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ルーメン、真実の行方


     ***

「なんか、思ったほど大変なことにはなってなかったのかな」

 近場の家を覗き終わった頃には、ハリエットはすっかり重圧から解放されていた。
 一方、マノットは逆に腑に落ちない様子だった。

「妙だな……。どこも綺麗すぎる」

「綺麗な方が良いじゃん。というか、 人が居ないだけで普段と大して変わってないし。……あれ?」

 ハリエットが広場の途中で立ち止まる。

「どうした?」

「井戸が……」

 彼女の指差した先には、広場に備え付けの井戸があった。
 だが、別段変わったところは無いように思える。

「何もおかしくないと思うが」

「いや、金網のフタが無くなってるの。これじゃ人がどぼーんって落ちちゃうでしょ。 危ないなあ」

「あぁ。そういやそうだったな。でももう落ちる奴もいないから大丈夫じゃないか?」

「それもそっか」

 ハリエットは納得したようだった。
 おそらく、村を調査に来た騎士団が中を調べるために撤去した―― といったところだろう。

「……って、なんであんたが『そういやそうだった』とか言えんのよ!  知らないでしょーが!」

「ん? ああ……そうか」

「テキトーなこと言わないでよねー。これだからマノットは信用できない」

「そんなことより、日が暮れる前に村を出ようぜ。 このまま真っ暗になったら帰りは難儀するぞ」

 言われてみると、すでに陽は大きく傾いていた。
 不意に一陣の風が吹き、静寂に包まれた村の中を木々の葉ずれの音が駆け抜ける。
 ざわめきの中、赤く染まりつつある空の下で、 灯りの消えた村は早くも暗闇に没しつつあった。

「何だろう……何か、怖い」

 ハリエットがどこか遠くを見ながら、ぽつりと呟いた。
 確かにこの村には、具体的に恐ろしいものなど何も無かった。
 にもかかわらず、ここに居るとそれだけで漠然とした不安が澱 《おり》のように胸の底に溜まってくる。

「謎解きも良いが、あまり思い詰めないことだ」

 明るく言ったマノットが指先で何かを宙に弾き、再び自分で受け止める。
 どこで手に入れたのか、それは小さな宝石を散りばめたブローチだった。
 間違いなく、この村のどこかの家から持ち出した品物だろう。

「少しは金儲けのことも考えないと、人間おかしくなるぞ」

 呆れたようなハリエットと○○○の視線を受け止め、マノットがにやりと笑った。

     ***

 再び地下通路を抜けて処刑場跡まで戻った頃には、空には星が見えていた。

「あ、そうだ。また忘れるところだった! ……はい、これ」

 ハリエットがランタンを地面に置いて、荷物の中から何かを取り出した。
 ○○○が受け取ってみると、それはデルシャール邸の2階で見つけた、 無記名の旅券だった。

「なんだ旅券じゃないか。まだ手に入れてなかったのか」

「そうそう。でもこれでお互い貸し借りなし、契約完了! だよね」

「お前らちゃんと知ってるのか? それの記名は特殊なインクが必要なんだぞ。 俺がここにいて良かったな」

 マノットが言って、荷物からいつかの羽根ペンとインクを取り出した。

「ほれ。今日は儲かったから特別に無料で提供してやろう。 代わりに今度俺の仕事を手伝ってくれよな」

「それ、無料じゃないじゃん。詐欺よ詐欺」

「いや詐欺じゃないだろ。どこにも嘘偽りが無いんだから。まあ遠慮せず使っとけ」

 確かに仕事が必須では無料とは呼べない気がするが、 特殊なインクとなると他にあてがあるわけでもない。
 ここはありがたく使わせてもらうとしよう。

(○○○――っと)

 いつかと同じように、○○○は己の名前を旅券に書き入れる。
 以前にこうしたのが、もう随分と昔のことのように思えた。

「じゃー、帰ろ帰ろ」

 ハリエットが歩き出した。
「お前はこれからどうするんだ?」

「ん? 私? とりあえずは……」

 ハリエットは答えながら、例の指輪を取り出して見せた。

「これ、返してくる」

「はあ?」

 マノットが素っ頓狂な声を上げた。

「村がどうなったのか、この目で確かめたかっただけだもん。 まだ納得はしてないよ。してないけど、 本当に誰も居なくなってることだけは判ったし。 指輪は黙って借りてただけで、最初から返すつもりだったの」


「本気で言ってんのか? 俺としたことが軽く目眩をおぼえたぜ……」

 マノットが額に手を当てる。

「調査をやめるつもりは無いけど、この先のアプローチはまた別に考える。 だから、とりあえず指輪は返しに行くよ」

「まさかそれをまた手伝えって言うんじゃないだろうな」

「いや、今度は一人で大丈夫。返すだけなら屋敷の中まで入らなくても、 扉の前にでも投げておけば良いし。それならあのミケランジェロの相手もしなくて良いでしょ」

 楽しそうに言って、ハリエットは指輪を仕舞いこむ。

「なんか、余計なトラブルを起こしそうだなぁ」

「案外心配性だねー、マノットは。じゃ、みんな元気でねー」

 ベルケンダールの前まで来たところで、ハリエットが手を振った。
 またな、と言い残してマノットも町の雑踏に消えていく。
 ルーメンの村とは違い、ベルケンダールの路地はこの時間でも暖かい光と絶えぬ人通りで溢れていた。

 ○○○もその中に身を投じながら、今日のことを思い返す。
 結局のところ、ルーメンの村で何が起こったのか――。 ほんの少し真実に近づいたような気もするが、 全く遠いところに居るようにも思える。

 短い時間の内に、随分色々なことがあったように感じた。 特に気にしていなかったが、結構な距離を歩き通しでもあったはずだ。
 そう考えた途端、どっと身体に疲れが押し寄せてきた。

 ハリエットの指輪返却作戦などには一抹の不安を感じないでもないが、 それについて考えるのはまた今度にしよう――。

─End of Scene─




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