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それは小さな世界

ディーファの自由帳へ


“白と緑の城”の上層にある“主の書室達” の更に上。城の最上階に近い一室。
“箱舟”エルアーク全体の管理を務める存在。つ まり、ツヴァイが暮らしているのが、ここである。

 その部屋は少しばかり奇妙な構造をしていた。
 大きく取られた正方形の空間の下半分に、天井 付きの三つの部屋と、屋根なしの一部屋。
 屋根の無い部屋からは他の部屋の屋根上へと続 く小さな梯子が渡されており、その先には、他三 部屋の天井部分を床とした空間が、広く取られて いるらしい。
 今居るのは、その内の下部にある屋根無しの小部 屋だ。廊下へと繋がる扉が在り、言ってみればエントラン スの役割を果たすこの部屋は、生活臭溢れる様々な品 に満ちていた。
 模様は独特だが、個性自体は控えめな薄手の敷物。 壁や室内を飾る調度品はあまり統一性が無く、移り気 な者か、協調性の無い複数の人間が己の感性だけで 彩ったような何処かちぐはぐな雰囲気がある。
 窓は上部、天井に近い位置に設けられており、張ら れた硝子に細工でも施されているのか、降り注ぐ陽光 はまるで木漏れ日のような柔らかさを持っていた。

 そんな部屋の、中央に置かれた年代物の丸 テーブル。四脚置かれた椅子の一つに腰掛けた 〇〇に、ツヴァイは振り返る。

ディーファの自由帳

「これが、御話ししていた指導用の単 書。名を、“ディーファの自由帳”と言います」

 言って、彼女は部屋の隅に置かれた本棚か ら取り出したそれを、〇〇に見せてくれた。
 が、

(本というか……)

 よくよく見ると、彼女が持つ本とやらは 酷く薄い。表紙もあってないようなもので 、綴じ方もいい加減。本というよりも何か の帳面に近い。
 疑問の視線に、ツヴァイは少し目を逸らした。

「これは元々はディーちゃん──私の妹 の“述具”練習用の簡易単書です。普 段使っている指導書はもっとちゃんと してるんだけど、ちょっと諸事情があ りまして、今日は代理としてこの書で 指導を行います」

 そういえば前にもそんな事を言っ ていたが──“諸事情”とやらにつ いて、まだ詳しく聞いてないのだが 。
 そのことに水を向けると、ツヴァイ は笑顔のまま暫く黙って、

「零したんです。お茶を。本の上 に。不精して机の上に置いていた ら」

「…………」

 ツヴァイの開き直ったかのような返答に、〇〇 は生暖かい視線と沈黙。どうもこの少女、外 見や口調の割に意外とものぐさというか、い い加減な性格のようだ。

「えーえー、私のミスです申し訳ありませんで した! ……それで、話を戻しますけれど!」

 ツヴァイは声を荒げ、こほんと咳払い 。常が笑顔であるために、内に籠るよ うな怒り方をされるとどうにも触れが たい雰囲気を醸し出すが、こういう時 は逆に微笑ましい。
 とはいえ、あまり拘ってこれ以上機 嫌を悪くするのも得策ではないだろう 。〇〇はさっさと話を元に戻す。
 その彼女が持っている冊子のような もので指導するとして。

「はい」

 自分はどうすればいいのだろうか。

「まず“挿入栞”を出してくださいな。私が お渡しした、あの剣みたいな形の」

 言われて、〇〇は懐からそれを取り出す 。手の中から少しはみ出る程度の大きさ の、確かに彼女の言う通りの、剣に似た 形をした奇妙な物体。

「それを、この本の適当な所──ええ と、一番最初の頁に挟んでください。 後はこちらがやります」

 それだけで良いのだろうか。
 少し気負っていた〇〇が、拍子 抜けしたように呟くと、ツヴァイの笑 顔が何故か輝きを増した。

「何でしたら、細々と、長々と説 明して差し上げても構いませんけ ど?」

 その口元が、露骨に引きつっているの が判った。どうやらまずい所に触れた かと〇〇は反射的に視線を逸らして、 言及を避ける。
 そんな〇〇を彼女はにこにこと眺め 、それで溜飲が下がったのか話を戻す。

「取り敢えず、〇〇さんの栞を、こ こに置いていただければ。あれこれ 話していても話が進みませんので、 後はもう中で御話ししましょう」

 そう言って、ツヴァイは手にした本 の最初の頁を開き、〇〇に向かって 差し出した。
 〇〇は少し迷いつつも、開かれた 頁の上、黒いインクによって幾何学模 様のような文字が並ぶその上へと栞 を添える。


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