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ゆっくりとｶﾒﾗのﾌｧｲﾝﾀﾞｰから視線を外し、大きく息を吸って、はく。 歯がかちかちと噛みあわない。初夏なのに指は震えっぱなし。 被写体を追うばかりで、いちどもｼｬｯﾀｰを押せてない。あ、その前にﾌｨﾙﾑを替えないと! 「落ちつけ、わたし」  井戸の脇に伏せたまま、わたしは状況の整理をこころみる。 ここ、ﾙｸﾚﾁｱ全土を涙と硝煙の大渦に巻き込んだ“大戦”が終わったのは、わたしが10歳のとき。もう10年も前のこと。 その後、聖公ｼｴﾛさまの庇護のもと、ﾙｸﾚﾁｱ共和国にはかつてない平和がおとずれた。でも…… ――内戦が、おきてたんだ。 ずんぐりした身体つき、焦茶の髪。ﾃﾛﾘｽﾄたちは、わたしと同じﾙｸﾚﾁｱの民だった。 終戦から10年。 反乱分子の掃討作戦は、ずっとつづいていたのだろうか。それとも――? 突然、わたしは思いだす。 特ﾀﾞﾈをもとめて辺境をおとずれた、見習い報道ｶﾒﾗﾏﾝとしての使命を。 ――たしかめるしかない! どぉん。 わたしの決意と、ﾀﾞﾒ押しの砲弾の着弾がほぼ同時だった。 反射的にすくめた首をあげる。 衝撃で、取材用ﾊﾞｯｸﾞの中身がばらばらと散乱していた。 ――替えのﾌｨﾙﾑ! ｶﾒﾗのなかにのこってる分だけじゃ、もう何枚も撮れない。 ――拾わなきゃ。 そう思うけど、足どころか身体全体がすくんで動かない。 まだ戦争がつづいてたなんて、「ﾍﾞｽﾄ･ｼﾞｬｰﾅﾘｽﾄ賞」ものの、大ｽｸｰﾌﾟ! でも、銃撃戦のまっただなか、いま出てゆくのは…… どさっ。 頭上から、何かが落下した。 生暖かい重みを感じた左肩に、ゆっくりと目をやると―― 肩に、持ち主のない手が乗っていた。 ─See you Next phase─ |
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