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栞の化身
黒星→竜の迷宮

 挿入時独特の感覚が失せ、○○はゆっくりと目を開く。
 石造りの屋内特有の、湿り気を帯びた、ひんやりとした空気が肌を這う感触を得ながら、○○は己の身体を確かめる。
 手足、五感、所持品。全てに違和感は無い。異変が起きた書の世界という事で、無事に入り込むことが出来るか心配だったが、どうやら記名は問題なく行えたようだ。これもツヴァイと黒星が顔を突き合わせ、記名前に○○の"挿入栞"に対してあれやこれやとやっていた成果だろうか。

 そう思っていたところで、

「○○様ー。初めましてッスー」

 背後から突然の声。
 ○○が訝しげに振り返ると、そこには。

サニファ

──なんか、変な物体が浮かんでいた。

「何ッスかその熱い視線。サニファ、恥ずかしいッス」

 ○○は眉根を寄せて、その喋る謎物体をむんずと掴む。手の中にはもこもことした感触があり、

「おぅ!? 意外とアグレッシブッスね○○様、でもそんなアナタも嫌いじゃ──って痛い痛い痛いッスー!!」

 思い切り握り締めると大暴れ。離すと、それは警戒するように○○から距離を取った。
 そこで漸く、○○はじっくりとその物体を見る。

 何だろう。簡単に説明すると、

「ぬいぐるみ?」

「違うッスー!! 中、中にサニファ入ってるッス!!」

 つまり、着ぐるみだった。掌より少し大きいくらいの。
 どう表現すればいいんだろう。酷く簡略化され、特徴だけが誇張されているが、恐らくそのモチーフは竜。そんな造形の全体的にもこもこさした紫色直立物体が、背中に生えた小さな翼をぱたぱた動かしながら浮かんでいる。翼の力で浮かんでいるというのをアピールするための動きなのだろうが、どう見てもそんな翼の大きさ、形状で飛べる訳は無く、胡散臭さが凄まじい。
 取り敢えず、それだけならばいう表現で間違っていないのだが、問題は竜の頭部の下あたりに開いた穴と、そこからひょこんと飛び出ている人の顔だ。先程から喋っているのもこの顔で、つまり顔の部分が中の人で、竜はその着ぐるみ部分、という事になるのだろうが。

(尺、おかしくない?)

 掌大の大きさの着ぐるみに入れる程の人? それはもう、人じゃないだろう。 近い表現でいくと、小妖精とか、そんな部類の存在だろうか。

「えーと。自己紹介からした方がいいんスかね、これ」

 そんな○○の困惑を察してか、その謎物体がもこもこした小さな手を挙げてこちらに尋ねてくる。
 思わずお願いしますと素で返すと、謎物体はこほんと小さな手を口元にやって咳払いし、

「自分、○○様が持っている挿入栞の基本機能の動作や管理を担当している者で、 名前はリンドヴルム・サニファ──サニファでいいッス。本来は、こんな格好とかこんな風にお話ししたりできる存在じゃなくて、 完全に裏方担当なんッスけど、今回の状況下だと姫姉様からのサポートが無理だからって事で、 さっき挿入栞に付加式をつけてもらって、ちょっとこうして仮顕現できる状態にしてもらったッス。 姫姉様からの指示が受けられない代わりに、今回はサニファが○○様をナビゲートするんで安心して欲しいッス」

 ○○は顰《しか》め面で己の首筋を軽く揉む仕草で間を作り、目の前の謎生物の発言を吟味する。
 要するに、ツヴァイが寄越したサポート生物?

