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最後の選択

聖賢の座ナイオン 永久氷壁

 目を開けた時、○○は見知らぬ場所に座っていた。

 背中に硬い石の感触がある。身体が冷たい。見上げると空は暗く、周囲には雪風が舞っている。地面は見渡す限り、乾いた氷に覆われていた。





「気が付いたか」
 側に屈み込んでそう言ったのは、リーシェだった。少し離れた場所で、ハリエットとマリーもこちらを見ている。

「大丈夫ですか?」

 マリーが心配そうに言う。○○は首肯して、ゆっくりと立ち上がった。

 リーシェもそれに合わせて立ち上がると、「奴が待ってるぞ」と言って氷原の先を指差した。

 彼女の指差した方向、ずっと先の辺り。青白い光がぼんやりと高い位置に浮かんでいるのが見えた。

 ゆらめく光に包まれて空から一帯を見下ろしているその少年は、もちろんメルキオールだ。

 彼の下の空間では、そこだけ吹き付ける雪ひらが途切れ、消えている。大きな見えないドームでもあるかのようだった。

『役者は揃ったようだね』

 様々な音の入り混じったメルキオールの不思議な声は、風などに吹き消されることもなく、良く聞こえた。あるいはそれは、音ではないのかも知れない。

「面白い言い回しを知っているな」

 少年に向けてそう言ってから、リーシェは首だけで○○を振り返り、親指でメルキオールを示して片頬で笑った。

「驚くべきことに、あいつはお前が目覚めるまで“休憩時間”を設けてくれたよ。気に入られたものだな」

 リーシェの言葉にメルキオールはこれまでと少し違った、大人びた笑みを浮かべたように見えた。
『さてリーシェ。今の私は、君に命令を下せるだろうか?』

「……可能なようだ」

 少し考えてから、リーシェは眉根を寄せて嫌そうに言った。

「アタシはどうやら、お前を“天秤”として認識しているらしい」

『では、私の身体を閉じ込めている結界を消してもらおう』

「気が進まないが、消すより無いようだ」

 言って、リーシェは氷原をメルキオールの方に向かってすたすたと歩き出す。

『ありがとう。――感謝という概念の使い方は、これで正しかったかな』

「それで良い。一部の人間よりも上手なぐらいだ」

 リーシェは結界の前まで行くと、半身の構えで右手を結界の中心方向に向ける。そのままの姿勢で止まって、ふとメルキオールを見上げ、補足した。

「先に断っておくが、アタシはお前が通過できるほど大きな“落丁”を生じさせることは出来ない。アタシの権限は、あくまでも世界の内に限られる」

『承知している。君達にこれ以上の協力を強いる気はない』

「それはどうも。案外、お前はバルタザールよりもマシな“天秤”として上手くやっていけるかもな」

『そのつもりはない。これまでの私の活動は全て、私自身が外へと帰るためのものなのだから』

 リーシェが突き出した手に力を籠める。

 ぱきん、と高い音が氷原に冴え渡った。メルキオールを中心として一帯に円形の衝撃波が走り、リーシェの長い髪が強くはためく。

 その一瞬で、不可視の巨大な切頂二十面体は何の痕跡も残さずに消え去っていた。

『――永かった』

 メルキオールは結界の消えた氷の上にすっと降り立つと、その場で足元をじっと見つめた。

 もはや遮るものの無くなった空間に冷たい風が強く吹きつけ、少年の周囲で大きく渦を巻くように雪を舞わせる。

 低い地鳴りのような音が響き始め、氷原がかすかに揺れ始めているのが判った。

『世界に穴を開けるのは、私の手で行おう』

「アタシはそれを止めたいんだけど?」

 リーシェは言って、下を向いたままのメルキオールに数歩詰め寄った。

『私の敵は、最初からバルタザールただ一人だった。君達は自由に行動すると良い』

 メルキオールは彼女の方を見もせずに答えた。

「ありがとう」

