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ストラルドブラグ

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「猊下!」

 聖公シエロ――
 聖職者をたばねる聖公庁の最高権力者にして、信仰の象徴。

 ルクレチアの民にとって、“神”にもひとしい存在であるシエロその人は、 ゆっくりと階段を降り、呆然とするモルトの前に立った。



「見事な勝利の褒美として、おしえてやるがよい。 ストラルドブラグの真実を」

 シエロの言葉を受け、魔女カルミネラが妖艶な笑みを浮かべた。

「“ストラルドブラグ”は、猊下みずから発案なされた、 “不死身の兵士”製造計画のこと――」

「そう。不死身の肉体と驚異の身体能力をあわせもつ、 理想の兵士――いわば神の兵士!」

 とり憑かれたかのようなシエロの叫びを、 モルトは呆然とみつめた。紅衣の魔女が、聖公のあとを受けた。

「無数の動物実験と人体実験をくりかえしたわ。野獣と人間を、 錬金魔術で合成する施術も試みた」

 ――あの獣たちが、それか。

 聖公庁にひそむ不気味な魔物たちのことが、脳裡に浮かぶ。

「そして最終的にたどりついたのが、 驚異的な自己修復能力をもつ魔獣の細胞組織を注入する方法。 拒絶反応には手を焼いたけれど――〈ウニオ・ミスティカ〉が役立ったわ」

 〈ウニオ・ミスティカ〉とは、モルトが敵から奪取した機密物資。

 彼はそれと知らず、カルミネラの実験を―― みずからを人間以外のものに変える施術を、手伝わされたのだ。

「不死身の身体は、通常なら肉体を破壊してしまうような、 超人的な動作を可能にした。あとは簡単に思えたわ。でも――」

 血の色をしたカルミネラのくちびるが薄く細められた。

「人間への応用はうまくいかなかった――なぜだと思う?  兵士の心が、壊れてしまうのよ」

 握りしめたモルトのこぶしが、わなわなと震えた。
 この女は愚かな実験のために、 いったい何人の人間を犠牲にしてきたのだろう?

 カルミネラの口上がつづいた。

「――でも、あなたの心は、それに耐え抜いた。 その不屈の精神。称賛に値するわ、少佐」

 聖公シエロは陶酔したかのように両手のひらを上にむけた。

「そう、貴様こそ人類初の“完全体ストラルドブラグ”なのだ!」

「シエロ――!」

 モルトが鋭く声を発した。低い体勢から、武器に手を伸ばす。
 聖公はカルミネラをみた。

「だが、カルミネラよ……こやつはどうも、 従順なストラルドブラグとは言えぬようだぞ?」

「――猊下。わが秘薬の力、ゆめゆめ侮りなさいますな」

 紅の瞳が妖しく輝く。

「ストラルドブラグをあやつる方法はふたつ。 ひとつは施術後に脳への血流を断ち、 脳髄を殺してしまうこと。自律意思を失ったのちも、 肉体は再生しつづけます」

「しかし、それでは――」

 さえぎる聖公にこたえて言う。

「そう、それは魔獣の再生能力だけを借りた“生ける屍”。 “完全体ストラルドブラグ”としてのすぐれた知覚力 ・身体能力は発揮できません。だから――」

 魔女はモルトにむきなおり、妖艶な笑みをみせた。

「そのままのあなたを、いただくわ!」

 カルミネラの右手がゆらりともちあがり、手のひらから、 暗灰色の粉がぱらぱらとこぼれ落ちる。

 ――錬金魔術の秘薬!

 モルトが攻撃姿勢をとった。

 ……だが次の瞬間、彼の精神を支配したのは、 盲目的な“恐怖”の感情だった。

「――ふふ」

 左手をかざしたカルミネラが、薄いくちびるの端をもちあげて問う。

「そう――ストラルドブラグと化した者に、わたしを殺すことはできない」

 魔女はそう告げ、そして高らかに笑った。

 モルトは、逃げた。
 心身を圧倒する昏蒙たる恐慌を制御できず、 彼は礼拝堂から逃げだした。

 闇雲に廊下を駆けぬける。

 その双眸は、人里の灯火を畏怖する、野獣の瞳そのものだった。

─See you Next phase─







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