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災いの足音

サヴァンの庭
ハギス牧場にて後
見張りを続けるを選択

 ○○○は見張りに集中している……。
 △△△は見張りに集中している……。
 □□□は見張りに集中している……。

     ***

 すでに陽はとっぷりと暮れ、空には月が青白く輝いていた。
 放牧されたハギスは思い思いの場所で眠っており、辺りには風と虫の声だけが響いている。

 ○○○とマリーは周囲の木々で身を隠すよう注意を払いつつ、 丘の上を歩きながら周囲を見張っていた。

「……来た! こっちよ○○○!」

 マリーが声を上げる。
 ○○○が振り返った時には既に、彼女は駆け出していた。

(案外、この人もハリエットと似たようなタイプだな……)

 マリーの後を追って丘を駆け下りながら、そんなことを考える。
 彼女が向かう先には、闇に紛れて歩く人影があった。

     ***

「そこまでよ!」

 マリーが走りながら、威勢よく声を上げる。

「……おや」

 人影がこちらを振り向いた。しかし、暗くて顔は良く見えない。

「びっくりしたな。ここの牧場の人かい?」

 男だった。声は若いが、子供という程ではない。
 長い袖の黒服を着て、両脇に何かを抱えている――ハギスだった。




「そう言う貴方は誰? 牧場のハギスを増やしていたのは貴方でしょう?」

 マリーが追求する。それなりの速さで駆けてきたばかりだが、マリーも○○○同様、 息は上がっていない。

 ふむ、と青年は少し逡巡するような様子を見せてから、両手のハギスを軽く抱えなおした。
 ハギス達が青年の腕から逃れようと、三本の足をじたばたさせる。
 どちらのハギスにも認識票はついていないように見えた。

「――養殖されたハギスは、臭みや苦味が無くて口当たりが良い」

 言いながら青年は前かがみになり、両脇でじたばたと暴れるハギスを草の上に降ろした。
 途端に二羽のハギスは勢い良く走り出し、夜闇の向こうへと姿を消してしまう。

「だが、それゆえにハギスが本来もつ味の深みが失われている。そう思わないか?」

 ハギスが消えるのを見送ってから、青年はゆっくりと振り返った。
 この距離では彼の人相ははっきりしない。だが、月明かりを弾く銀色の髪は印象的だった。

「……私の味覚を試そうっていうの?」

 マリーが怪訝そうに言う。

「そんな大げさな話じゃないが……。うちのお嬢ちゃん達がさ、言うんだよ。 『天然のハギスは苦い! 不味い! 養殖モノを持って来い!』ってさ……」

「人それぞれ好みがあると思うわ」

「俺としては天然ハギスの方が、遥かに美味いと思うんだけどな。あんたはどうだ?」

 銀髪の青年は○○○に話を振った。突然そんなことを訊かれても対応に困る。
 だが、彼は恐らく、言葉とは裏腹にそんなことはどうでも良いと思っている―― なんとなくそう直感した。

「それで……養殖ものが嫌いだから、天然のハギスを牧場に紛れこませていたのね!?」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

 青年は歩いてこちらに近づきながら、懐から掌サイズの何かを取り出した。 小さな紙箱のようだ。

「さっきも言ったけど、子供ってのは養殖ハギスの方が好みらしくてね。 彼女達の御命令に従い、俺は養殖ハギスを調達しに来てるわけ」

 青年が手の中で紙箱をくるくると回した。慣れた手つきで封を破ると、 中からカードの束が顔を覗かせた。
 一体、何のつもりなのだろう?

