TOP[0]>攻略ルート選択 >リザルトTOP

竜頭の樹上
世界の重し

世界の重し  中心となる“箱舟”の前方に浮かぶ小島。 竜の頭の如く前へと伸びたその島の先端部からは、 地面となる部分から太い樹木が絡まって更に前へ伸びて、 まるで角のように突き出ている。
 その角の更に先端。 根元では大の大人が数人手を繋いでも抱え切れない程の太さの樹が、 足場にするのも危うい程に細くなった先端部へと、〇〇は足を運ぶ。
 不確かな足元。見下ろせば、薄く広がる雲の向こうから、 遥か遥か下方に広がる翠の海が見えた。
 流れる雲の速度から、下ではかなり強い風が吹いているのが判るが、 上方に在る箱舟ではその風を感じる事は無い。 箱舟はその全体が特殊な力で護られているらしく、 この高度にあっても快適な空間が保たれている。
 護りの力は箱舟の外縁部に近づく程弱まるらしいのだが、 この箱舟の前部にある小島だけは、その法則から免れていた。
 その理由が、この島の前方先端部、 “竜頭の樹上”を己の居場所とする老人、箱舟の住人達の間で“老師” と呼ばれる人物の力にあるという。

     ***

 霧深い山の只中。老師に誘われ、 いつものように単書の中へと入り込んでいた〇〇は、 老師の足元をころころと転がる四匹の獣に何気なく眼をやる。
 老師に従う四つの力。火、冷、光、闇のそれぞれの力を強く身に宿す者達。 彼らが宿す力を散々味わった今では、 その愛らしい見た目通りの生物ではないと知っている。

「はて、可愛らしいものだと思いますが?」

 だが、そんな〇〇の意見に、この単書の主である老師は、 心底不思議そうに首を傾げて見せた。

「なんせこの子達は今、小さな姿の通りに力を封じ込んだ状態ですからね。 この子達の操る火も光も、穏やかなものですよ」

 何でも、老師の話によれば、 今のこの四匹の動物達の姿はあくまで仮のものであり、 その実体はもっと強大な存在。今彼らが振るう力も、本来の僅か一片、 という程度のものであるらしい。
 その話に唖然とする〇〇に、老師は何かを思いついたのか突然笑い出し、 そしてこう提案してきた。

「でしたら、この子達の真の力を一度味わってみますか?」
 と。

「…………」

 いやいやいや、冗談じゃない。
 あれが単なる一片でしかないというのなら、 その本来の力とはどれ程のものなのか。
 それを好き好んで味わおうなどと、一体何処の物好きだ。

「そうですか? 良い修行になると思いますし、 それに彼らに認められれば、相応の力をあなたに授けてくれると思いますが。 彼らは守護者であり、力の象徴でもあり、 そして与える者達でもありますから」

 老師は足元の獣達を撫でると、 その仕草と言葉に答えるように彼らの身体が揺れて、 ぴゅいぴゅいと鳴き声が響いた。

「とはいえ、この子達が今以上の力を発揮するには、 少しばかり“重し”が足りないのですがね」

(重し……?)

 老師の言葉が理解できず、〇〇は首を傾げる。力を発揮するのに、 どうして重しが必要になるのだろうか。 この何処かずんぐりとした獣達の上に石でも置けば、 彼らの力が強くなるとでも言うのか。

「ああ、いやいや。この場合の“重し”とは、 この子達を押さえつけるものではなくて、この“世界” を安定させるために使う力の事です」

 老人は手にした杖の石突の部分で、数度禿げた地面を突いてみせる。

「実のところ、この単書世界は今我々が居るここ以外の場所が、 殆ど存在しない──いや、正確には、 ここ以外の場所が確固とした形を持っていないのですよ」

「……?」

 非常に判り辛い。眉根を寄せて腕を組んだ〇〇を見て、 老師は自分の言が今ひとつ伝わっていない事を察したか。 手にした杖をくるりと回すと、先端で遠く、霧の向こうを指した。

