TOP[0]>攻略ルート選択 >リザルトTOP

少女の世界



記憶の結界



戦闘省略

    ***

 ――殺さないで!

 突然、ピーテルの声が辺りに響き渡った。だが、見回しても彼の姿は無い。

 ――どうして?

 今度は女性の声が、不思議そうな調子でそれに答えた。 こちらも姿は見当たらないが、サナトリウムで何度か聞いたことのある声だった。 少し落ち着きのある、大人の女性の声――。

(……あの時の看護師の声だ)

 ○○はそれを思い出した。再びピーテルの声が室内に響いた。

 ――蜘蛛は益虫なんだ。なにも殺さなくたって良いでしょ?

 ――こんな大きいのがいたら、気持ち悪いじゃない。

 看護婦は笑いながら言ったようだった。
 ピーテルが何事かを言い返す。だが、その声は途中から残響音だけを残してかすれ、 聞き取れなくなった。

「これは……蜘蛛の能力なのかな? それとも……」

 ようやく窓を乗り越えてきたユルバン神父が、室内を見渡した。
 病室の風景はそれ自体が白くにじみ出し、少しずつ霧へと変わり始めていた。 部屋の隅でじっとしていた大蜘蛛の姿も、同様に薄れて消えて行く。

 やがて、視界は白一色に染められた。

     ***

 涼やかな風が吹き抜け、白い霧が晴れた。

 さっきまであったサナトリウムの風景は、跡形もなく消え去っていた。
 代わりに現れたのは、あたり一面花の咲き乱れる夜の丘陵地帯。 この夢の中に入った時、最初に見た光景だった。

 この場所ではあれからほんの少ししか時間が経過していないのか、 あるいは逆に、もう何日も経過しているのか、それは判らない。
 だが、今は遥か彼方に見える稜線がほのかな明るみを持っており、 夜明けが近いことを感じさせた。

「……また、来たのね」

 前方に見える丘の上、大樹を背にして黒髪の少女が言った。
 彼女の隣では、もう一つの人影がぼんやりした顔で座っていた。 栗色の髪をした、寝間着のままの少年――ピーテル。

     ***




「ピーテル! 目を覚まして!」

 ハリエットが叫んだ。

「……どなたですか?」

 ピーテルはぼんやりと丘の上に座ったまま、不思議そうな顔で小さく首を傾げた。

「あの女は私達の敵よ、ピーテル。貴方をどこかに連れて行こうとしているの」

 少女は諭すようにそう言うと、首だけをこちらに向けてにやりと笑って見せた
 もはや間違いはない。彼女こそが、ピーテルをこの夢の中に捕らえた張本人だ。

「そうかな……何か引っ掛かるけど……」

「気にしなくて良いの!」

 少女が言って、少しぼんやりとしている少年を立ち上がらせる。 彼女は、そのまま彼を大樹の後ろへと追いやった。

「ピーテルはここに隠れてて。私が呼ぶまでじっとしてるの」

 言って、彼女は根元近くに空いた大きなうろに、 少年を隠すようにして押し込む。○○達の場所からは、 ちょうど死角になっていた。

「……すぐ終わるからね。絶対、途中で出てきちゃ駄目だよ」

 少年はうろの中で、膝を抱いたまま頷いた。ハリエットは声を荒げ、 姿の見えなくなったピーテルに呼びかける。

「ピーテル、あんた解ってるの!? そいつの正体は、――なのよ!?」

 そう叫んでから、ハリエットは自分の言葉に驚いた。

「え?」

 ハリエットは“蜘蛛なのよ”と言ったつもりだった。なのに、 肝心な部分だけ声が抜け落ちていた。
 大樹の脇に立つ少女がハリエットを振り返り、口の端を歪めて笑う。

「私の世界で、勝手な事はさせない」

「あんたがやったの? ……器用なやつ」

 ハリエットは言って、ナイフを取り出した。

「ピーテル! すぐに目を覚ましてあげる!」

 ハリエットが姿の見えないピーテルに向けて声を掛ける。少年の答えはなかった。
 白いワンピースの少女はハリエットを見据えると、憎しみの篭った目を爛々と赤く輝かせた。

「――ピーテルは渡さない」


 彼女が両手を広げる。その背が、ぼこりと膨れ上がった。
 絹を裂く音がして白いワンピースの背が破れ、そこから醜く刺々しい蜘蛛の脚が、
ぞろりと這い出す。

「渡さないったら渡さない!」

 少女は両手と蜘蛛の脚を広げ、力の限りに叫んだ。
 彼女の背後では稜線がほんのわずかに赤みを帯び、 暗い夜空は澄んだ青へと色を変え始めている。

 ○○は無言で少女に向かい立ち、静かに武器を構えた。

 ――まもなく夜は明け、ピーテルの夢は終わる!

     ***


夢織りの蜘蛛(結構強そう)が現れた!



─See you Next phase─





画像、データ等の著作権は、 Copyright(C)2008 SQUARE ENIX CO., LTD./(C)DeNA に帰属します。 当サイトにおける画像、データ、文章等の無断転載、および再利用は禁止です。