TOP[0]>攻略ルート選択 >リザルトTOP

落丁


 城の上層に並ぶ、巨大な本棚を幾つも備えた部屋の集団。
“主の書室達”と呼ばれるそこが、“箱舟” の管理人であるツヴァイが暮らしている場所だ。
 彼女の部屋を目指して城の折り階段を何度も上り、 幾つかの通路を通って更に上り。そろそろ到着かといったところで。

(……またか)

 通りがかった書庫の一室から音。覗き込めば、くすんだ金髪の少女が、 以前途中で切り上げた書庫整理の続きをしていた。


落丁


「あら、○○さん? 何か御用で──と、申し訳ありませんけど、 ちょっと待っていてもらえますか? もうそろそろ終わりますので」

 ツヴァイはそう言うと、整理の速度を上げた。
 どうやら途中で切り上げるより、 整理を急いで終わらせたほうが良いと判断したらしい。
 別に彼女にこれといった用がある訳でも無いのだが、 かといって他に急いた用事がある訳でも無い。
 ここでさっさと引き上げるというのも何だし、 彼女の仕事が終わるのを待たせてもらうとしよう。

     ***

 そして部屋の一角の整理を開始してから体感で10分程が経過。
 しかし、○○が見ている限り、 残念ながら彼女の作業が直ぐに終わる気配は無かった。
 周囲の状況と、彼女の作業速度。その二つから○○が見積もったところ、 あと半時間は堅い。○○は手持ち無沙汰にその様子を眺めていたが、 流石に退屈になってきた。
 こうしてツヴァイの動きを眺めているのにも飽きたし、 ○○は少し辺りを散歩する事にした。
 何も言わずに居なくなるのも拙かろうと、立ち去る前に、 山のように本を抱えて本棚の一つへと移動していたツヴァイへ声を掛ける。

「……え? ああ……と、歩き回るだけでしたら大丈夫だと思いますけれど、 単書を読もうとするとか──間違っても、 単書に挿入栞を挿し込もうとかしないでくださいね。扱いが大変なものですから」

 などと彼女は言うが、先程その単書とやらの上に尻を置いて滔々 《とうとう》と語っていたのは何処の誰だったか。
 だが、ここであれこれ突っ込んでツヴァイの作業を遅らせるのは得策ではない。 ○○は無言で手を振って、その場を離れた。

     ***

 主の書室達は、名が示す通り、複数の部屋の集合である。
 それぞれの部屋を繋ぐ廊下を暫く歩き、適当な部屋を覗き込んだ○○は、 中の様子に少し驚く。
 百平方メートルは優に超えるであろう部屋には無数の大棚が並び、 その中には本が所狭し──と言う程並べられている訳ではなく、 棚には意外と空白が多い。
 意外であったが、逆に当然かと考える自分も居た。
 ここにある部屋は、一つで恐らく万は楽々超えるであろう蔵書が可能。 それが複数。
 対し、単書はツヴァイから聞いた限りではかなり特殊な製法で作られるものであるらしく、 そう数があるようには思えない。
 つまり、今目の前に広がる空虚な光景。薄暗い部屋に並ぶ、 収めるもの無き書架の群れは、ある意味当たり前の風景であると言えた。

「……にしても」

 そんな部屋に入ると気が滅入りそうで、○○は中を覗き込んでいた顔を引っ込めて、 廊下の左右を見回す。
 退屈しのぎとしてツヴァイの傍から離れ、あれこれ歩いてみたものの。 正直言って、ここには見るべき物が全く無い。
 ツヴァイからは本には近づくなと言われているし、 何より彼女の先程の説明を信じるなら、読もうとしても読めないものらしい。 栞を使って中に入れば別なのだろうが、流石にそこまで怖いもの知らずではない。
 こうなると、後は単に歩き回って周囲の様子を見て楽しむしか無い訳なのだが、 残念ながらここは本を収める目的だけに特化した場所。 どの部屋を覗いても、殺風景な室内にただ巨大な本棚が並んでいるだけだ。 それぞれの部屋の構造にしてもほぼ同一で、 違いといえば棚の中に本が収まっている数くらいか。
 これではまだ本を抱えたり不思議な力で動かしたりしながら、 本棚の間を右往左往するツヴァイの様子を、 後ろからのんびり眺めていた方がまだマシだった。

(いっその事、そうするか)

 そう考え、元来た道を戻りかけた○○の視界の隅を、

 ──ふらり、と白い影が過ぎった。
「!?」
 振り返る。
 いつの間にそこに居たのか。廊下の向こう、距離にして数十メートル程。 そこにぽつんと浮かぶ影は、飾り気の全く無い純白の衣服に身を包んだ、 恐らくは子供。
 確か、数瞬前にはそのような影など何処にも存在しなかったというのに。


続き>



画像、データ等の著作権は、 Copyright(C)2008 SQUARE ENIX CO., LTD./(C)DeNA に帰属します。 当サイトにおける画像、データ、文章等の無断転載、および再利用は禁止です。