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慎重に棚をさぐる |
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「――?」 気味の悪い色の容器がならぶ棚から、モルトはひとつの壺をえらびだして開封した。 「――稀石? 触媒のたぐいか」 彫りの深い顔がすこしゆがむ。 そのとき、外をあわただしく駆ける者があった。 ――敵兵! ちっと舌打ちして、音もたてずに身を伏せる。 ――どうだ!? ――こっちにはいない! 銃剣をかまえた敵兵が気づかずに去ったのを確認し、ふたたび身をおこす。 ――これ以上は、危険か。 大尉は手にしていた壺に封をして背嚢にしまい、先を急いだ。 ☆奪還屋†は陸獣の素を手に入れた! もときたルートをたどって地上にでる。 宵闇は、月夜になっていた。 入手した氷箱は、軍の基地ではなく、“聖公庁”――ルクレチアの宗教的指導者である、聖公シエロ猊下のおわす場所にとどけることになっている。 モルトは研究施設からの脱出に成功し、帰路を急いだ。 聖公庁に到着した。 『研究棟』と称する薄暗い建物に通されたモルトを、真紅のドレスをまとう銀髪の美女が出迎えた。 「ようこそ、大尉。聖公シエロ猊下おかかえの薬師、カルミネラと申します――口さがない者は、“魔女”などとあだ名しているようですけれど」 ――聖公庁は女人禁制と聞いていたが、例外もあるのだな。 モルトは心中でつぶやいた。 カルミネラと名乗ったその女はつつと彼に歩みより、優雅に腰を回転させて氷箱を受けとる。 カルミネラが箱をあけると、あたりに霊妙な光が漏れでた。 光を発しているのは、6つの花弁をもつ青紫色の花だった。 「――花?」 「そう。〈ウニオ・ミスティカ〉――ザクソニアの高地に生息し、30年に一度だけ開花するとされる、稀なる多年草の精華」 カルミネラの血の色をしたくちびるの端がかすかにあがった。 「感謝いたしますわ。これでわが“実験”は、また完成に一歩近づきました――」 「――実験だと?」 モルトは声をあげる。 「聖公庁の使者は、この“大戦”のゆくえを決定づける、敵の最高機密品だと言っていた――」 その研究は、現在の泥沼の戦局を即座に打開するほどの画期的な魔道実験なのか? モルトの胸に、9人の戦友の生命が重くのしかかる。彼らに死の命令をくだしたのは自分なのだ。 「ふふ、そんな説明を受けていましたか? でしたら、そういうことにしておきましょう」 カルミネラは淀みなくこたえた。 「むろん、聖公シエロ猊下の使者の御言葉に、嘘いつわりなど一切ございません――」 カルミネラは〈ウニオ・ミスティカ〉をおさめた氷箱のフタを閉じ、奥の部屋の方に歩きだした。 つとカルミネラが立ちどまり、こちらをむいた。人工的な微笑がモルトの本能を身震いさせた。 「ブラックベレーの鬼隊長、モルト・グラッスス大尉のお噂は、ここ聖公庁にもとどいております。またお目にかかる日もありましょう――」 ─End of Scene─ |
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