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聖公庁 |
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「こんな――」 失意にうちひしがれて帰還したモルトを待っていたのは、 市民の熱狂的な歓迎だった。 ――共和国陸軍の精強部隊ブラックベレーのモルト・グラッスス大尉、 “救世主”エルニノ救出に単身成功せり。 報道局はこのニュースを大々的に報じ、軍はその功績に対し、 モルトの少佐への昇進を決めた。 「こんな茶番など――」 幻滅に沈むモルトを、さらに聖公庁からの招きが待っていた。 「――“信仰の守り手”?」 「そうです。聖公シエロ猊下からの直々の叙勲――わが国最大の栄誉です」 聖公庁の使者はそう告げた。 「このたびの叙勲を心より祝福したい。汝、モルト・グラッスス少佐は、 “信仰の守り手”として、わがルクレチア共和国の――」 叙勲の理由をとうとうと述べる聖公シエロの祝辞は、ただむなしくひびいた。 ――これが聖公シエロ猊下か。しわの深い、ただの疲れた老人だな…… 数日後には、陸軍の一大反攻作戦がはじまることだろう。 そこでルクレチア共和国は『劇的な勝利』をとげ、 “大戦”は終結にむかって驀進する――既定の“筋書き”にそって。 戦友たちは同胞と殺しあい、死んでいった。 “筋書き”を書いた者たちの、私的な欲望のために。 「誇りあるルクレチア軍人の模範として、これからも――」 頭をたれて聖公の言葉を聞きながら、モルトはふと気がつく。 民主国家であるルクレチア共和国に王のような支配者はいない。 だが、人々の信仰の象徴である聖公シエロの言葉は、 市民に絶大な影響力をもつ。 ――もし、猊下が。 神の代理人であるところの聖公が、 この“大戦”に大義なきことを知れば…… そしてその事実を、聖公自身が公表したならば―― ――あるいは、この愚かな争いも…… モルトはゆっくりと顔をあげ、聖公シエロの瞳を、まっすぐにみつめた。 ─See you Next phase─ |
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