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章間[続き]


「さて、今日は何すっかなー。もう箱舟は大体回り終わったし、暇潰そうにもなぁ……。〇〇は昨日、何してたよ?」

 聞かれて思い返す。
 昨日は確か、庭の方で木霊と一緒に延々散歩をして過ごしたのだが、歩けば歩くほどついてくる木霊の数が増えて、最終的には後ろが凄い事になっていた。あれだけの数になると、彼らが移動時に出すあの独特の音が煩い煩い。

「いや、そうなる前に途中で追っ払えよ」

 追い払おうとすると、木霊達は目と思しき縦線を何やら非常に悲しそうな形にして、遠巻きにじっとこちらを見つめてくるのでとてもやり辛いのです。

「……厄介だなぁ」

 実際、難儀な話だった。
 そういうエンダーは、昨日は何をしていたのだろうか。確か顔は合わさなかった筈だが。
 空になった瓶を手の中で転がしつつ〇〇が話を振ると、エンダーは視線を遠く、青々とした空の向こうへ投げて、沈思の数秒。

「何してたんだったかな。ええと確か……あ、そうそう。黒星のところで、この前の件の迷惑料をなんかブン取ろうとしたら、逆に掃除を手伝わされた」

 駄目だろうそれ。
 思わず反射的に突っ込む〇〇だったが、エンダーは肩を竦めて、

「つーかお詫びに何か関連付けしてやろうにも、栞がツヴァイのとこにあるから出来ねーって言われてな。そうなるとやる事もねーし、ダラダラ話するついでにって感じだな」

 成程。何をやるにも栞、栞、栞、か。

「そういう事。……ああそういや、その時にネズミの素性をいくらか聞けたんだけど、あいつ、元は俺らと一緒なんだってな。知ってたか?」

 数日前に准将と世間話をした時に、そんな話になった記憶がある。
 その時の話では確か、ツヴァイは他世界からの越境者で、准将と木霊、杜人は箱舟製造時にまで遡る旧世界の遺産。
 黒星、老師、鬼腕は古く挿入栞が無かった時代に書世界から抽出された古い古い“迷い人”で、そして歌子は、『大崩壊』以後延々と空を飛んでいた箱舟に偶然立ち寄り、止まり木とした現世からの来訪者、と言っていたか。
 聞いた話をそのままエンダーにすると、

「へぇー、俺が聞いたのは黒星だけだけど、他の連中ってそんななのな。……ってか」


 彼は感心したような声をあげ、そして首を捻る。

「他世界からの越境者とか、現世からの来訪者とか、どういう意味だそれ?」

 他世界とは、文字通りこの世界とは別の世界。正確には他概念世界と言っていた。群書や単書で構築されたものではなく、正真正銘の異世界とやらからツヴァイはこの世界へとやってきた――らしい。
 現世からの来訪とは、要はこの海と空と雲しかないこの世界の何処かから、歌子はふらりと箱舟に飛んできた――らしい。
 自分が受けた説明をそのままエンダーに話してやると、少年はなんとも言えない微妙な表情を浮かべた。

「無茶苦茶だな」

 全くだった。

「ふーん。……しかし、現世からの来訪ねぇ」

 と、そこでエンダーは両眼を細く絞り、小さく鼻を鳴らして。

「って事は、あれか。姫様が言ってた“落丁を起こしてる存在”ってのも、目星つけるとすりゃその辺になんのかね?」

「?」

突然のエンダーの発言。話の繋がりが判らず、〇〇は怪訝な顔で彼を見た。

「いや、だからさ。あの鳥の姉ちゃんが箱舟の外からやってきたってのなら、箱舟の外にも人――っていうのか判らんけど、少なくとも似た奴等が生存してるって事だろ。つーか、それならまず鳥姉ちゃんに話聞くのが先決なんじゃねーの? 箱舟の外から来たんなら、外の情報も持ってんだろ?」

 確かにそうだとは思うが、ツヴァイ達が歌子にあれこれと事情を訊いている様子は見受けられない。
 となると、ツヴァイは〇〇が知らない情報を元に、歌子が関係する外の者達を“落丁を起こしている存在”の候補から除外しているか、若しくは歌子に話を聞いても無駄なのだと判断しているか。
 後は、今更歌子から改めて話を聞く必要も無い程、ツヴァイ達は歌子の情報を得終えているという線もある。
 〇〇が冷静に考え、まとめた事を口にすると、エンダーも納得したように小さく頷く。