「ただ俺は、一羽頂戴するごとに天然モノを二羽放してやってる。つまり、これはトレードだ」

「なんてこと……。ハギスは一羽増えたんじゃなくて、一羽減って二羽増えていたのね」

「そういうこと」

「それでも犯罪には変わりないわ。むしろ窃盗が加わって、より一層犯罪になったわ」

「そんな気はしたよ。で、どうする? 今日はまだ野良ハギスを放しただけで、 養殖モノは頂いてないんだが」

「もちろん止めるわ! 必要なら、力ずくでも」

 マリーが徒手で構えを取る。

「それは困った」

 全く困っていない様子で青年が言った。
 既に彼の顔つきが充分確認できる距離になっている。 明らかに状況を楽しんでいる表情だった。

「じゃ、俺もちょっと抵抗してみよう」

     ***

 青年が右手にそろえたカードの束を軽くたわませ、指先で弾いた。
 カードは美しい軌跡を描いて宙を滑り、 一切の淀みなく右手から左手へと流れるように移動した。

「……貴方、何者なの?」

「通りすがりの手品師」

 青年は左手だけでカードを扇状に開いて見せた。

「一枚引いてみる?」

 開いたカードの束を差し出したが、マリーが訝しげな表情を見せて構えを解かない。
 彼女の瞳には、今までと少し違う警戒の色が浮かんでいるように思えた。

「こんなこともできる」

 青年は再び右手にカードの束を持つと、宙を撫でるように大きく掌を滑らせた。
 その軌跡に沿って一枚一枚ばらけたカードが、 まるで見えない壁に貼り付けられたかのように次々と空中に固定されていく。

「えっ!?」

 マリーが驚きの声を上げた。
 青年が指を鳴らすと、張り巡らされたカードの列は彼を幾重にも取り巻いて、 その周囲をゆっくりと回り始めた。

「種も仕掛けもありません」

 にこやかに笑んだ青年の瞳の奥に、挑戦的な光が宿った。
 どうやら、ただの手品師ではなさそうだ。

銀髪の手品師
銀髪の手品師


     ***

「君ら、随分と強いな。正直おどろいた」

 銀髪の青年は感心したように言うと、さっとカードを束ねて手の内に仕舞いこんだ。



「それはこっちの台詞よ」

 マリーは地に膝をつき、左肩を抱いている。
 青年の奇妙なカードにより傷を負わされたようだった。

「とはいえ、そろそろ退散させてもらう。あまり遅くなると叱られるんでね。 ――帰るぞ、メルキオール」

「はーい」

 青年に呼ばれ、どこからか少年の声が返ってきた。
 ごく近くで声が聞こえたはずなのに、見回しても周囲にそれらしき姿は見当たらない。

「待ちなさい! 貴方、本当に何者なの? 今のはまだ本気を出していないでしょう?」

 マリーは立ち上がり、青年が背を向けて歩き出すのを呼び止めた。

「お互い様だろ? やっぱり殺気の無い相手はつまらないよな」

 青年は首だけで振り返ると、軽く片手を広げて「さよなら」のジェスチャーを見せた。
 次の瞬間、彼の姿はそのままの姿勢で空間に溶けるようにして掻き消える。
 彼を追いかけようと走りかけたマリーが、勢いを削がれて軽くたたらを踏んだ。

「あれ、ユベールさん、ハギスは?」

 先ほどの少年の声が再び周囲に響く。

「ああ、忘れてた。面倒なのがいるから、あっちの方で拾っていこう」

 ユベールと呼ばれた青年が、姿を見せないままそれに応えた。

「待ちなさい、一つだけ言っておくことがあるわ!」

 マリーの声が月夜に木霊した。そのまま周囲を見回しながら数歩あるき、反応を待つ。
「何だ」とユベールの面倒そうな声がした。

「養殖ハギスの本場はここじゃない、ボーレンスよ。こう言っちゃなんだけど、 ここの牧場のハギスの質は良くないわ!」

「なんだと」

 ユベールの愕然とした声。

「ボーレンス……そうか」

 その言葉を最後に、牧場から彼らの気配は完全に消え去った。

     ***

「彼、普通に手品で稼いでハギスを買ったほうが早いんじゃないかしら」

 マリーが左肩を抱いたまま、○○○を振り返る。
 彼女は微笑んでいたようだが、その表情はどこか悔しそうにも見えた。

 確かに、犯人を取り逃がしてしまったのは残念だ。しかし、 とにかく怪異の原因は判明した。
 さっきの青年も本場がここではないと知ったからには、 次からボーレンスにでも移ってくれるのではないだろうか。
 本質的には何も解決していないに等しいが、 この牧場に起こった問題に限っては、一応解決したと言えなくも無い。

「まさか……あれが“介入者”?」

 マリーが衣服の裾を払いながら、誰にともなく呟いた。

“介入者”というのが何なのかは良くわからないが……。 さっきの手品師が、ボーレンスに現れる可能性はある。
『指輪を返す』などと言っていたハリエットのことも気になるし、 暇を見てボーレンスに行ってみるべきかもしれない。

─End of Scene─





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