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世界の境


 街をのんびりと散策していた○○は、ふと、 以前何処かで聞いた台詞を思い出す。
 朧《おぼろ》な記憶。恐らくは夢で見たのか。 奇妙な場所で奇妙な少女が囁《ささや》く奇妙な話。
 
『これ以上の事を知りたいと。私達との繋がりを望むなら──』
 
 望むなら。
 その続きを、確か彼女は何と言ったのか。
 
 思い出そうとする間際。
 視界の片隅を鮮烈な白が横切った。

世界の境


 この街には場違いな、穢れ一つ無い真っ白な布を 纏った幼子。その小さな人影は、まるで○○の視線 から逃れるように脇道へと姿を消した。
 いつもならば、ただそれで終わりだ。けれども、 今は妙にその過ぎった白色が意識の奥に焼きついて。
 ○○は半ば無意識に、消えた幼子の姿を追って脇道 へと身を躍らせた。
 だが。
 
(居ない?)
 
 既にそこには幼子の影など無い。どう やら見失ったらしい。
 幼子の姿がこの路地に入り、そして追 った自分がここに来るまでの間は十秒と 開いていない。人通りの絶えた細道には 見失う要素など無く、○○は訝しげに首 を傾げて、そして軽く頭を振る。
 ──そもそも何を必死になっているの か。あの小さな子供を追う理由など、何 も無いというのに。
 無人の小道。静寂の中、○○は小さく息をついて、
 
『……繋がった?』
 
 突然響いたその声に、思わず飛び上がった。
 
『うん、良かった。凄く微かだったか ら、気のせいかとも思ったのですけれ ど──お元気そうで何よりです』
 
 という声が、先程からまるで耳元で 囁かれるように届き、混乱する。そし てそんな○○の様子を笑うくすぐるような笑い声。
 
『意識してのものか、無意識による ものなのかは判りませんが、貴方の“戻 りたい”という意思は伝わりました。だ からこそ、こうして私と貴方は話してい る。覚えていませんか? 貴方が“今居 る世界”へと旅立つ前の事を』
 
「…………」
 
 言われてみれば、この声には聞き覚えが あった。それを切っ掛けにして、今まで朧 だった記憶が次々に蘇ってくる。
 朝靄《あさもや》の中、深い森での邂 逅。鋼の巨人と、その肩に乗り自分を追っ てくる少女。眠りと目覚めの境にいるよ うな曖昧な意識の中、囁きかけてくる彼 女の言葉。
 だが、あれは夢ではなかったのか。あんな荒 唐無稽な話、現実と認識する事こそ無理がある。
 
『ああ、成程。確かに、まるで夢 のような話なのかもしれませんね』
 
 くすくすと、少し意地悪げな声が耳の奥で響く。
 
『けれども、そうですね。今貴方の居る世界が 現実だとするならば、私が居る“箱舟”は確か に夢なのかもしれません。逆に、貴方がそこを 離れて箱舟の中へと移ったなら、その時はその 世界が夢で、箱舟こそが現実となるのでしょうね』
 
「…………」
 
 まるで禅問答のようだ。今ひとつ理解で きず、首を傾げる。
 そんな○○の内心を察したか、響く娘 の声からは笑みの要素がするりと抜けて 、淡々とした調子に変化。
 
『ごめんなさい。深く考える必要はあり ませんわ。所詮は言葉遊び、些細な認識 の違いという話ですから。夢に限りなく 近い現実、現実に限りなく近い夢。その 二つに大きな差異は無い、という話です』
 
 やはり今ひとつ理解できないままだった が、確かに彼女の言う通り、話を続けても あまり実のあるようなものではなさそうだ。
 ○○が軽く肩を竦めてみせると、またく すりと耳元で小さな笑い声が一つ響いて、
 
『では、お喋りはこの辺りにして──貴方 を今居る“群書”の世界から“こちら側” へと抽出、顕現化します。意識を保つ事 は難しいと思いますが、その辺りはご容赦を』
 
 言葉を最後まで聞く前に、ぐるり と視界が回転する。
 意識が急速に遠退き、世界が暗転 し、まるで眠りの中に落ちるような。
 
「────」
 
 その間際。
 曖昧となった世界の隅に、独り。
 小さな影が、じっとこちらを見ている ような、そんな──。

 装飾のない寝台の上。
 ゆっくりと目を開いた○○は 、そのまま茫《ぼう》と天井を見上げる。
 そこは静かに閉じた小さな部屋。薄暗い 室内は、何処かに灯る火の赤色でぼんやり と揺らいで見えた。


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