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食堂(スズとの出会い)



 やっぱり、行ってみよう! いたずらでもいい。
 ワクワクする感覚を思い出させてくれただけでも、ありがたいから。

 食堂の中央テーブルには、まだ誰もいなかった。
 本当に来るのだろうか?
 僕は、中央テーブルで、スープのようなカレーらしき液体をゆっくりとすすりながら、 監視の目と周囲の動きを全身で察知していた。
 
 そのとき、僕は見た。
 すすけた労働者たちのなかで、スポットライトを浴びたかのように輝く一人の女の子を。


スズ


 彼女は、食事の盆を抱え、僕をしっかりと見つめながら、しなやかな足取りで歩み寄ってきた。
 
 そして、彼女は、すれちがいざまに小さくつぶやいた。

「来てくれてありがとう。私は、明星 鈴(アケボシ スズ)」

 うん、かわいいいぞ。おまけに、いいにおい!
 これが、運命の出会い!?
 この世界に来てから、初めてあったいいこと。

 陥落だ。僕は、一瞬にして恋におちてしまった。

 彼女は、僕の背後の席に腰掛けた。
 監視の目を警戒しながら、背中越しに会話を交わす。
 この緊張感と、とぎれとぎれの会話も、恋をもりあげるにはうってつけのスパイスだ。

 彼女は、僕と同じ“魔法”能力だった。
 僕と同じようにコートの男に声をかけられ、この世界に来ていた。

 でも、運命彼女の考えは、僕の「あるがままに存在して、何も求めないこと」 という人生訓とは真逆のものだった。

 彼女は、世にも恐ろしい考えを僕に打ち明けたのだ。
『能力』を使って、労働者を解放する、と。

 いったいなぜ? そんなことをしたら、リンチで殺されるぞ。
 死ぬぐらいなら、今の生活に耐えるほうがましだ。
 なんで、自分から火の海に飛び込むようなマネをしなくちゃならないんだ!?
 僕は恐怖の妄想に硬直した。

 背中越しにしゃべる彼女に、僕のパニックが伝わっていないことが幸いだった。
 彼女は声を一層ひそめながらも、力強く断言した。

「みんなを助けられるのは、私たちだけ。きっと私たちは、この世界を救うために選ばれた、 アジテーターなんだよ」

“アジテーター”とは、みんなを先導するヒーローのことだ。
 僕はおぼろげな記憶をたどりよせるようにして、大学に入った日のことを思い出していた。

 大学の入学式の帰り道、怪しげな先輩からむりやり渡されたビラで読んだ。
 その昔、学生たちは、ヘルメットをかぶり、サングラスとマスクで顔を隠して、 角材を握りしめ、集結したという。
 腐りきった社会を改革するためだ。
 血気盛んな学生の中で、もっと熱く、 もっと切実に変革を願い小難しい言葉を並べたてて拡声器で演説するリーダー、 それがアジテーターだ。

 熱い、あつくるしい。まえのめりで、まっすぐで、迷いなどなく、まぶしくて。
 見てるこっちが、恥ずかしさで焦げそうだった。

 でも、そんなこと口が裂けても、彼女には言えない。
 彼女も生き生きと輝いていて、まぶしかったから。
 きっと彼女は、この戦いに生きる意味を見出しているんだ。

「スズって呼んで」

 彼女は、そうつぶやきながら、席を立ちあがった。
 待ってくれ、もう行くのか? っていうか、ぼくは何も答えてないのに!

 スズは再び僕の横を通り過ぎ、いいにおいと、丸めた紙くずを残して、去っていった。

 監視の目を盗み、素早く紙くずの中身を確認する。
 その紙には、小さな文字がびっしりと今後の計画が書いてあった。

 労働者解放のためには、たくさんの賛同者が必要だという。
 でも、今の状態では団結できない。

 第一に労働者は希望を失い、絶望して無気力であるため。
 第二に労働者をまとめあげるカリスマが不在であるため。

 そこで、まず僕たちが工場を脱走して、 城南地区・大崎にあるエアゾール製造工場をつぶしてみせるのだという。

 エアゾールっていうのは、僕たちが毎日シャワー代わりに浴びている消臭剤だ。
 あの怪しい芳香を放つ気体が労働者たちの思考や気力を奪い反抗心を抑えこんでいたらしい。

 つまり、工場を破壊してエアゾールの供給を断てば、 労働者たちの反抗心を呼び覚ますことができるのだ。
 同時に、僕たちが脱走に成功して、工場破壊すれば、 カリスマ性と実力を証明できて、労働者たちに希望を与え、 みんなの信頼とリスペクトを集めることができる。

 なるほど、一石二鳥のすばらしい作戦。

 でも、待ってくれ。こんな計画、無謀すぎる。
 僕は、絶対やりたくない!

 慌てて、目でスズを探す。
 食器を配膳口に返却した彼女は、ちょうど食堂から出ていこうとしていた。
 スズは、僕の視線に気づき、凛々しい表情でうなづきかける。


スズ


うわ、やっぱりかわいい。

 僕は思わず、力強くうなずいてしまった。

 スズはかすかに微笑むと、労働者の波に紛れて廊下へと消えていった。
 こうして、僕とスズの“アジテーター”としての活動を開始した。



ーEnd of Sceneー


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