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ルクレチアの英雄 |
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匍匐《ほふく》姿勢のまま、何時間がすぎただろう?
緊張で乾いた喉を、秋の冷気が刺す。 ――まだか。 大尉は城砦をみおろす崖から、好機を待ちつづけた。 今回、ブラックベレーにくだったのは、救出任務だった。 ザクソニア侯国の手に落ちた聖公の後継者、エルニノを救いだす、というものだ。 エルニノは、聖公シエロの妹の子にして、まだ1歳足らずの赤子。 “神に祝福された子”としてシエロの養子に迎えられた、 ルクレチアの民の希望の星だ。 ――しかし。 モルトは歯がみした。 いまだにザクソニア側から具体的な要求がないことが、 事件の不可解さを増幅していた。 ――敵の意図はなんだ? 救出計画は極秘裡に進められ、モルトの隊は 2日がかりでエルニノの拉致された場所をつきとめた。 それがこの、“巨岩城砦”だった。 「――“丸刈”!」 「ハッ!」 モルトの突然の呼びかけに、“丸刈”と呼ばれた新任の補給担当官が応じた。 「貴様も改造をやるのか?」 「ハッ! 銃器の改造なら、いつでも声をおかけください」 「銃器だけか」 「残念ながら銃器だけです。ただ『服飾』などの専門知識をもつ者は、 武具のさまざまな改良が可能と聞いております」 「たとえば?」 「たとえばわが軍の兵服は『型紙:胴』『ハードレザーメイル』 『白銀勲章』から製造可能だとか。実戦を考慮するのであれば、 白銀でなく『黄金勲章』を利用すると聞いております」 勲章にそんな使途があったとは初耳だ。 ただ胸にさげておくよりよほど実用的かもしれない。 「『調合』の知識をもちいて、爆薬以上の火力を有する秘薬を製造し、 携行する者もあるとか。 稀な資材の調達機会は思わぬところに転がっていますから、 隊長も試行錯誤されてはいかがですか?」 「錬金魔術か。好きではないな」 モルトは双眼鏡に目をあて、敵の監視を再開した。 ─End of Scene─ |
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