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食堂(スギヤマ登場)



 僕たちは、行動力や統率力のありそうな労働者たちを慎重に選んで、 労働者解放の計画を持ちかけることにした。
 工場には、さまざまな人間がいる。
 やみくもに勧誘するより、向き不向きを見極めてからのほうがいいだろう。
 僕とスズは食堂で何度も待ち合わせをし、候補となる人物のリストアップを進めていった。
 そんなある日だった。

 一日の労働を終えた僕のところへ、一人の若い男が語りかけてきた。
 年齢は、20代半ばくらいだろうか。

「名波 岳(○○)さん、ですよね?」

 番号ではなく、名前で呼ばれるなんて久しぶりだった。
 僕は一瞬うろたえたものの、監視に怪しまれぬよう、平静を装って返事をした。

 男の名は、「スギヤマ」という。
 スギヤマによると、ここ数日、食堂での僕とスズの動きを見て、脱獄の動きを知ったという。
 自分もずっと前から工場からの脱出を計画し、実行の日を待ち続けてきた。
 今こそがそのチャンスだ。
 ぜひ、労働者解放のために協力させて欲しい、とのことだった。

 正直ショックだった。
 僕とスズのたびたびの逢瀬−−実際はそんなロマンチックなものじゃないけど−− を見られていたのだ。
 しかも脱獄の計画を知られていたなんて。管理側の人間に知られたら、死刑だってあり得る。
 ある意味、この計画が僕とスズ以外の誰かに知られた時点で、失敗なのではないだろうか。

 肉体を酷使することには慣れていたけど、精神的にこんなダメージを受けたのは久しぶりだった。
 僕は、思わず折れそうになる心をぐっと抑えて、考えをめぐらせた。
 この計画は、まだ失敗にはできない。僕だけのものじゃなく、そう、スズがいるからだ。

 −−つまりこうだ。
 脱獄の計画を知られたしまったことは確かに失敗だ。
 しかし、知られた以上は、口外を防ぐ意味でも、もはや仲間に引き入れるしかない。
 それに、このスギヤマという男なかなか洞察力があるようだ。
 僕とスズのやり取りを見ていて、いざ仲間探し、という絶妙なタイミングで声をかけてきたのだ。
 むしろ、この男の能力を買ってやるのも悪くないのではないか。

 僕はスズに相談すると言い残し、その場を去ることにした。

 その後のスズの回答は、こうだった。

「願ってもないことじゃない。ぜひ協力してもらいましょう。声をかけてもらってよかったわ」

 僕はスズの心の清らかさに感動するとともに、自分の疑り深さを恥じた。
 そうだ、こんな時だからこそ、誰かを信じなきゃいけない。
 僕もスズの一言でふっ切ることができた。

 数日後。
 僕とスズは、あらためてスギヤマと顔を合わせ、今後の相談をした。
 スギヤマによると、脱獄を成功させるために、力となってくれる候補が4人いるらしい。
 既に、工場からの脱出に協力するとの意思も確認しており、 あとはこちらから声をかければいいらしい。

「彼らは協力する意思はありますが、……戦闘能力や、 トラップを作る能力に長けている者ばかりです。 それ相応の見返りを要求してくる可能性があります」

 ならば、それに応えるまでだ。
 何も、無償で、全面的に協力しろとは言わない。
 おそらく、この脱獄に関わる人間は、誰もが命がけになるはずだから。

「4名の協力者は、この工場のどこかにいます。捜しだして、話をしてみてください」

 監視の目を避け、目立たぬように行動しなければならない。
 僕とスズは、無言で気を引き締めた。

「それと、もし、協力者の情報が知りたければ、食堂へ行ってください。 情報屋が教えてくれると思います」

 なるほど。まずは情報から入手するのも悪くない。

 さて、まずはどこへ行こう?



ーEnd of Sceneー


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