「……生物とか言われるとなんかヘンな気分になるッスけど。後、寄越したっていうか、 最初からずっと○○様と一緒にいるッスよ。ええとアレッス。栞、栞」

 栞がどうしたのだろうか。

「だからサニファが栞ッス。先刻言ったじゃないッスか。挿入栞の動作管理をしているのが自分だって。 姫姉様がくっ付けた付加式のお陰でこんな形になったのがサニファッス。他にも色々積み込んだッスから、 こんなでっぷりもこもこな感じになっちゃてるッスけど」

「…………」

 成程、何となく判った。
 ここへと入る前、ツヴァイと黒星が○○の挿入栞に付きっ切りだった結果がこいつか。

「うぃッス。栞に自立した意識と顕現する姿形を付加した──正確には元からあるんスけど、 ちょっと希薄になってたのを補助した──のが自分ッス。あ、マイブックとかは無理ッスけど、 栞の基本動作はサニファの管轄なんで言ってもらえれば色々と出来るッス。あと、 世界観測やら抽出関係やらで何種類もの述式を積み込んでるッスから、エンダー様達を見つけたら、 後はサニファに任せてもらえればばっちり外へ出られる筈ッス」

 そんなサニファの言葉で思い出す。そうだエンダー達の探索に来たのだった。突然の出来事に目的が飛んでいた。
 とはいえ、一体何処に居るのか。それ以前にこの単書はどういう場所なのか?  単書世界の異常がどうこうという話ばかりを聞いていて、肝心のこの世界についての話を殆ど聞いていなかった。

「ええと、この"竜の迷宮"って世界は、有り体に言うと"竜"って名前のダンジョンをただただ攻略しまくる世界観ッス。 今サニファ達がいるのもその迷宮の一つで……章題は確か『四つ首皇蜘蛛の竜』だったッスかね。 名前から判る通り、蜘蛛がうじゃうじゃ──って、なんか早速来たッスー!?」

 得意げに説明していたサニファの言葉が、突然驚き混じりの警告に変わる。
 小さな指が差す方向へ○○が身構えると同時。物陰から複数の影が飛び出してくる!!

巡回の蜘蛛

巡回の蜘蛛

〜戦闘省略〜

「おー! やっぱ強いッスね○○様! いやまぁ、知ってたッスけど」

 現れた蜘蛛を蹴散らすと、遠くの物影からサニファがひょこんと顔を出して手を叩いていた。
 蜘蛛が襲い掛かってきたときはすぐ傍に居た筈なのに、いつの間にあんな場所まで移動したのだろう。 その逃げ足を褒めるべきか、ちょっとは手伝えよと突っ込むべきか判断に迷う。

「で、ええと話が途中になっちゃってたッスけど、今の蜘蛛がここの"竜"を根城にしている"皇蜘蛛"の子供ッス。 子蜘蛛達は集団で迷宮中をうろうろしてるッスから、用心して進まないとダメッスよ」

 事前の話の通り、なかなか危ない場所であるらしい。
 そうなると、なるべく早くエンダー達と合流した方が良いのだろうが……彼らは一体何処にいるのか。
 大まかな場所くらいは判らないものかと、○○がぱたぱた傍に近寄ってきたサニファに改めて問うと、

「えーっと、確か黒星様が言うには、皇蜘蛛が造った大巣の向こう側に行った所で、件の問題が起きたそうッス。 だから、取り敢えずそっちに行かないとダメなんじゃないッスかねー」

 着ぐるみの竜は、短い手足で器用に自身の顔を掻きながらそう答えた。
 ○○はふむと頷き、考える。
 巣を越えた先。
 つまり、エンダー達は皇蜘蛛を倒した後だ、と?

「うーん。今回は世界観を同期してるんで、黒星様達が倒してたら自分達から見ても倒した後になってる筈なんッスけど、 どうも見た感じ、元に戻ってる気がするッス。多分、 黒星様が使った凝固述式の影響でその辺が初期化されちゃったんだと思うッス」

 ぐるぐると辺りを見回しながらそう答えるサニファに、○○は溜息をついた。
 つまりこうか。
 今から自分達は、正攻法で"皇蜘蛛"とその子供が支配するこの場所を抜けて、 先行くエンダーとアリィに追いつかねばならないと。

