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神の子 |
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ねえクオレ。 ここはどこだろう…… 編集部にもどって編集長に内戦の話をしたら「バカバカしい」と鼻で笑われた。 「じゃあ証拠みせます!」と宣言して現像したフィルムには、バカみたいに平和で青い空が、 きまり悪そうに写っていただけで。 する前からわかってたけど。 うぅ。 そんなわけで、舞いもどったのだった。辺境に。 ごっついカメラをかかえて。 *** ――それにしても。 『地図が読めない』というのは報道カメラマンとして致命的な欠陥だと思う。たとえ見習いでも。 「迷ったのか?」 「うん。――って、ええっ?」 ふりむくとうしろに、モルトが立っていた。例の楯型の棺……じゃない、棺型の楯をもって。 「また、内戦の取材か」 こくりとうなずくと、彼は無感動な表情でつづけた。 「どうして、わざわざ危険を追うようなマネをする?」 「ほ、報道の自由のためよ!」 「次は助けられないかもしれないが――」 「かまいません!」 モルトは溜息をついた。 ちょっとムッとしたけど、でもこれだけは言っておかなきゃならない。 「あの」 「なんだ?」 「このあいだは、ありがとうございました」 生命を救われたお礼。 前会ったときはいっぱいいっぱいで、言えなかった。 彼は、すこし照れたような表情をみせた。 「仕事みたいなものだ」 ……どんな仕事? こないだの紅い女の人のこととか、 内戦のこととか楯のこととか聞きたいことはいっぱいあったけど、 今回は取材を急ぎたかった。 紛争の証拠写真を撮るのだ。 日の沈まないうちに。 「じゃあ、わたし。これで」 わたしが最寄りのちいさな街にもどろうとすると、モルトが呼びとめた。 「名前は?」 ……わたしの名前? なんとなく意地悪な気分になって、つい、こうこたえた。 「あててみたら?」 「む――、ミグノ?」 「惜しい」 「エレノラ?」 「全然ちがう」 「セルリア」 やさしい感触のひびきだった。 「どうした、正解か?」 首をふった。 「――ちがうけど、気にいった」 「そうか。では、次はそう呼ぶ」 巨大な楯をひょいともちあげながら、モルトがつけくわえた。 「……死んだ妹の名前なんだ」 ――そっか。クオレと同じだ。 わたしのつぶやきが耳にとどいたらしく、モルトは顔をあげた。 「クオレ?」 「あ、弟の名前。“大戦”で死んだの」 「そうか。悪いことを聞いた」 モルトはそう言うと、きびすを返して歩きだした。 ――もう行っちゃうんだ。 「次はそう呼ぶ」って。 次はないかもしれないのに。 「セルリア!」 遠くからまたモルトが呼んだ。 ふりむいたわたしに、声をはりあげる。 「街なら反対の方角だ」 地図が読めない女…… ─See you Next phase─ |
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