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そして帰る現実

《フラッシュ非表示時》

 ♪いくつもの偶然が重なって
 いくつもの困難をのりこえて
 奇跡的に出会ってしまった

 何度も思いぶつけあい
 何度も気持ちすれちがい
 進む道は分かれてしまった

 不安そうにしてた君の顔 浮かんだら
 この空と月と星 見上げて祈る

 遠く離れていても つながっているのかな

 connecting mail
 着信音が
 connecting mail
 僕のもとへ君を
 connecting mail
 運びますように
 connecting mail
 メールが遠く離れたふたりをつなぎますように
 connecting mail

《フラッシュ表示の場合は↓から》

 サイレンの音の中から、次第にくっきりと聞こえ始める着信音。
 なじみのメロディ。
 その音で僕は目覚めた。

 けたたましい轟音。行き交う電車。押し寄せる雑踏。
 酒とタバコとゴミのにおいが混じりあい、むせかえりそうな空気。

 目の前には、“新宿”と書かれた看板がつりさげられていた。

 僕は、帰宅ラッシュでごったがえす新宿駅の山手線ホームでうずくまっていた。

 久しぶりに見た新宿駅は、記憶よりもグレーがかって見えた。
 スズがいないこの世界。
 それは、僕にとってどんな意味を持つ世界なのか?

 僕の中身と肉体が完全にずれてしまった感じがした。
 何も感じず、何をする気も起きなかった。
 感情と肉体が交わるのを呆然《ぼうぜん》と待つしかなかった。

 だから、僕はうずくまったまま、立ち上がることもできなかった。
 行き交う帰宅途中の人々は、もちろん僕を見て見ぬふりだ。
 僕は、顔のない人間に戻ったのだ。
 うずくまっていたら、舌打ちされるだけの路傍の石。
 もはや、僕は人間以下の存在だ。

 工場で過酷な労働を強いられた日々ですら、 感じたことがないほどの無力感だった。

 これが、向こうの世界が侵食した結果なのか?

 スズや仲間達との絆、慕われ、英雄として行動する日々・・・・・・。
 向こうの世界では、社会の状況は過酷だったけれど、僕は幸せだった。
 ならばこの先、現実の世界では、 どれほどの不幸が待ち受けているのだろう。

 だけど、僕の中身と肉体は相変わらず、ずれたままで・・・・・・。
 先行きの不安も、今そこにあるはずの不幸の実感すら湧かなかった。
 骨抜きのぬけがら・・・・・・。
 今の僕は、それ以外の何物でもなかった。

 ♪遠く離れていても、つながっているのかな?

 突然、僕の携帯の着信音が鳴った。
 メールだって!?
 僕は、慌てて携帯を確認する。

 たった今届いたメールのタイトルは

『さっきはごめん。やっぱり、会いたい』

 差出人は、スズだ!

 僕は思わず、立ち上がった。
 ついさっきまで、全く動けなかったのに。

 僕の心臓は体を突き破りそうなほど高鳴った。
 見間違いかじゃないか、僕は何度も確認した。

 間違いない。現実だ!

 スズは、僕を追って戻ってきてくれたんだ。
 疑った僕がバカだった。
 スズが“天使”になんてなるはずない。
 スズとずっと一緒にいて、よくわかっていたはずなのに。

 こうしちゃいられない。
 待ち合わせの場所へ行かなくちゃ!

 僕は急いで、あの時の思い出の場所へ向かう。

 新宿・東口−−人の波をかきわけて、街へ出る。
 久しぶりに見る眠らない街・新宿・・・・・・。
 イルミネーションの灯りに彩られた街は、すっかりクリスマスムード一色だった。
 いつの間に、どれだけの日々が経ったのだろう?
 あっちの世界で過ごした月日の重みを、僕は実感していた。

 クリスマスのデコレーションが輝くアルタ前を横切った時、 モニターでは臨時ニュースが放送されていた。
“人が消える事件”の被害者が死体で発見されたらしい。
 情報提供を呼びかけるため、被害者の顔写真が映し出された。
 その顔は、この世の不幸のすべてを背負っているようで、 見ているこっちまで不快な気分になった。

 どこか居心地の悪く感じた理由は、自分でもよくわかってる。
 モニターに映しだされた被害者の顔に、僕は心当たりがあったから。
 ・・・・・・その人の顔はどことなく、 向こうの世界で出会った仙人に似ていたんだ。

 でも、事件なら、もう起きない。
 迷宮入りになって、すぐに忘れられるだろう。
 満ち足りたこの世界では、新たな事件が次々と起こり、 人々の興味は、エサに群がる魚のように、 派手な事件に引き寄せられていく。

 クリスマスを前にして、道行く人はどこか浮き足立っていた。
 僕は、人ゴミにさえぎられつつ進みながら、スズと再開したときにかける言葉を考えていた。
 いくつもの言葉が浮かんでは消えていく。
 どんな言葉でも僕の思いはすくいとれない気がした。

 歌舞伎町の看板をくぐりぬける僕。
 この角を曲がれば、待ち合わせ場所だ。
 ネオン輝く雑踏の中、僕たちだけに星空が見える場所。

 そこに、スズがいた。もちろん、こっち側の。


スズ


 スズの姿を見て、僕は決断した。
 緊張して、言いまちがうと困るから、シンプルにいくことにする。

−End of Scene−


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