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屋上


 階段を一気に駆け上がると、 叩きつけるようにドアを開けて屋上に飛び出した。
 すぐに蒼とヘルマーチンが、あなたに続いて飛び出してくる。
 いつわりの空に星はない。ただ、どんよりと闇がひろがっているばかりだ。
 広々としたコンクリのフロアにはびっしりと、なにやら見たことのない文字や記号と様々な図形が、 赤黒い液体によって描かれていた。
 あちこちにいくつも、ぼうっと宙に浮かび上がっているのは燐か、鬼火か。
 一瞬、その異様な光景に気おされるが、あなたは覚悟を決めて進み出る。

「朱鳥!!」

 ごうッ!! と風が、全身に吹きつけた。



 風の向こうに、彼が立っていた。

「やあ、来たか。特等席にようこそ。トモキと言ったっけ。彼は残念だったね」

「朱鳥、世界を元にもどせ。お前たち化け物どもは、 自分たちの世界に返れ」

「そいつはできない相談だな。もう、遅すぎる。ほら」

 と、朱鳥が目で指し示した先には、 手すりの向こうに黒々と沈んだ街の姿があった。
 と一斉に、遠く、街のそこかしこから、

「あおーん……、あおーん……!」

 と、大勢のうめきのような、鳴き声のようなものが、 上がりはじめた。

「な、なんだ、あの声は!?」

 あなたは目を見開いて、眼下の暗い街並みを見渡した。

「グールどもだ。異界を……、闇の世界を呼んでるんだ」

 ヘルマーチンが、そう忌々しげに吐き出した。

「そう、彼らは呼んでいる。絶望、恐怖、 憎悪の三女神を……」

 無数のグールの呼び声に応えるように、地の底から重く、 低く、異様などよめきが湧き上がってきた。
 どくん!
 コンクリの床が、生き物のように波打った。

「もう、遅いよ。じきに次元の境界は完全に失われ、 異界が姿を現す。誰にも、とめることはできない」

「だが、それでもお前との決着はつける」

 蒼が銃を構え、進み出る。

「さあ、そいつはどうかな、蒼。残念だけど、 君は僕と戦う前に死ぬこととなる」

「朱鳥、なにを……?」

 言いかけた蒼の背後から、 素早く腕がのびて彼女の首をホールドした。

「う……!? ○○○!?」

 蒼の首に回した腕を、 あなたはちからの限りに締め付けた。

「くッ!」

 蒼は銃を取り落とすと、 あなたの腕に両手をかけて必死にゆるめようとした。
 だが、きつく固められた腕は、びくともしない。
 オレはいったいどうなったんだ? 何をしてる!? やめろ! やめないか!!
 あなたは何が起こっているのか理解できず、 頭の中で必死に叫びを上げたが、 両腕は蒼の首を締め上げ続けていた。あなたの体は、あなたを無視して、勝手に動いていた。

「フッ、虫女だよ。いま、お前の体は、脳の中にいる虫に操られてるのさ。ショッピング・モールで気を失ったお前たちに、虫を仕込んでおいたんだ。もしもの場合に備えてね」

「ぐッ……!」

 蒼は激しくもがくが、首に回された腕はさらにちからをこめて締め上げてくる。
 グールである蒼は、呼吸を止められたところで、さしたる危険はない。だが、首の骨をへし折られてしまえばさすがにダメージは大きく、肉体の修復にもかなりの時間がかかる。

「首が折れて満足に動けなくなった君を、 僕が始末してあげるよ。残念だけど、仕方ない。 すべて君が悪いんだぞ、蒼。僕を裏切って、 敵にまわったことを後悔するんだね」

「ふん、どうせそんなことだろうと思ったよ」

 と、平然としたヘルマーチンが口を開いた。

「なんだと?」

 ふいに蒼の首を締め上げる腕のちからがゆるんだ。
 すかさず、蒼はあなたの腕を振りほどくと、 床に落ちた銃を拾った。
 あなたは、ほどかれた腕で頭を抱えて、 床に膝をついた。

「うッ……! あ、頭が……!! ぐ……、ぐああっ!!」

 頭の中でなにかが爆ぜるような激痛をおぼえ、 思わず額を床に打ち付ける。

「○○○!?」

 蒼が心配そうに叫ぶ。
 ドロリ。と、緑色の液体が、 あなたの鼻と口からあふれ出した。
 ヘルマーチンは、涙を流してゲーゲーやっているあなたを横目で見ながら、

「体育館で、蒼を救出した後のびてしまった○○○の体を、ついでだからちょっと調べてみた。そうしたら、頭の中にヘンなもんが眠っているようだったんでな。そいつが起き出して何かはじめたら、すぐさま駆除できるようバグ取りを仕込んどいたんだ」

 鼻と口元にねばつく液体をぬぐいながら、 あなたは蒼に助けられてなんとか身を起こした。

「そういうことは、前もって教えておいてくれないかな……」

「敵をだますにはまず味方から、 ということわざを知らないのか。 虫が動き出さない限りバグ取りは動きようがないんだ。 事実を告げて、お前にへたにビビられても困る。それに、前もって教えたりしたら、面白くないじゃないか」

 ヘルマーチンは、朱鳥にやりかけた視線を戻して、 付け加えた。

「ああ、それから、心配しなくていいぞ、○○○。 俺の特製バグ取りver.2.5には、 食い荒らされた脳神経のリカバリ機能も付いてるからな」

 ヘルマーチンをにらみつけるあなたに背を向けて、 蒼は再び朱鳥と向き合った。

「朱鳥、いくわよ」

「いいだろう。仲間にやられて死ねるのなら君も本望だろうと思ったが、そういうことなら、僕がこの手で君を終わらせてあげるよ、蒼。これが君の最後の夜だ。覚悟はいいか!?」

 そう叫ぶと朱鳥は、一気に宙を舞って襲い掛かった。

朱鳥(結構強そう)が現れた!

─See you Next phase─





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