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エルアーク:四象の化身

「さて、では今日の指導についてですが」

 老師が持つ単書の中、深い霧に包まれた山の一角にある小さな平地に、 ぽつんと建物が一つ。その“堂”と呼ばれる建物の入口へと続く、 十段ほどの短い階段に腰掛けていた小さな老爺は、 膝元に抱いていた朱色の小鳥の背を撫でながら、 いつもの静かな口調で話を始めた。

「原理述の秘蹟、その四属性についての細かい説明に入る前に、 秘蹟に関わる基本的な知識をあなたに話しておこうと思います。 ツヴァイからある程度話は聞いていると思いますが、彼女はああ見えて、 意外と抜けていますから。 重要なところを説明し忘れている可能性がありますしな」

 言って、老師は少しの茶目っ気のある笑みを見せた。確かに、 “箱舟”の管理人を務めるあの黒衣の少女人形は、 その容姿から受ける印象とは異なり微妙に隙があるというか、 詰めが甘いというか。そんなところがある。

「という訳でして、少し復習といきましょうか。原理述秘蹟、 一般には術式と呼ぶそれは、四つの属性、炎、氷、光、闇。正熱、 負熱、正電磁、負電磁の何れかに属する、 非物理的な力――あなたの馴染み深い言葉で言えば、魔術、 仙術、呪術、方術等々をまとめてそう呼びます。 例外として鳥の姫君が使うような音楽の力をまとめた原理述、 “奏法”も術式に分類されるのですが、 そちらに関しての詳しい話は彼女に聞いてみてください」

 鳥の姫君……歌子の事だろうか。

「ええ。もっともあの鳥の姫君の場合、熱心に教えてはくれるでしょうが、 なかなか実のある話を聞くのは難しいかもしれませんけどね」

“硝子天蓋”に暮らす半人半鳥の娘の、赤い瞳と白色の羽毛、 そして自分を「べんきょう」に誘おうとする強引な声を思い出して、 老師と共に苦笑いを浮かべた。

「まぁ、話を戻しましょう。次に術式の特徴についてですが―― まず距離を無視した攻撃や、広範囲の攻撃が多くある点が挙げられます。 術式は生み出した力に指向性を与えてそのまま放ったり、 定点の環境などを変化させる事を効果としますから、 敵全体を一度に攻撃したり、 遠くの敵に攻撃を届かせるのが武器等を用いた直接攻撃より容易、 ということですね。他には、 相手や自分が触れることを起動鍵として術式を遅延発動させる “呪詛”といった少し毛色の違うスキル、あとは状態を変化させたり、 逆に治癒したりするスキル等もあるのが特徴ですか」

 兎に角、“経過”を原理述という特別な図で描いて、 それによって確かな“結果”を現実に生み出す。 そうした手法の総称として秘蹟、術式という名をつけている、 と老師は穏やかに話し続ける。

「そして術式の発動には、 オルタナティヴインスタンス――代替具現要素を持つ品を所持している必要があります。 オルタナティブインスタンスは、いってみればその属性を表すシンボルのようなものですな。 それらを含んだ武器を所持していれば、その属性の術式が使用できます。 私のような者や、この子達のような存在自体に属性を秘めている者ならば、 そういったものなど使わずに力を操る事も可能ですが、 “迷い人”であるあなたが原理述としてこれらの力を用いる場合は、 栞から型を引き出すために、どうしても必要となる。 忘れないようにしてください」

“挿入栞”を利用した、様々な技術の再現。機能としては便利なものだが、 しかしこうした制限も当然ながら存在する。 しっかりと頭に叩き込んでおかないと、 ふとしたときに足を取られることになるかもしれない。 ○○は神妙に頷きながら、他に制限のようなものはないかと訊ねると、 老師はふむと一度頷き、

「術式における制限となると……金属でしょうかね。 細かい理屈は長くなるので省きますが、 金属は基本的に術式を行使する際の力を阻害します。 術式を主にした立ち回りを行うつもりなら、 金属製の装備品は避けたほうがいいでしょうね。 もっとも一部の金属はこういった力の伝達を阻害しないものもありますので、 術式を使いつつも装備品に物理的な強度を求めるなら、 そういった素材を使用した金属製品を身につけるといいでしょう」

 などと簡単に言うが、そういった金属は大抵高価か、 加工するのは非常に難しいかで、 手に入れるのは並大抵の苦労ではない気がするのだが。

「はは、その辺りは、あなたが群書世界でどれだけ力をつけられるか次第、 ですな。――そうそう、金属を身につけすぎた場合でも、 オルタナティブインスタンスを備えた武器さえ持っていれば、術式の発動だけは可能です。 もっとも、その場合殆どの術式はまともに効果を発揮できずに終わりますが、 中には術式を操る力に効果が左右されないものもありますので、 そういった術式を使う際には有用な知識だと思います」

 そこまで言い終えると、老師は階段から腰を上げて、 とんとんと杖で己の肩を叩く仕草。

「さて、復習はこんなところですが……ついでですから、 少し実地でやっていきますか」

 併せて傍でごろごろと転がっていた獣達も起き上がって、 階下の平地にいた○○の方へと近づいてくる。

「朱雀、青龍、玄武、白虎。なるべく、 ○○が原理述として扱える技を色々と見せてあげてください。 ○○は、上手くそれを凌ぎ切れれば合格ということで」

 老師の言葉に、四匹の獣がぴーきゅーと声を上げて、 こちらの四方を取り囲むような位置取りに。

 (これは……)

 ここまでお膳立てされては、覚悟を決めるしかないか。

 ***

四小聖が現れた!


老師

 ―See you Next phase―


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