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少女の企み[続き]

聞き覚えのある声に振り返ると、開け放たれた入口に長身の男が立っていた。
その独特の紫の装束には見覚えがある。いつぞや○○に高値で偽旅券を売ってくれた男、マノットだ。

「だが、先の発言はいただけない。貴族なら優雅に“より長く時間が掛かる方のトイレ”と言うところだ」

マノットは白い歯を見せて笑った。

「うそつけ! つーか、あんたはどっから湧いてきたのよ」

ハリエットがマノットを指差した。マノットは一笑して彼女の言葉を受け流す。

「僕も本来ならそうした表現の方が好みですが、さっきは姉の言葉遣いに合わせていたのです」

ピーテルはため息をついた。

「先ほど僕が言いかけたあの言葉も、実は姉が出掛けに口にしたものでした」

「ちょちょ、自分の品の無さを人 に押し付けないでくれる?」

「あれ。確かに言ったはずだけどなー」

「言ってませんー。うら若き乙女がそんな言葉使うはずないでしょ」

「言いましたー」

「言ってませんー」

「言いましたー」

少年とハリエットはそんな事を言い合いながら、拳と蹴りでぽかぽかとスキンシップを繰り広げはじめた。
仲が良さそうでうらやましいことだ。

「今日は賑やかですねぇ。大騒ぎしちゃだめですよ?」

にこやかな笑顔で新たに部屋に入ってきたのは、白衣の看護師だった。
どうやら、回診の時間のようだ。

***

「お姉ちゃんに回し蹴りを二度三度とくらって、具合が悪くなりました」

ピーテルはベッドに仰向けに倒れこんで、看護師にそんなことを告げていた。

「あらら、それは災難だったわねぇ」

「いや全然ダメージ与えてないから。あんたがパンチとか繰り出して勝手に疲れたんでしょ」

枕元の椅子に腰掛けたハリエットは言って、くるりとこちらに向き直る。

「この子はねー、大体こんな感じ。今すぐ死んだりはしないけど、何かするたび熱を出す」

「好きで出してるんじゃないし」

「しかも実のところ根は暗く、妄想だけが友達で、理屈っぽく、細かいことでくよくよする」

「お姉ちゃんが非論理的でガサツなだけだろ」

「ほらねー。可愛い弟でしょー」

ハリエットが両手で握りこぶしを作り、寝ているピーテルのこめかみを笑顔でぐりぐりした。

「いたたたたた。その篭手おかしいだろ、ちょっと!」

「あら、失礼ー」

ハリエットがほほほと笑った。

「お姉さんがいると、楽しくて良いですねぇ」

言いながら看護師は、花瓶の裏やベッドの下などをしきりに気にしていた。
一風変わった回診だと言える。ハリエットも不思議そうな顔をしていた。

「そういや例の馬車の件だかな――」

「わーっと、とりあえず外で用事を済ませてこよう」

ハリエットがマノットの言葉を遮って立ち上がる。○○もそれに従った。

「あ、待ってお姉ちゃん」

ピーテルが微熱気味の顔で半身を起こす。

「手短に頼むぞ弟よ」

ハリエットがドアの前で振り返った。




「……ありがと。ちょっと楽しかったよ」

ハリエットは一瞬だけ目をパチクリしたが、すぐにふふんと鼻で笑い、

「平伏して姉を敬いたまえ」

言われてピーテルは、「へへー」とシーツの上に手をついて深く頭を下げた。
ハリエットが後ろ手に閉じる扉の向こうから、看護師がくすくすと笑い声を上げるのが聞こえてきた。

***



「さて……。しょーもないことに付き合わせちゃってごめんねー」

ピーテルの部屋を出た○○とハリエットは、そのまま玄関から建物の外に出る。

「良いってことよ」

何故か同行しているマノットが答えた。

「や、あんたは居なくて良いから。ま、それはともかく――そんなわけで、“エビフライ”が必要になりました」

サナトリウムを取り巻く遊歩道を歩きつつ、ハリエットはいきなりそう切り出した。

「そうか、と言って納得できる人間がどこにいるんだよ。何なんだそれは。順が追って説明しろ」

「えーっと、まずね……前に国境で見た馬車あったでしょ。あれの持ち主が判明」

「ルブター・デルシャールだろ」

「なんであんたまで知ってんのよ!」

「さっき部屋で言いかけたじゃねーか。俺も調べてたんだよ」

「そうだっけ。ともかく、そのルブターさんの屋敷に私達は用があるわけよ」

「そういや結局そいつに何の用だ ったんだ? 私達ってことは○○ まで用があんのか?」

マノットが首をかしげる。
そういえば彼は、ハリエットがルーメンの村ゆかりの指輪を追っていたことを、まだ知らないのだった。

「どーだって良いでしょ。私は予定の品をゲットする。○○はほら、本物の旅券強奪とかそのへん」

「ほう。要するに、泥棒コンビといったところか」

思わず「それは違う」と言いかけたが、よく考えると成り行きとしてはその通りである。

「人聞きの悪いこと言わないでよ。ちょっと黙って借りるだけ。まぁそれで、突撃前にちょこっと下調べに行ってきました」

「なんだもう行ってきたのか。よく入れたなぁ」

マノットが目を丸くする。

「敷地に入ること自体は超簡単よ。っていうか、ここがもう既にデルシャール家の土地の中よ」

そう言ってハリエットは立ち止まり、足元を指差した。

「ああ」

それでマノットも納得顔になる。

「この辺一帯、デルシャール家の持ち物だったのか」

「そそ。だから家の中まで入るのは難しくても、土地に踏み込むまでは誰でも楽勝」

「そりゃ確かに楽勝だわな。だが流石に屋敷まで侵入するのは難しいだろ」

「そこが微妙なところでして」

言いながらハリエットは手ごろな長さの棒を拾いあげ、露出した土の上に何か図を描き始めた。

続く

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