「ま、そのへんか。後は、箱舟内部の犯行って可能性も捨てらんねーとは思うけど。てか、可能性でいやぁそっちのが高い筈だよな。だって、単書とか群書とかってのは箱舟の中にあるもんで、ならそのアクセスも箱舟の中でのみ出来るって考えるのが普通だし、姫様達も本へ何かをするときは、結構物理的に接触したりしてるしな」

 けれども、箱舟の住人はそもそも数える程しか居らず、その行動を把握、相互監視するのは容易だろう。
 そしてその結果、ツヴァイは箱舟内部ではなく外部に原因を求めたのではないのだろうか。

「うん。そもそも、箱舟に居る奴等がそんな事する理由もわかんねーしな。まぁ“やる理由がないから”ってのは大して当てになんねーんだけど。現実は推理物の御話とは違って、理由無くてもやる奴はやるからな」

 その話には同意しないでもないが――ならばエンダーは、箱舟の住人の誰かがツヴァイの目を盗んで“落丁”を起こしていると、本気で考えているのか?
 〇〇が少し表情を改めて問うと、エンダーはそれを受け流すように、軽い笑みと共にひょいと肩を竦めてみせる。

「さてなー。あくまで“可能性はある”って話してるだけだし。そもそも、あの“揺らぎ”ってのが、ホントに何かが現れようとしている最中なのかってのも、俺らにゃ判らんしな。俺らが持ってる情報なんて大した量でもないし、ウソかホントかを見極める方法も無いと来た。こんな状況じゃ、そりゃ可能性を絞るのも無理ってもんだ。ホント、膨らませて楽しむ暇つぶしの会話のタネって程度にしかならんだろ」

 例えばほら、今こうして話してるみたいにな、とエンダーはけらけらと笑ってみせた。

「第一、俺らの仕事は考える事じゃねーし。姫様からのお願いは、姫様が考え、対処するための材料になる情報を書の世界で探して、それっぽいのがあれば報告。そんで仕舞いだ。あんましマジに考えず、軽く行こうぜ、先輩さん」

 軽すぎるのもどうかと思うが、何かを推測する程情報が無いという彼の言は確かにその通りだ。
 結局、今は兎に角動いて、集めるときなのだろう。
 全てはまず、それから。

(問題は、その動く事すら今は出来ない点だけれども……)

「さて。んじゃま、食後の休憩はこの辺りでお終いにして、今日は一緒に動くか? 先刻話にも出た事だし、ちょいと“硝子天蓋”の方で鳥の姉ちゃんの歌でも聴きに行こうかと思ったんだけど」

 先程の件について、歌子に軽く話を聞いてみるのも悪くは無いだろう。
 〇〇は頷いて木の幹から立ち上がり、エンダーと連れ立って飛び降りて石の床へと着地。

 と、そこへ。

「――エンダー。〇〇。」

 突然聞こえた声に、〇〇とエンダーは動きを止めた。
 顔を向けると、庭園の向こう、屋内へと続く出入り口に、黒髪の人影が一つ。

「アリィか? どした?」

 エンダーが彼女の傍へと近づいて問うと、彼女は茫と視線を彷徨わせてから、エンダーと、そして後ろに続いた〇〇を見て、

「伝言。ツヴァイから、です」

「姫様から? 何、お前、朝からいねーと思ったら姫様のところに行ってたの?」

 アリィは小さく頷く。そして軽く喉を押さえると、

「それではアリィさん。〇〇さんとエンダーさんに、こう伝えていただけますか? 今、漸く挿入栞の準備が整いましたので、これから“ジルガ・ジルガ”への仮記名を行います。お二人共、直ぐに“円環の広間”の方へ来て下さいな。記名可能期間まで猶予は殆どありませんので、出来ましたら御早くお願いします。以上です、宜しくお願いしますね」

「…………」

 なるべく 正しく伝えようという意気込みは立派だとは思うが、前後に多少要らない部分が混ざっているような。
 〇〇とエンダーはお互い渋い表情で顔を見合わせるが、言及するのも面倒とそのまま流そうと目線だけで意見を合わせた。

「……まぁ、取り敢えず話は判った。んじゃ、俺らはちょっと部屋戻って準備してから向かうから、後でな、〇〇」

 エンダーはアリィを促すと、“黒煎の客間”がある方へと廊下を歩きだす。
 〇〇も、自分に割り当てられた客室に戻るかと彼等に背を向けかけたところで、

「――そういや、〇〇」

 と、去りかけたエンダーがふと思い出したように名を呼んだ。
 振り返ると、エンダーは軽い笑みと共に、

「さっきの話。どうやら、三番で正解だったみたいだな」

 ……そういえば、そんな話もしていたか。

―See you Next phase―






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