 リーシェはにっこり笑うと、氷を蹴って飛鳥のような勢いで前に跳躍した。

 一瞬でメルキオールの前に迫り、そのまま低空で身体を回して蹴りを叩き込む。

 だがリーシェの足は少年に触れる寸前で強く反発し、彼女の身体は突っ込んだのと同じだけの勢いで後方に弾き飛ばされた。

「駄目だな」

 くるりと宙返りをして、リーシェは細かく振動を続ける氷上に着地した。

「やはりアタシの攻撃は届かないようだ」

『君は強いからね。充分な大きさの穴が開くまでは、最低限、天秤のままでいさせてもらう』

「参ったね……。お前が通過可能な程の穴が開いたら、この時代はもう終わりだ。……いや、それどころじゃないか。天秤も聖杯も無しでは、修復に必要な時間が現実的ではなくなる」

『その点については、申し訳なく思うよ』

 そう言ってから、ようやくメルキオールは顔を上げ、身体全体でこちらに向き直った。
***

 地響きは一層大きくなり、周辺一帯が激しく振動しているのがはっきりと判る。氷のきしむ音や割れるような音が、そこかしこから上がっていた。

 メルキオールが再び宙に身体を浮かせた。

『○○、必要なら、もちろん君達にも機会を与えよう』

 直後に、彼の立っていた場所に巨大な亀裂が走った。

 生じた深い亀裂は一気に氷原全体にまで届くような勢いで四方に走り、広範囲にわたって砕けた氷が白いしぶきとなって方々に降り注ぐ。

 複数の氷塊に分かたれた永久氷壁は崩落する氷河のように少しずつ上下動を始め、ゆっくりと全体の形を変えつつあった。

 降り注ぐ細氷がいかにも不吉にゆらぐ中、少年の真下で巨大な氷塊が一際大きく沈み、粉砕され、融解し、蒸発する。

 そして、深く落ち窪んだ黒い穴から、ついに“それ”が姿を現した。

「こ……これが……!?」

 マリーは、せり上がってくるその巨大な生物を見て絶句した。

“それ”こそは、あの少年に宿った存在の、真なる姿。

 見る者の正気さえ奪いかねないその威容が、取り留めのない単語の群れと化して○○の脳裏に去来する。

 黒い穴ぐら。
 翼。
 闇の中の眼。




「私達の知っているアウターズと同類とは、とても思えない……」

 マリーは愕然として、少年と、その背後にゆらぐ巨大な生物を見た。

 ハリエットは恐怖さえ通り越したのか、現実感を欠いた苦笑いを浮かべて言った。

「これはちょっと、自信ないかも……」

 ○○もまた、一見しただけでその絶望的な力の差が、否応無く理解できた。理解せざるを得なかった。

(――勝てるわけがない)

 立ちすくんだ○○達に向かって、青白い光に包まれた少年が薄く微笑む。

 彼はそのまま空中で、「ようこそ」とでも言うように、柔らかく両手を広げた。

『おいで。饗宴を始めよう』

戦闘
部隊名:星の落とし子



 絶対的な力の差――○○の挑戦は、戦いと呼ぶことすら出来ないものだった。

 勝てるはずがなかった。

 人の身で挑むべき相手ではなかった。

 力が失われていく。

 身体が冷たくなり、手足の感覚が消えていく。

 意識の途切れる寸前、凍てつくような暗闇の底で、○○はその声を聞いた。

 ――○○。

 呼んだのは、リーシェだ。

 ――死ぬなよ。まだ希望はあるし、それに、お前には別の道も残されている。

 目を開けることすら出来ないまま、○○は彼女の言葉を聴いた。

 ――これがお前にとって最後の選択になるだろう。選べ。奴ともう一度戦うか。それともこの世界に別れを告げるか。……結果によっては手元が狂って、お前をぶっ殺してしまうかも知れないが。

 物騒なことを言ってから、リーシェはそっと言い添えた。

 ――○○、お前を信じてる。

      ***

星の落とし子が現れた!



─See you Next phase─








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