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ルーメン、真実の行方


〜戦闘省略〜

     ***

「よし……それじゃ、ここを下りるよ」

 首尾よく邪魔者を始末した○○○達は、 ハリエットに先導されて旧処刑場の地下へと続く階段を下り始めた。
 彼女は“ルーメンの村に潜入する”と言っていたが、この先にその手段があるというのだろうか?

 一段一段が高くて歩きづらい石造りの階段を下りると、 やがてひとつの部屋に行き着いた。

「おい……これ納骨堂じゃないだろうな」

 かび臭い室内の様子を一見して、マノットが嫌そうな顔をした。

 天井の明かり取りからはぼんやりとした光が射し込み、 床の一部分を丸く照らしていた。
 奥へと長い部屋の両側には、小さな扉がずらりと並んでいる。
 それらのひとつひとつに、少しづつ違ったドクロの装飾が浮き彫りにされていた。

「そこまでは知らない」

 ハリエットはさっさと奥へと歩き出していた。
 薄暗い地下室の中に、こつんこつんと靴音が反響する。

 一般に、地下に作られた空間では季節を問わず室温が安定する。
 井戸の水は夏には冷たく、冬には暖かく感じられるが、 これと同じことが地下室の空気でも起こるわけだ。
 このため、上手く作られた地下室というものは、 地上に比べると快適な環境になりやすい。

 ……その割に、この部屋があまり快適に感じられないのは、 柱や扉に彫られた不吉な装飾のせいだろうか。
 それとも、単に“元処刑場の地下だ”という先入観のせいだろうか。

 ハリエットの後を追いながらそんなことを考えていると、 やがて彼女は1枚の扉の前で立ち止まった。

「……あ、これだこれだ! 懐かしいなー」

 そんなことを言いながら、ハリエットは石扉の表面を手で払う。

「懐かしいってお前、こんなとこに来たことあるのかよ」

「ここって、うちの秘密の抜け道から繋がってるんだよね。 だから小さい頃に何度か探検しに来たことがある」

(なるほど……)

 本人が言っていたように、“うち”が貴族の家だとすれば、 確かに秘密の抜け道ぐらいあるものなのかも知れない。
 ここからルーメンの村までどの程度の距離があるのか知らないが、 直通しているならばかなり大掛かりな通路だと言える。

「さて……壊れていませんように」

 ハリエットが例の指輪を取り出した。
 そのまま扉に掘られたドクロの装飾の口の奥に、指輪を差し入れる。

 次の瞬間、ドクロの奥でおぼろげな青い光が生じた。
 光は幾つもの細かな粒子に分かれ、 扉の表面に掘られた無数の溝を複雑な軌道で駆け抜ける。
 幾秒かの間があって、かちり、と奥から音がした。

「やた! 開いた!」

 興奮した面持ちのハリエットが指輪を取り出すと、 ごろごろと重い音を立てて石扉がゆっくりと持ち上がり始めた。
 同時に、ひやりと冷たい空気が足元に流れ出してくる。

「指輪は認証鍵か。しかし怖いな……これ。お前、こんなところで遊んでたのか」

 マノットがまだ動き続けている扉の前で屈みこんだ。
 そこに口を開けつつあるのは、更に地下深くへと通じる暗くて狭い下り坂だった。
「こ、こんなんだったかな……。私の記憶では、 もうちょっと広々した感じだったんだけど」

 答えながら、ハリエットは荷袋の口をほどいて中からランタンを取り出した。
 前と同様、火ではなくて夜灯草を使った安全かつ簡易な品物だ。

「まあとにかく、これを抜ければ、そこはもうルーメンの村の中ってわけ。 ……崩れてなければね」

     ***

「お前んちって、ひょっとして処刑場に度々出入りするような仕事の家系だったのか?」

 マノットの声が、暗い地下通路の中に反響した。
 彼は時折○○○の方を振り返りながら歩いていたが、 その表情は暗闇に溶けてまるで見えなかった。

「やー、全然違うと思うけど、ひょっとすると大昔にはそうだったのかも」

 先頭を行くハリエットが、ランタンをかざして壁や天井を頼りなく照らす。
 彼女の手の動きにあわせて、皆の影が大きく揺れ動く。

 通路は完全な闇ではなく、所々に明かり取りの用意された場所が点在していた。
 だがその光量はハリエットのランタン並みに乏しい上、 明かりと明かりの間隔は異常なまでに開いている。
 道を照らすためというより、 進むべき方向を見失わないようにするためにあるようだった。

「というか、“うちの家”とは言ったけど、実のところ私は元孤児だからね。……あ、 村が全滅ってことは、今はまた孤児に戻ってるのか」

 ひたひたと足音を響かせながら、○○○達は次の明かりへ、 次の明かりへと暗闇の中を歩いていった。

「今ボーレンスのサナトリウムで寝たり起きたりしてるピーテルも同じ。 二人ともルーメンの教会で暮らしてたところを引き取られた」

「ありそうな話ではある」

「貴族ってこういうの結構好きだよねー。突然孤児を引き取ってみたり、 意味も無く教会にどかんと寄付してみたり。うちもそんな感じだったわけだ。 これってひょっとして税金対策?」

「違うぞ。ベルンの貴族には、最初から納税の義務はない」

「じゃああれか、子供手当て!  ベルンって孤児とか病気の子を養ってると余分にお金もらえるよね」

 いや、とマノットは軽く否定する。

「ノブレス・オブリージュ――かな」

 呟くように、彼はそう続けて言った。

「のぶ……何?」

 ハリエットが立ち止まって振り返る。
 手元の淡い光に下から照らされながら、彼女は目をぱちくりさせた。

「より多くを得ている者は、より多くの義務を負うべきだ。 ゆえに奉仕は貴族の責務であり、美徳となる。まあそんな考え方だな」

「……マ、マノットの口から出た言葉とは思えない」

「一般教養だ。エリートの思想だから俺には関係ないぞ」

 マノットが苦笑する。

「偽善だと笑う者もいるが、仮令《たとえ》偽善であれ、 続けることができればそれは本物になる。……逆もしかり」

「逆?」

「意地の悪いふりを続けていると、いつか本当に心が歪む。とりあえず先へ進もうぜ」

「……気をつけます」

     ***

「しかし、大丈夫か? 村がひとつ全滅したんだろ。ひょっとして俺達は今、 物凄く危険な場所に向かってるんじゃないか?」

 再び通路を進みながら、マノットは今更のようにそんなことを言った。



「一年以上も前の話よ。疫病ならぼちぼち安全になってるんじゃないの。知らないけど」

「疫病だと決まったわけじゃない」

「巨大生物襲来だったら、なおさら大丈夫でしょ」

「うーん」

 マノットが首を傾げる。

「前から思ってたんだが、この村ってあれだよな。あの話を思い出す」

「どの話よ」

「あれだよほら。ある島で事故が起こって村人が全滅するんだが、 大量の死体は国によって秘密裏に処分される。 そして隠蔽のために送り込まれた人間が少しずつ島の死者と入れ替わり、 いつの間にか全く別の村へと……」

「知らない」

 ハリエットは前を向いたままであっさり言った。

「なっ!」

 マノットが仰け反る。

「マジかよ……。これが世代の違いか……」

「まあそのお話はともかく、ルーメンの村についてはもうすぐ判るよ」

 そう言って、ハリエットは少し緊張の面持ちで振り返る。

「着いた」


続く・・・


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