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ルーメン、真実の行方


     ***

「これを開けたら、うちの地下倉庫だよ」

 ハリエットが木製の扉に手を伸ばし――そこで動きを止める。

「ん……なんか手が……」

 ハリエットが自分の掌を見る。その指先がかすかに震えているのが、○○○にも判った。

「自分の手じゃないみたいだなー。ばーんと開けて、 どーんと突っ込むはずだったんだけど」

 緊張してんのかな、と彼女は誰にともなく言って笑った。

 無理もない。その扉の向こうに、生きている者は一人も居ないはずだ。
 流石にまだ遺体が放置されているようなことは無いだろうが、 村に立ち入れば何かしら惨劇の痕跡を見ることになるに違いない。
 それが具体的に何であれ、あまり楽しい気分になるとは思えなかった。
 特に、巻き込まれたのが自分の家族である場合には。

 ハリエットは眼を瞑《つむ》り、胸に手を当てて深く息を吸い込んだ。
 その様子を見て、マノットが前に進み出る。

「この通路、結構寒かったしな。まあ、ここは念のために俺達が先に様子を見てこよう」

「……そ、そう?」

 ハリエットが扉から後ずさる。

「じゃ、ちょっとお願いしてみようかな」

「ああ、心配しなくても別にお前んちの物をくすねたりはしない。 持って帰るなら隣の家の物で充分だからな。じゃ……開けるぞ」

 マノットが取っ手に手を掛ける。
 軋んだ音を立て、分厚い木製の扉が開き始めた。

     ***

「誰もいないな」

 部屋に足を踏み入れると、足元で埃がもうもうと上がった。
 天井の曇りガラスからは弱い光が射し込み、埃まみれの室内を照らしている。
 狭い部屋だった。本当に単なる地下倉庫らしく、 ところ狭しと無数の木箱や樽が積み重なっている。

「長い間使われていないようだが、特に変わったところはない」

 マノットが、地下通路で立ち尽くしていたハリエットを振り返る。

「そっか。そりゃそうだよね。倉庫だし」

 ハリエットが、ぎこちなく微笑んだ。
 そのまま、おずおずと室内に入ってくる。

「ただいまー……とか言ってみたりして」

「なんかよそに泥棒に入った時より、自宅に帰った時の方が緊張してるな」

 マノットが軽口を叩いた。

「うっさいな! もう大丈夫! 上、あがろ……」

     ***

 階段を上がると、広い食堂らしき部屋に出た。

「綺麗に片付いてる」

 マノットがテーブルクロスの上を指でなで、ついた埃を払う。
 ここも地下室と同様に厚く埃が積もっていたが、確かに綺麗に片付いていた。
 机や椅子に乱れは無く、食器類が置きっぱなしになっているようなこともない。
 もちろん、誰かの遺体が放置されているようなこともなかった。

「どうする? まずは家中を見てまわるか?」

 マノットがハリエットに問い掛けた。

「とりあえずはそうする。何か見つけたら教えてよ」

「見つけたら、って俺らが勝手にうろうろして良いのかよ」

「良いよ。どうせもうここじゃ暮らせないし。あ、私の部屋は立ち入り禁止ね!」

「そんなんわかるか! やはり団体行動にしよう」

「そう? んじゃ、2階から見てまわろ。 自分の部屋は一人で確認したいから、そこだけ待っといて。覗くなよ!」

「へいへい」

     ***

 たっぷりと時間を掛けて、○○○達は家中の探索を終えた。

 ハリエットの部屋だけは内情が不明だが、残りはどの部屋も整然と片付いていた。
 確かにどこもかしこも埃まみれではあったが、遺体どころか、争った形跡も血痕も 、何も見当たらない。
 余り気にしていなかったが、今思えばどのドアも閉じられた状態だった。
 まるで旅行前にきっちり清掃した家が、そのまま無人で放置されていたかのようだ。

「なんか、拍子抜けした」

 探索するうちにハリエットはすっかり身体の力が抜けたようで、 後半ではすっかり大胆さを取り戻していた。

「確かに。噂の村の中とは思えない」

「あんたが言ってたみたいに、いつの間にか別の村に生まれ変わってもいない」

「まあな。ところで、聞くまでもないと思うが、この後は――」

「外に出て村をまわってみる。それしかないでしょ」

「だろうな。今度は俺も緊張してきたぞ……」

     ***

 玄関の大きな両開きの扉を開くと、両側に木立の並ぶ前庭に出た。
 久しぶりに見た気がする空には、いつの間にか灰色の雲が重く立ち込めている。

「うわ! なにこれすっごい落ち葉」

 ハリエットが足元の枯れ葉を靴先で散らすと、下から敷石が顔を出した。

「ここだけじゃないな。先の方もかなり埋まってる。村中がこんな調子かも知れん」
 枯葉の上を歩きながらマノットが前を指差した。


「はー。ずっと掃除しないと、道ってのはこうなっちゃうんだね」

 ばっさばっさと枯れ葉を蹴飛ばしながらハリエットが続いた。
 彼女の家はどうやら村の西のあたり、小高い丘の上に建っていたようだ。
 庭の端まで歩いた時、そこからは人の消えた村の景色が一望できた。

「これが“地図から消えた村”か」

 マノットが言った。
 緑の多い、美しい景観の村だった。だが、 今は民家に一切の灯りが無く、煙の一筋も昇っていない。
 人の住む場所に生じる熱のようなものが、全く感じられなかった。

「すごく……静かになってる」

 ハリエットは少し哀しそうな顔をした。
 確かに、人の気配どころか虫の声ひとつ聞こえてこない。 黙っていると耳鳴りを起こしそうなほどに静かだった。

「一見して、崩れている建物なんかは無さそうだ」

「うん」

「つまり、巨大生物襲来説は嘘ってことだ。まあ一番有り得なさそうな説ではあるが」

「うん。人が居なくなるぐらいなのに、どっこも壊れてないもんね」

「もう少し見てみるか? 何か記念品を拝借したいしな」

「うん。そこ下りていくと隣の家あるから……ちょっと覗いてみよう」

「そうしよう。ただ、ひょっとすると騎士団の見回りがいるかも知れないから気をつけろよ」

     ***

「開いてるな」

 隣家の玄関で、ドアノブに手を掛けたマノットがそう言った。 遠慮なくそのまま扉を開ける。

「誰かいますかー?」

 ハリエットが余所行きの声を屋内に投げかける。

「いるはずねーだろ」

 マノットは返事を待つことなく、ずかずかと家の中に上がりこんだ。

「そうだけど……」

「見ろ。お前の家とはちょっと違うぞ。こっちは結構生活感がある」

 マノットが廊下から部屋の中を指差した。

「食卓に皿が出しっぱなしだ。料理は見るかげもねーが……」

「ほんとだ」

「椅子も引いたままだな。……お?」

「何?」

 マノットが椅子の脇に屈みこむ。埃だらけの床の上から、 鈍く光る銀色のものを拾い上げていた。

「ナイフとフォークが床に落ちてる」

「どういうこと?」

「落としたんだろ。まるで……食事中、そのまま人だけが消えたみたいにも見える」

「ちょっと、変なこと言わないでよね」

 結局、この家の中でも気になるのはそのぐらいの事だった。
 その後も何軒かの家を覗いてみたが、 どこも似たような状態で大きな異状は見当たらない。
 遺体が無いのはもちろんのこと、不自然な汚れや破壊行為の痕跡も、何もなかった。



続く・・・


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