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母の想い


 今のお前の能力ならば───。
 母親を助けることも叶うだろう。
 はるか南方の地にて、今この時、 魔法大戦の戦火の中でお前の母親は死んだ。

 エフラバ山の頂上に向かう最後のキャンプ地で、 僕は修了試験の時のサルバの言葉を思い返していた。



「よ〜う、フリーゼイ。お前、好きな女とかいんのか〜い?」

 ドゥーレイが、突然僕に話しかけてきた。

「おじさんか……。いるよ。一応ね」
「そいつはいいな。その女の方も、お前に惚れてんのか?」
「そっ…、それは……」
「はっはっは! もし自分に惚れてる女がいるなら、 その女を残して死ぬなよ? 残された女は、たまったもんじゃねえからな」
「えっ?」
「愛する男を失った女の心の傷は、誰にも癒せねえぜ〜。フレイシアのようにな」
「母さんのように……?」
「フレイシアは、そろそろあの世にいる帝王ヴァレイに会いたがってるみてえだ。 死に場所を求めてやがる。俺の勘だがな」
「母さんが? そんな、まさか……」
 母さんからそんな素振りを感じたことは、僕は一度もなかった。

「だからフリーゼイ。お前が、母ちゃんを守ってやるんだ」
「………………」
「頼れる男がそばにいるだけで、女は安心するもんだ。 お前はそんな男になれ。なっ?」

 ドゥーレイは、僕の肩をポンポンと叩き、去っていった。
 彼の言葉のひとつひとつには、不思議な重みがある。

 このキャンプを発てば、おそらく女王メルファティアとの決戦に至る。
 サルバの言葉が正しければ、きっと母さんは、 この戦いで死ぬことになるのだろう。

 僕は、ふと思った。
 僕が時を渡ってきたことを、まだ母さんに伝えていない。
 このことを母さんに伝え、命の危険が迫っていると意識してもらえば、 運命が変わる可能性がある。
 もしかしたら、母さんは死なずに済むかもしれない。

 母さんはテントの中で休んでいる。
 僕は、自分が時を渡ってきたことを、母さんに……。

─See you Next phase─


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