんじゃないの?」 「そんなことやってる場合かよ? 第一なんだって、てめーなんかと……」 「うるさい!」 普段はおどおどした薮谷の、いつもと違う態度に、教室は一瞬にして静まり返った。 鬼のような彼女の表情を見て、誰もが言葉をなくした。 何事もなかったかのように、再び笑みを浮かべて藪谷は続けた。 「ただし、今夜のメーンディッシュは、調理された牛さんや豚さん、 魚さんではありませーん」 そう言うと彼女は、 ゆっくりと教室を見渡してから舌なめずりをして、笑った。 にまあ、と。 その笑みを見て、教室の全員が息をのんだ瞬間、 パッと電気が消えた。 それから……… 教壇の近くにいた誰かの絶叫が、ほとばしった。 同時に、いくつもの悲鳴が暗闇に響き渡り、 あたりは騒音に包まれた。 ひっくり返る机、椅子。あわただしい足音。 ぶつかりあう体、ののしり合う声。 わけもわからず、 ともかく闇のなか必死に後ろのドアに殺到しようとする生徒たち。 教室の前の方から、おぞましい何物かから、我勝ちに逃れようとして。 あなたとトモキも、級友たちと押し合いへし合いしながら、なんとか暗い廊下へと転がり出た。 あなたたちは一団となって、足音も荒く廊下を駆け抜け、 転がるように階段を下りた。 そのまま玄関ホールを突っ切って、閉ざされたガラス扉に、 なだれをうって張りついた。 「くそッ、鍵はどこだ!?」 「開けろ! はやく!」 「急いでよ!」 背後を気にしながら、 その場でみんな扉を激しく叩きまくるが、 頑丈な扉はびくともしない。 すると、ガラスの向こうの暗がりで、影がゆらりと動いた。 「待て! 外に何かいる」 一同はぴたりと動きを止めると、扉の向こうの闇に目を凝らした。 扉の向こうに、大勢の人間が立っていた。老若男女、無数の人々が。 うつろな表情で、手に手に刃物や工具といった、身近にある、凶器となりそうなものを持ち。 「ひッ!」 女生徒のひとりが、口元に手をやり思わず後ずさった。 「な、なんなの、これ……?」 「ま、街の人たち? どうして……!?」 誰もが呆然と立ち尽くした。 「どうするんだ……、出られないぞ!?」 ぺちゃり……。ぺちゃり……。 背後で、ゆっくりと階段を下りてくる音が聞こえた。 ハッと、その場の全員が息をのんだ。 「もうどこにもないんだよ、お前たちの逃げ場所なんて」 そう言うと、かつて藪谷だった生き物は耳まで裂けた赤い口を開けて、にまあと笑った。 と、一気に宙を飛んで、藪谷はあなたたちに襲いかかった。 男子生徒のひとりがはげしく床に叩きつけられ、そのまま上から藪谷に押さえ込まれた。 「わーッ!」 「いやーッ!!」 おおきな悲鳴を上げて、みんなバラバラに脱兎のごとく駆け出した。 闇におおわれた学園で、生と死のゲームがはじまった。 ─End of Scene─ 次回行動選択 まだ決めていない 風まかせ 体育館へ 職員室へ 図書室へ 保健室へ 教室へ 2Fへ エルアークへ戻りたい |
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