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聖公庁礼拝堂



 真紅のドレスに身をつつんだ魔女は、虚ろな瞳を宿す聖公のそばをゆらりと離れた。

カルミネラ

「カルミネラ!」

 モルトたち4人は、ついにカルミネラと対峙した。

「そんな怖い目でみないでほしいわね。聖公庁による支配は―― ルクレチアの民自身が望んだことじゃない」

「何を言いだすの!?」

 抗議の声を発するセルリアに、カルミネラは穏やかな視線をむけた。

「わからない? 王政が滅んだのちも、人々は神性への隷属を望み―― 聖公の支配を、“救世主”という名の生贄を望んだ。 わたしはその声にこたえてあげただけよ」

 紅の瞳で、エルニノを一瞥する。

「わたしがこの手であやつったのは、ひとにぎりの人間だけ。 “ストラルドブラグ”計画が生む利益にむらがったのはみんな、 欲にかられた“正気”の人間たちだったわ」

 カルミネラは少女のように、くすくすと笑った。 高い窓からかすかに月明かりがさしこみ、骨のように白い顔を照らす。

「そもそも錬金術による催眠誘導は、 相手の心の奥底にある感情を増幅させてあげるだけなの。 すべては“本人の意思”――聖公がわたしの言いなりになったのも、 その男が逃亡をつづけたのも」

 こんどはモルトに瞳をむける。

「――そのとおりだ」

 双眸に決然たる色を浮かべたモルトが、魔女にこたえて言った。

「この魔女にはストラルドブラグを金縛りにする、 不思議な力があるようにみえる。でも、本当はちがう―― この女を殺せなかったのは、オレ自身の“畏れ”のせいなんだ」

 純粋な称賛の表情で、カルミネラがまぶたの弧を細めた。

「ストラルドブラグの本質は不死ではない。“恐怖”だ。 生物がもつ死への恐怖を増幅することで、 肉体の潜在能力を引き出し――そして思うがままにあやつるんだ」

 彼は、セルリアから受け取った腕輪をみつめた。

「オレが本当に恐れていたのは死ではない、“生きること”だった。 でもセルリア、きみが――生きる勇気をくれたんだ」

 腕輪が放つ光から力を得たかのように、肯定して言う。
 モルトがふりむくと、セルリアはすこし顔を赤らめてうつむいた。

モルト

「生のなかで、人はかならず死と哀しみに直面する。 だが哀しみを知る者にしか“愛する勇気”をもつことはできない」

 モルトは、そう言ってふりかえった。エルニノはまっすぐに、 彼の背中をみつめていた。

「エルニノ、よく見ておけ――これが“涙の意味”だ」

 突然、耳を聾するカルミネラの高笑いがひびきわたった。

「よく見破ったわね――呪縛の正体を。さすがは最高の作品というところかしら……」

 彼女はくちびるを舐めて、ニードルガンをとりだした。モルトの本能が警戒信号を発する。

「とても美しい寓話だわ。でも、あなたは大事なことをひとつ忘れている。それは――」

 血の色のくちびるから、無機質な声音が発せられた。

「生きのこるのは、正しい者ではない――より強き者、 神により近き者だということよ!」

真紅の魔女(かなり強そう)が現れた!

カルミネラ

―See you Next phase―

選択肢なし





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