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ピーテルの夢[サナトリウム]



○○は北へ進むことにした。

     ***

 やがて、○○達は見覚えのある場所に出た。



「ここは僕にも判る。ボーレンスのサナトリウムだね」

 ユルバン神父が前方に出現した建物を見て言う。確かに、○○も何度も通った場所なので間違いはないだろう。
 ただ、今は時刻が夜だった。いつもとは雰囲気が全く違っている。

 サナトリウムの周囲に広がる白樺の林は恐ろしく暗く、周遊道を外れてしまうと足元すら見えない有様だった。
 建物の中からは所々明かりが点いているようだが、窓には全てカーテンが掛かっているため、外にまで漏れる光はほんのわずかだ。
 暗闇の中でぼんやりと白く浮かび上がって見えるサナトリウムは、率直に言ってかなり不気味だった。

「中には入れないかな?」

 玄関に近付いてから神父が言った。

「鍵が掛かってます」

 ハリエットが入口の扉をがちゃがちゃ揺らす。扉の奥からは明かりが漏れていたが、人の気配は全く感じられない。

「夜に無人のサナトリウムっていうのは、結構怖いですね」

 ハリエットが力なく微笑んだ。

「裏手の方を見てみよう」

 神父が言って、先を歩き出した。○○もそれに続く。今度はハリエットが最後尾になって続く形になった。
 ――が、幾らも進まない内に、○○の背後で「わっ」とハリエットの声がする。

 振り向くと同時に、どさ、と音を立てて彼女が転倒し、地面に両手と膝をつくのが見えた。

「ハリエット君、大丈夫かい?」

 神父が振り返る。

「あ、大丈夫です。……なんだろ? 歩こうとしたら急に足が動かなくなって……」

「足首をつかまれたせいだね」

「気持ち悪いこと言わないで下さい……神父様」

「いや、本当につかまれてるよ。ほら」

 神父に言われて、ハリエットが自分の足を見る。彼女の両足首には、半透明の白い手が無数に巻きついていた。
 ハリエットが珍しく、女の子らしい悲鳴を上げた。

走れない夢



戦闘省略


     ***

 白い手を追い払い、サナトリウムの周囲をぐるりと回ってみる。

「……特に気になるところは無いかな」

 正面玄関にまで戻ってきたところで、神父が立ち止まって言った。
 ○○は念のために扉に手を掛けてみたが、鍵が開いているというようなことも無かった。

「ピーテル君の近況を考えると、ここが一番、重要な風景だと思ったんだけど」

「私もそう思います」


「まだ何か、条件が足りないのかな? 一応、もう一回だけぐるっと周って他をあたるとしよう」

     ***



「……あれ?」

 ハリエットが声を上げる。彼女はサナトリウムの建物の方を見ていた。
「あそこ、最初からああだったかな?」

 彼女が指差す先を見ると、サナトリウムの一階の部屋の窓から明かりが漏れていた。

(どうだったかな?)

 最初からそうだったような気もするし、もっと暗かったような気もする。
 だが、あの位置にある部屋は確か――。○○は、建物内部の廊下や部屋割りを頭の中に描いて確認した。

(……やはり、間違いない)

「ピーテル君の部屋かな?」

 ユルバン神父が言う。その言葉を待たずに、ハリエットは既に駆け出していた。

     ***

「何かいる……!」

 病室の窓から中を覗いたハリエットが言う。彼女はそのまま窓枠を乗り越えた。○○も彼女の後を追い、窓から室内に上がりこむ。

 室内に人の姿は無かった。本来ならそこで眠っているはずのピーテルも居ない。
 代わりに、部屋の隅には人間の掌ほどの腹部を持った、一匹の大きな蜘蛛がいた。

「蜘蛛……?」

 ハリエットは怪訝そうに言って、ナイフを構えた。
 これが問題の“蜘蛛”である可能性は高い――。だが、○○は妙な引っ掛かりを覚えていた。

(この状況、どこかで聞いたことがあるような……?)


 ピーテルの病室。そして、大きな蜘蛛。
 この光景を○○が直接見たことは無い。それは確かだ。しかし、 何かが気に掛かる。
 記憶の糸をたぐる内、○○の脳裏にふと、いつか聞いた女性の声が甦った。

 ――この間、大きな蜘蛛がいたんですよ、この部屋。

 あれは一体、いつのことだったろう?
 言ったのはサナトリウムの看護師だったはずだが、どういう話をしたのだったか……。

 蜘蛛が前足を持ち上げ、侵入者を威嚇した。
 ○○は反射的に武器を構える。だが、そこに至ってもまだ、胸にわだかまりがあった。

 何か、大切なことを忘れているような――。

     ***

記憶の結界が現れた!



─See you Next phase─





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