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図書室



 ガランとした、広い室内。
 さまざまな本をおさめた棚の行列が、規則正しく並んでいる。
 乾いたほこりと古い本のにおいが、かすかにたちこめている。
 あたりを見回しながら、トモキが口を開いた。

「連中は、いないみたいだな。ここに、何があるっていうんだ?」

 ヘルマーチンは、読書コーナーの長い机のうえに軽やかに飛び乗った。
 そして、何か見えないものと向き合うかのように、 じっと一点を見すえる。

「どうした、ヘルマー……」

 と言いかけて、あなたは異変に気づいた。
 ヘルマーチンと対峙して、部屋の奥、闇の中にふっと、 ひとりの少女の姿が浮かび上がった。



「な、なんだ……!?」

 少女は、ヘルマーチンをじっとみつめ返している。

「あなたは、何もの? どこから来たの……? 異形のものたちが、 校内を好きにうろつきまわっている。あなたも、あいつらの仲間?」

「ちがう。俺はこの世界の生き物じゃないが、だが、 あいつらの同類じゃない。俺は、おそらくこの異変をくいとめ、 ヤツらをもといた所に送り返せるだろう唯一の存在……、 俺の相棒を捜している」

 しばしヘルマーチンを凝視した後、少女は小さくうなずいた。

「しばらく前に男が、不思議な女の子を連れて来た」

「朱鳥だ。蒼は……、その子は、どこに?」

「体育館……。なにやら妙なワナをしかけ、彼女を残して、 男は出て行った」

「そうか。朱鳥の方はあとまわしにして、 まずは蒼を助け出さないと……」

「これを……」

 と、少女が細い右手を差し出した。
 棚に並んだ書物のページから、無数の文字が光を発しながら、 次々と漂いだした。

 あなたとトモキはあ然として、宙を漂い、舞う、 輝く文字の群れに見入った。
 文字はあなたたちの周りで光の河となり、渦となり、 勢いよく回りはじめた。
 やがて光の奔流は、流れるようにして三人の全身をおおうと、 張りつくようにして溶けた。
 あなたとトモキは、不思議そうに自分たちの体を見下ろした。

「いまのは、いったい……?」

「祝《しゅ》か」

「男は、あの場所に強力な、異界の呪《しゅ》をほどこしたから」

「君は……?」

 あなたの問いに、少女は無表情な沈黙で答えた。
 そのまま、すーっと遠ざかるようにして、 少女の姿は闇に消えてゆく。

「あの男をとめて……。ヤツらの好きにさせてはいけない」

 声だけが、後に残された。

「彼女は……?」

 呆然として、少女の消えた先を見つめていると、

「行くぞ」

 と、ヘルマーチンが声をかけてきた。
 すでに入り口のところで、こちらの方を振り返っている。

「蒼を助け出すんだ」

 うなずいて、あなたは彼のところへ向かった。

「ヘルマーチン、いまの彼女は?」

「さあな。学校にすみついた地霊の一種か何かだろう。 自分の縄張りを荒らされて、面白くないんじゃないか?」

 図書室を後にしながら、ヘルマーチンは答えた。

「なんであれ、ちからを貸してくれるというなら助かる。 敵にくらべると、こちらの分は悪すぎるからな」

「朱鳥は、何をやってるんだろう? 学校をどうしようっていうんだ?」

「蒼を助けた後で、じかに朱鳥に聞くんだな。 その時まだ世界が終わっていなければ」

 ヘルマーチンを先頭にしてあなたとトモキは、 暗い廊下を足早に進んでいった。

─End of Scene─


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