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宿木、探り求める者I



「試、し?」

 アリィが鸚鵡《おうむ》返しに呟くと、店主の眼が彼女の方へと動き、

「先刻の言い方に従えば第二関門だ。今のでお前さん達が“禁領”に対する侵入適性があることは判った。後は、探求者として禁領に足を踏み入れるに足る力量が実際あるのかを測らせてもらうんだが──“試し”については、あまり部外には伝わってないしな。知らないなら簡単に説明はするが?」

 問い。
 それに対し、○○とエンダーが思わず顔を見合わせる。
 ○○は迷いながら、取り敢えず言葉を返そうとして。

「ちょい待て○○。──オッサン、少し時間をくれ」

 隣に居たエンダーが○○とアリィの肩を掴み、眼を瞬かせる店主を余所に店の隅へ。

「……○○。お前、どれくらい知ってる? 禁領とかさ、あのオッサンが言ってる事判るか?」

 素直に首を横に振る。

「俺も知らん。殆ど一緒に動いてたからアリィも同じだろうし。……このまま話が進むと、ちょっとまじーよな」

 エンダーの言いたいことは判る。
 どうも店主は、幾つかの知識がこちらにあるのを前提として会話をしているような気がする。○○達からすると、“試し”について以前に“禁領”や“探求者”といった言葉にすら説明が欲しいくらいなのだ。
 更に言えば、こちらは“宿木という組織に所属できればこの群書世界で迷い人は多少生き易くなる”という、ツヴァイからの曖昧な助言に従ってやってきた身だ。この世界についての予備知識など何も無く、宿木とやらが実際どういう目的を掲げた組織なのかもよく知らない。それに、先刻街で情報を集めた際には、宿木についての良い噂は余り無く、どこか煙たがられているような、そんな空気すら感じていた。
 例えばだが、この組織が実は犯罪者の巣窟である可能性もある。もしそうだった場合──ある意味で生き易くはなるだろうが、総合的に見れば酷く窮屈な生活が待っているだろう。
 最低でも、彼の使う未知の言葉と、そしてこの宿木という組織が一体どういうものなのかを把握しておく必要がある。

「とはいえ、ここで馬鹿正直に訊くのも迂闊かね……」

 ○○の言葉に頷きつつも、エンダーは僅かに渋る態度を見せる。

 それも、理解できない事ではなかった。ここで禁領とかどうとかを下手に質問すると、こちらの素性が怪しまれる可能性がある。もしかしたらその言葉は、この世界の住人ならば知らない事自体が異常であると、そう断じられる類のものかもしれない。
 尋ねても問題があるのかないのか。その判断すら、今の自分達には難しいのだ。
 しかし、ならばどうするのか。店主が使う単語の意味が判らないままだと、どちらにせよボロが出そうだ。やはり深みに嵌らないうちに、齟齬は埋めておいたほうがいいのは確かだろう。

「そこは俺も同意見。だから、結局はやりようか」

 エンダーは少し考え込むように顎を撫でる。ちなみに、アリィの方はぼんやりとした視線でこちらを見るだけで、会話に参加する様子は無い。彼女がこういった機微が判るとも思えないので、恐らくは話自体を理解出来ていないだろう。

「んー。まぁ、何とかしてみっか。よし作戦会議終了」

「……一体何ごそごそしてたんだお前ら?」

 戻った○○達に対し胡散臭げな顔を向けてくる店主。よくよく考えてみると、こうして集まって内緒話をする様もかなり怪しい態度だ。
 と、○○が店主に言葉を返す前に、ひょいとエンダーが一歩前に出た。

「いやなオッサン。実は──」

 一瞬、視線がこちらに向けられた事に○○は気づく。俺に任せろとその眼が告げていて、○○は口を噤んだ。

「禁領や探求者というものが正しくはどういう意味か。まだ宿木の外にいる俺達と、中にいる店主の間で認識にズレが生じているかもしれないって話をな。だから専門家であるオッサンに、その辺りの事を改めて教えて欲しいんだよ。特にこの宿木がどういう組織なのか、何を目的にした組織なのか、とかな」
 口が回るなぁ、と感心半分呆れ半分の○○の前で、店主はふむと唸る。

「そうまで言われると、俺もこの街での宿木の窓口を任されている身だ、付き合わない訳にはいかないが……しかし取り敢えず、そうだな」

 そう前置いて、ごそごそとカウンターの下に手をやる店主。そして○○達の方に差し出したのは一冊の本だ。質の良い革を使った表紙で装丁もしっかりとしているが、あまり使われている気配は無い。

「宿木で発行している探求者の為の憲章だ。これの前の方を読めば、俺が説明するより正しく理解できる筈だろうよ。もっとも、まだ部外者であるお前達に持ち出されても困る。ここで読むだけな」

 そこまで言って、店主は「む?」と顔を歪めて、一言。

「お前たち、字の読み書きは?」

「…………」

 それには答えず、エンダーは本を受け取ると素早い手つきで頁を捲る。
 そして数秒の間の後、○○に辛うじて聞こえるくらいの大きさで呟いた。

「……読めるな。○○はどうだ?」

 覗き込み、本の中を見る。横書きで記された文は初めて見るものであったが──何故か意味が汲み取れる。もっともそれはかなり漠然としていて、どうも据わりが悪い。恐らくは、“挿入栞”の力による強制的なものだろうか。
 まぁ、一応は読める。そうエンダーに小さく答えると、彼は店主の方に向き直り、

「なら──オッサン、ちょっと俺達これ読んで勉強したいんだが、“試し”ってのはその後でいいか?」

 対して、店主は○○達が渡した紹介状を纏めながらひらひらと手を振った。

「構わんよ。それを読んで判らないところがあれば、そこで俺の方に尋ねてもらえばいい。俺は仕事に戻るが……立ったまま読まれると正直目障りだ。そのへんのテーブルでも使いな」

 拒絶する理由も無い。手近なテーブルに移り、 エンダー達と顔を突き合わせて本を開く。

「○○。まず押さえておくべき所は、この組織がどういうものか、 だ。もし係わり合いになるのがヤバイ類なら即座に逃げるぞ」

 異論は無い。エンダーの小声に僅かな頷きだけで返して、 ○○は頁を捲る。

「他には……当たりをつけるのがムズいな。 先刻オッサンが言ってた言葉辺りか。禁領とか、探求者とか。 その辺の言葉が何を指すのかを把握したら、即返すぞ。 あんま長々と見てるのも怪しいしな。 今は最低限の事だけ知っておけばいいだろ」


 エンダーの言葉を耳に入れつつ、視線と意識は手元の本へ。 ぎっしりと文字で埋まった本から、該当する文字列を探す。

 ──禁領地域に対する調査探索を行う者達の支援を目的とした云々。
 ──忌種や禁種を始めとする禁領限定物の持ち出しについてはまずパーチに云々。
 ──聖堂院での宿木の活動は禁止されており、七王国内での活動は慧、辺、久、珂、仔、些国の六国に限定云々。

 にしても、
(特殊な用語が多すぎる……)
 エンダーの言う通り、今全てを把握するのは諦めて、 取り敢えず基本的な言葉だけを選び覚えるべきだろう。
 その中でも、詳しく知っておくべきものは店主から補足説明を受けるのが良いだろうが──さて、どうするべきか。

─See you Next phase─







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