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地図から消えた村

【備考】
"街道にて、その後"終了後
ゼネラルロッツ→リンコルン→黒猫商会


「えー!? 売れちゃったのー!?」

 黒猫商会に向かって歩いていると、前方から少女の素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 どこかで聞いたようなその声に釣られ、やや歩調を早めて歩く。
 と、声の出所は黒猫商会ではなく、どうやらその隣の建物のようだった。

「もー! なんで売っちゃうんだよバカバカにゃんこ! やっとボーレンスからここまで来たのにさ!」




 入口の扉を全開にしたままで声を上げているのは、やはり先日街道で出会った泥棒少女、 ハリエットだった。
 彼女は入ってすぐの場所でカウンターデスクに両手をつき、一匹の猫妖精と向かい合っている。

 黒猫商会の中ならともかく、その隣家にまで猫科の生物が住んでいるとは知らなかった。
 建物には看板もショーウィンドウも見当たらないのだが、内部の様子から察するに、 どうやら何かの商店であるらしかった。

「ま、まぁ落ち着いて下さいニャ……人が見てますニャ」

 店主と思しき黒猫が、店先から中を覗いていた〇〇を指して見せた。
 その格好はまるきり黒猫商会の店主と同じ雰囲気――というより、 あちらの店主と見分けがつかなかった。
 やはり系列のお店だったりするのだろうか。

 ハリエットは首だけを向けて〇〇の姿を確認すると、あ、と短く声を上げた。

「お連れの方でしたかニャ〜?」

「え、いやー、何だろ? 知り合い……かな? あはは。まあ、あれはほっといて良いから」

 ハリエットは愛想笑いを浮かべて、ひらひらと手を振った。
 こちらとしては彼女に言ってやりたいことが無いでもないが、 それよりも今はこの店自体が興味を惹いた。
 一体、何を扱っているところなのだろう?

「……んー、中に入るなら、ついでに扉を閉めて頂けるとありがたいですニャー」

 名残惜しそうに立ち尽くす〇〇に向かって、店主が言った。
 どうしたものかと迷っていたが、それならば、と意を決して〇〇も店に入ることにした。
 もちろん、入口の扉を行儀良く閉めておくことは忘れない。

「あれ、入るの? 何か狭苦しいなー」

 ハリエットが言う通り、店内はそう広くは無かった。
 四方の陳列棚には様々な道具が所狭しと並んでいるが、 殆どは使い古されていたり半分壊れていたりする。

 骨董屋とも微妙に異なる雰囲気だが、値札を見ると捨て値のものから結構なお値段まで様々だ。
 一体どういうお店なのだろう?

     ***

「こちらの方は当店は初めてですニャ〜。ここは“野良猫市場”というケチなお店ですニャ」
 店主がもみ手をしながら〇〇に愛想笑いをした。
 野良猫市場――単独のお店なのに、“市場”で正しいのだろうか。

 あるいは、一軒の店に見えるが、実際には見えない売り手が裏に複数いる……のかも知れない。

「そちらにある黒旅券なんかは今オススメの逸品ですニャ〜」

(黒……?)

 言われて店主の指す品物を見ると、 掌に収まる程度の小さな板切れに目玉が飛び出るような値がつけられていた。
 木製の板は四隅が小さな金具で補強されており、 表面には角度によって色を変える妙な模様が入っている。
 これが、この辺りで使われている旅券か――。

 国境検問所を抜けるために必要な旅券、その実物を、〇〇は初めて目の当たりにした。
 しかし、残念ながら〇〇の所持金ではとても買えそうにない。
 というよりも、そもそも売る気があるのかどうか怪しいほどの無茶な値段付けだった。

「最近需要に対して供給が全く追いついていませんのでニャ〜。価格もちょっぴり急騰中ですニャ」

 店主がニコニコしながら旅券を手に取り、裏返して見せる。その裏面には、 見知らぬ人名が記されていた。
 ……察するに、それは本来の持ち主の名前ではないだろうか。

「ちなみに当店は黒猫商会さんとは一切なんの関係もございませんニャ。 ここはあのようなクリーンなお店とは全く似ても似つかぬ場所ですニャ」

「そんなんどうでも良いから。で、例のやつ買ったのは誰なの? この辺の人だった?」

 そういうのはちょっとニャー、と黒猫が目を細める。

「我輩は知らないし、知っていたとしても、もう忘れてしまったみたいですニャ」

 言って、店主はハリエットにちらりと意味ありげな目配せをして見せた。

「あー、はいはい。それってアレでしょ。お決まりの文句ってやつよね」

 ハリエットは足元に置いた荷物の中から小さな布袋を一つ取り出し、カウンターの上に無造作に放り出す。
 袋の中から、硬貨の触れ合う音がした。

「ほれ! これで思い出したか!」

 どん、と自信ありげにハリエットがカウンターに両手をついた。

 黒猫は袋の中身を確認しながら「むーん」と小さく唸ると、首を横に振った。

「ここまで出掛かっているんですがニャ〜」

 黒猫は愛想笑いをしながら、机の引き出しに袋を仕舞いこんだ。
 ハリエットがわなわなと震え出す。

「こ、このクソ猫……!」

「ま、まぁ落ち着いて……しかしですニャ、あの手の物――つまり、 ルーメンの村に関係した品物ですニャ。これは結構値が張りますニャ。ご存知ですかニャ?」
「そんぐらい知ってますー!」

 ハリエットは頬を膨らませる。

「参考までに言っておくと、あの指輪は今の袋が100揃いあっても、 全然さっぱり足りない値段ですニャ。……果たして、 お客さんにはそれだけのお金のアテがあったんですかニャ?」

 う、とハリエットが声を詰まらせた。
 店主が笑顔で彼女の顔を覗き込む。

「まさか、よりによって当店から盗み出すつもりだったんでは無いでしょうニャ〜」

「ま、まさかねー!」

 ハリエットは言って店主から視線を逸らした。

「なんかこう……ちょっと記念に見てみたかった……みたいな?」

「記念なら仕方ないですニャー」




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