「ここ以外の場所は、あって無いような場所なのだと考えてください。 ほら、あちらに山があるでしょう? あれを暫く見ていてください」

 言われて、老人の示した方角に見える一つの山をじっと見る。
 すると、

「!?」

 突然、霧の中に溶ける様にその山影が消え去り、 そして別の場所にふわりと、新たな山が姿を現す。
 一体どういう事か。〇〇が老人の方へと振り返ると、

「あんな風に、この世界に存在する地形は常に変化しています。 例外は、単書世界の要である“堂”が存在するこの山だけです」

 老師の視線の先には、平地の中にぽつんと立つ小さな杜。 どうやらあの建物が、老師の言う“堂”とやららしい。

「話を戻しましょうか。前にも言いましたが、この“単書” が構築している世界は他と比べて特殊であり、 だからこそ少しばかり不安定な世界でして。要となる“堂”が存在し、 変化から免れているこの山の中でも、それは変わらないのですよ。 だからこの子達が本来の姿に戻り、力を発揮するには、 その環境を僅かな時間でも安定させる必要があります」

 ……要するに、その“世界を安定させるための何か”が、 老人の言う所の“重し”である、と。
 〇〇の結論に、老師はにやりと口端を歪めて笑う。

「然り。そして、重しとなる何かとは、 この世界の概念に近しい品を指します。確か……そうですね。 “黒星”が幾つか持っていた筈です」

 ──黒星。

 その名前を聞いて思い浮かぶのは、箱舟の小島にある建物“玩具箱” の管理人を務める、あの鼠人だ。

「彼からその品を幾つか“関連付け”てこちらに持ってきてもらえれば、 それを使ってこの世界を一時的に安定させ、 その間だけ彼らは真の力を発揮することが出来る。 どれだけ本来の力を取り戻せるかは、 持ち込まれた品が持つ存在概念──判り易くいえば、 『どれだけ重い石であるか』に比例しますが」

 成程と頷き、そしてふと首を傾げる。

(……関連付け、か)

 確か、自分が持っている挿入栞と“玩具箱”にある品物を結び付ける事、 だっただろうか。
 以前聞いた黒星の言葉をなぞる様に呟くと、 皺に包まれた老人の顎が小さく縦に動く。

「とはいえ、まず関連付けに必要な力が無いと話は始まりませんがね。 今、私が話した品は、そう強力な“繋ぎ”が必要な品ではありませんから、 栞に“存在干渉力”が蓄積されているなら、 それを使えば直ぐの筈ですが……?」

 そこで老師は言葉を切って、伺う様にこちらを見る。
 対して、〇〇が小さく肩を竦めてみせると、老人は「ふむ」

と己の顎を撫で擦り、どう答えるかと思案するように一拍。

「……そうですねぇ。単書群書限らず、あなたが世界を旅する間に、 “存在の紙片”という品を手に入れる事があったなら、 黒星のところを尋ねてみなさい。そうすれば、 存在干渉力がどういったモノなのかが判るでしょう。 そしてまだ手に入れていないなら、この話は今は早い、 という事になりますかね」

 それ以前に、 まず自分はこの獣達の本当の力を味わいたい等と言った覚えは無いのだが。

「くく、そうでしたな」

 〇〇が呆れたように言うと、老人は目を糸のように細めて笑った。

「まぁ、あくまで一つの選択肢として話したまでの事。 あなたが今そう考えるのならそれで構いませんし、 そして心変わりする事があれば、 先程話した品をこちらへ持ってきてくれれば良い。それだけの話ですよ」

─End of Scene─






画像、データ等の著作権は、 Copyright(C)2008 SQUARE ENIX CO., LTD./(C)DeNA に帰属します。 当サイトにおける画像、データ、文章等の無断転載、および再利用は禁止です。