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少女の企み |
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サナトリウム選択で戦闘勝利時 丘の上へと続く道は、朝の高原に相応しい冷涼な空気に満ちていた。 すでにボーレンスを出てから数十分が経過しており、もちろん町の喧騒や熱気などはここまで届くべくもない。 道の両側を見れば垂直に伸びる背の高い木々がまばらに並び、浅い森林を作り出していた。 弱々しい木漏れ日の下では、名も知れぬ小さな黄色い花が朝露にぬれて点々と咲いている。 なるほどこれは療養に適した環境だろう、と思う。こうしてただ歩いているだけでも、澄んだ空気と森に癒されるような心地さえする。 歩きながら視線を前に戻すと、 道はちょうど大きく左に迂回するところで、正面の木立の向こうには白い建物が見えていた。 どうやら、あれがボーレンスのサナトリウムのようだ。 やっと着いたという安堵の息を漏らし、道沿いに進もうとしたところでふと○○の足が止まる。 目の端が、木立の中に動くものの影を捉えていた。人ではない。もっと小さな何かだ。 思った時にはもう、道を外れて森の中に足を踏み入れていた。 目の前にはもう病院施設が迫っているのだ。ならば、少しでも危険な連中は始末しておいてやるべきだろう。 〜〜〜戦闘省略〜〜〜 *** なんだかちょっと風変わりな蜘蛛だったが、所詮は虫。 ある程度の場数を踏んだ者からすればどうということはない。 軽く運動を済ませたところで、このまま森を突っ切ってサナトリウムに入るとしよう。 *** 「おはようございます。診療ですか? お見舞いでしたら面会証はお持ちでしょうか?」 建物に入るなり、入口脇の窓口に座った女性からそう質問された。 もちろん診療ではない。かといってお見舞いでもないし、もちろん面会証なんてものは持っていない。 強いて言うなら待ち合わせなのだが、どう証明したものだろう。○○が答えあぐねていると、 「お、早いなー。ちょっと待ってて。あ、いや、やっぱこっち来てくれる?」 廊下の先から、聞き覚えのある声がした。 以前、レンツールの街道と国境でひと悶着を起こした少女、ハリエットだ。この反応からして、やはり黒猫商会に妙な呼び出しを掲示したのは彼女で間違いないだろう。 「あら、ご友人のお見舞いですか? それでしたら、こちらにご記入を――」 様子を見ていた窓口の白衣の女性が、○○に紙切れを差し出した。 別にお見舞いに来たわけではないと思うのだが、とりあえず彼女の指示に従って問診表のような紙にあれこれ記入していく。最後に“紹介者”の欄にハリエットと書いて、女性に返却した。 「では、面会中はこちらを首から掛けておいて下さいね。院内ではお静かに願います」 窓口の女性が微笑んで、紐のついたカードを手渡してくれた。その表面には“よいこの面会証”という文字と、可愛らしい熊の絵が描かれていた。 *** 「なかなか似合ってますなー」 斜め前を行くハリエットは、度々振り返っては“よいこの面会証”を見てにやにやしていた。 白を基調とした建物の中はやはり病院特有の空気が感じられるものの、方々に観葉植物を配するなどして雰囲気には気を遣ってあった。 ハリエットはトイレや食堂、病室らしき扉が並んだ廊下を立ち止まることなく進んでいく。 随分慣れた様子だった。 そういえば以前、弟がサナトリウムでどうのこうの……と彼女が話していたことを思い出した。 「じゃ、後で本題に入るからちょっとだけ付き合って」 やがて辿りついた部屋の前に立つと、ハリエットはこんこーんと口で擬音を出しながら扉をノックした。 はいはーい、という中からの声に、彼女は扉を押し開く。 「長かったなー」 室内のベッドで半身を起こした少年が、ハリエットの姿を認めるなりそう言った。 「この長さ、間違いなくうん――」 言い終わる前に、ハリエットが彼の肩口に蹴りを入れていた。 少年は「コッ」と奇妙な悲鳴を上げてシーツに倒れ込む。 「……お客様の前で開口一番、なんという単語をひり出すのです。姉のワタクシまで品性を疑われてしまいますわ」 ハリエットは芝居がかった仕草で腰に手をあて、少年を見下ろした。 蹴り転がされた少年はシーツの上で横向けに倒れ、大げさに背中をぴくぴくさせていた。 「というわけで、スペシャルゲストの○○さんよ」 ハリエットに手招かれ、様子を見ていた○○も室内に足を踏み入れた。 清潔感のある部屋には飾り気のない家具と僅かな荷物があるだけで、他の患者の姿はなく、空きのベッドもない。 この少年用の個室なのだとすぐに判った。 「いたた……。誰か来るなら先に言って欲しかったなー。心の準備というものが」 少年が身を起こし、照れ隠しの笑みを浮かべて肩をさすった。 見たところ少年はハリエットよりも少し年下で、いかにも線が細く、肌は白い。 厚いカーテンの隙間から射し込む光で栗色の髪は黄金色に透けて見えた。 「あんたが退屈してるみたいだから、ちょっと刺激を与えてやろうと思ってさー」 「おかげでキックまでいただきました」 「あ、これ私の弟ね。前に話したっけ?」 ハリエットが○○に向き直り、少年の肩をぽんぽん叩いた。 「初めまして。ピーテルと言います。姉がいつもご迷惑をおかけしています」 少年は○○に向かって佇まいを改め、ペこりと一礼する。 「できた弟さんだなあ」 続く |
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