「そんな感じッスね。一応、姫姉様からここの章──『四つ首皇蜘蛛の竜』についての情報は書き写しで貰ってるんで、 簡単なアドバイスくらいなら出せるッス。……多分」

 大丈夫という最後に多分という言葉をつけないで欲しかったが、先行するエンダー達を追う状況の今、 これ以上無駄口で時間を消費させるのも良くない。○○は開きかけた口を噤んで、辺りをぐるりと見渡す。

 今居るのは縦長の穴の下部から伸びた、二段ある踊り場の内の下一段だ。
 東西に長く取られた石床の両端には階段が設けられ、上部の踊り場へと繋がっている。
 上段踊り場は東と西の二つに分断されていて、今自分が立っている下段の踊り場を経由しなければ、 それぞれの踊り場に移動出来ない構造になっていた。
 下部の踊り場には、南北方向から更に下方へと伸びる巨大な坂道が存在し、その道の奥、 今居る縦穴部よりも巨大な広間らしい空間には、何よら白い柱のようなものが縦横に走っているのが見えた。

「で、えっと。姫姉様から貰った情報によると、そっちの大道の先が皇蜘蛛の眷属達の巣になってるらしいッス」

 と、○○の視線を追ったサニファが、下方へとなだらかに伸びる巨大な道の先を覗き込むように見ながら言う。

「"竜"──迷宮の奥に向かうなら、あっち直線で行くのが最短なんッスけれど、まぁ、 大量の蜘蛛の間をゴリ押しで進む事になるッスし、子供をばしばし倒されたら皇蜘蛛も黙っていないと思うッスから、 結構しんどい連戦になると思うッス。腕に自信があるならあっち直行が良いッスけど、あんまお勧めはしないッス」

 ならば、ナビゲート役のお勧めはどういう方針なのだろう。
 尋ねると、サニファは小さい手指で縦穴の上方を指し示す。

「餌や眷属達を養う巣と、皇蜘蛛が普段身体を休めている場所が実は別なんッスよ。 普段皇蜘蛛が居るのは、あっちの糸張った巣の方じゃなくて、ここの縦穴──通称"四つ首"の先、 四つの頂上の何処かッス。首の頂上部と、あっちの大広間の最上部は繋がっているんで」

 大広間は、天井部に一角だけが長く長く、縦穴に寄り添うように上方へ伸びる奇妙な構造になっている。 皇蜘蛛は、その頂点付近の壁を刳り貫いて、隣接していた"四つ首"頂上の部屋と繋げてしまったらしい。

「んで、巣で皇蜘蛛が張った網の中、眷属共と合わせて戦うよりも、縦穴を上っていって皇蜘蛛単体を直接、 かつ不意打ちで叩いた方が楽。更には親を潰された子蜘蛛達は上の方に集まってくるだろうから、 その間に縦穴側から急いで戻って、巣の下部を走り抜ければ、無理に正面突破するよりも安全に巣を抜けられる、 という寸法ッス。こっちが『四つ首皇蜘蛛の竜』攻略の正道ッスね」

 つまり、真正面から巣に突き進んで大立ち回りを演じるか、 じっくり回り道して道行を楽にするかの二択という事か。

「うぃ。まぁ、どっち選ぶかは任せるッス。お勧めは皇蜘蛛を直接狙う方法ッスけど、 結構時間が掛かっちゃうのも確かッスからねー。蜘蛛くらいなんぼのもんじゃーって感じなら、 真っ直ぐ突っ込んだ方が早いッスし」

 今の所出せるアドバイスはこんなもんッスかねー、とサニファは○○の肩に着地して、 一休みとばかりに座り込んだ。正直邪魔くさいが、サニファから得られた情報は中々有用だった。 これくらいは許してやるかと、○○は意識を竜から迷宮へと向ける。

 とにかくも、まず最初は上るか下るかの選択だ。
 さて、どう動こうか?


─See you Next phase─


行動選択

・まだ決めていない
・風まかせ
・西の踊り場
・東の踊り場
・下の大広間



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