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ファミリオ

“ストラルドブラグ”に関する、モルトの告白が終わった。

 信じられなかった。聖公庁が人間を被験体に使って、 “不死身の兵士”――ストラルドブラグを製造する計画を進めていたなんて。
 そしてモルト自身が、その被験体だった、なんて。

「どうして聖公庁が、そんな恐ろしい計画を――」

「……カネの魔力、だろ?」

 背後から、リュウシンの声がした。



「イオの亡骸を安置してきた。つづけな、モルト」
 彼はそっけなく言ったが、涙の乾いたあとが痛々しかった。
 モルトは重い面持ちでうなずいて話をつづけた。

 聖公庁は“大戦”で死の商人――軍需産業と結託し、 戦局を都合よく操作することをおぼえた。
 戦争は、とても効率のいい商売だ。でも、 戦争継続のためのコスト――人の生命がネックだった。

 いわく、兵士調練の費用。
 いわく、民の厭戦ムード。

 人命が失われるたびに、これらの負担が重くのしかかり、 やがて国家ビジネスは破綻する――

      ***

「なるほど。そこで聖公は考えた――“不死兵” を量産し、永遠の戦争をつづければよいと」

 リュウシンが腕を組む。モルトがこたえた。





「そう。聖公庁は、きみたちレジスタンスとの内戦すら歓迎している ――きみたちの武器も、もとをたどれば軍の横流し品のはずだ」

 ぶしつけな言葉に怒るでもなくリュウシンはただ肩をすくめた。

「わかってたさ。でもいつか誰かが後につづくと、オレは信じてる。 エルニノを拉致したのも、聖公庁の腐敗を世に知らしめるためだ」

「犯行声明はメディアに揉み消される。真実は――隠蔽される」

 モルトが首を横にふった。彫像のような相貌が、 苦痛の色に染まっていた。
 それは、真実を知りすぎてしまった人の顔だった。

「モルト――」

 どんな言葉を発すればいいか、わからなかった。

「オレは何もかも知っていた。だがリュウシンとちがって何もしなかった……」

 モルトは震えていた。頭をかかえ地べたにひざをついた。

「ストラルドブラグは、肉体的な意味ではほとんど不死だ」

 ――そっか、あのとき……

 彼と初めて出逢ったときのことを思いだした。

 火傷を負ったはずのモルトの皮膚がその場で再生していくのを、 わたしはたしかにみた。

「だが、戦闘で脳が致命的な損傷を受ければ、 記憶や人格の修復は不可能だ。意思をもたぬ不死兵―― “生ける屍”と化す」

「――!」

「致命傷を負ったあと、“生ける屍”と化した兵士をみただろう?  カルミネラのあやつり人形――それがストラルドブラグの末路だ。オレは、 ああなるのが……怖い」

 死の淵からよみがえって立ちあがった、聖公神衛隊の兵士たち。 彼らの瞳は、死人のそれだった。

「新しい組織が再生するたびに、古い記憶が消去される―― いまもそんな錯覚にとらわれることがある。 魔獣の組織にじわじわと侵蝕され、 いつか殺戮のためだけに存在する怪物になってしまう―― そんな恐怖で、毎晩目が醒める」

 モルトはいつか、死を恐れていると言った。

「軍人としてたくさんの生命を奪ってきた。その、報いだ――」

 ……彼にとっての“死”とは、肉体の消滅ではなく、 自分が自分ではなくなってしまうこと。
 彼は10年間、ひとりでその恐怖と戦ってきたのだ。

「オレは“現実”と戦って敗北したわけじゃない。ただ怖かったんだ ――“真の死”を迎えるのが」

 ――この人は。

「オレは生きていたとは言えない――ただ逃げていただけだ。 この棺を背負って!」

 モルトは、長躯を揺らしてむせび泣いた。

 ――なんて孤独なんだろう。

 可哀想な人。
 でも、いとしい人。

 わたしはモルトの正面に立って彼の頭を抱きしめた。 モルトは何も言わず、ただ泣きつづけた。



 そのときだった。
 立てつづけに、夜空に火柱があがった。

      ***

「政府軍の攻撃だ、伏せろ」

 リュウシンに頭を押さえられ、わたしは地面につっぷした。

「きゃあっ!」

 ふたたび爆発。こんどは至近距離だ。 爆風で飛んできた火器類や部品が、ばらばらと散乱した。

 ――わたしも。

 ごくりと息をのんで、手を伸ばす。

「戦わなきゃ!」

─See you Next phase─







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