TOP[0]>攻略ルート選択 >リザルトTOP

音楽室



 扉に手をかけると、なかからピアノの調べが聴こえてきた。
 あなたは仲間と顔を見合わせて、ゆっくり扉を開いた。
 教室の前の方に置かれたグランドピアノの椅子に浅く腰かけて、 演奏しているのは朱鳥だった。
 あなたたちの存在に気づかないのか、 目を閉じた朱鳥はやさしい調べをつむぎつづけた。 静まりかえった暗い学園のなかを、 旋律が妙にきらびやかに流れて行く。
 あなたたちは無言で、そんな朱鳥を見つめた。
 やがて、あきらかに曲の途中で朱鳥はふっと動きをとめると、 目を開けてあなたたちの方に顔を向けた。

「ゴールドベルク変奏曲……、バッハだ。人生は、 代わり映えのしない日々の連続、ヴァリエイションに過ぎない。 美しいが、退屈だ。退屈だが、悲壮でもある」

 椅子から立ち上がると、ピアノの前に進み出て、 朱鳥はあなたたちと向き合った。



「蒼……、君は僕のもとに帰ってきてくれるものと思っていたのだけどな。残念だよ、とても」

「いい加減、世迷いごとはやめて。 わたしがお前とともに歩むことは、もう二度とない」

「ファントムか……。そのせいで、 お前は通常のようなグールとはならなかった」

「ファントム? 人にとりつくっていう? それが蒼と、どういう……?」

 あなたの問いにヘルマーチンが、 教室中央の通路の反対側に立つ朱鳥をにらみつけたまま答えた。

「実体を持たないファントムは、定命の生き物以外にとりつくことは、 まずない。特に、 グールのように不死の生命力をそなえた生命には……。 自分たちの方が逆に、永遠の肉体という牢獄にとらわれ、 吸収されてしまう恐れがあるからだ。だが、ファントムには、 とりついた宿主の脳を活性化し、 超人的な能力を発揮させると同時に、 宿主の体内細胞をある程度はコントロールするちからがある。 すなわち、グール細胞の暴走をおさえて、 完全なグールと化すことを抑制することが可能となる」

「ファントムにとりつかれたグール……、蒼が?」

 あなたは思わず、蒼の横顔に目をやる。

「蒼の精神は、もともとの彼女のものだ。彼女の精神が、 とりついたファントムに打ち勝ち、逆にのみこんでしまった。 その際にファントムの一部が引き裂かれて、 彼女の外にはじき出された……。それが、俺だ」

 あなたはビックリして、蒼からヘルマーチンにと視線を落とした。

「いったんグール化した者の精神は、どんどん人間性を失ってゆく。 ウィルスに侵されているためもあるが、そうしなければ、 とても正気を保っていられないからだろう。朱鳥、 お前もそうなんじゃないか? そろそろ、 人だった頃の記憶や考え、感じ方が薄れてきてるんじゃないか?」

「僕が……?」

 と朱鳥は、いぶかしげに首をかしげる。

「そうだ。だから、蒼にこだわる。 かつて自分の大切な一部であったもの、 どんどん自分から消えてゆこうとしてるものを失いたくなくて。 こころのどこかでは、 お前は自分が次第に人じゃなくなってゆくのを悼んでいるんだ」

「フッ……、バカな」

 朱鳥は、おだやかな笑みを浮かべた。



「僕が、人としての記憶や感じ方なんかを惜しんでる? 人でなくなるのを悼んでるって? どうして僕が?」

「なぜならそれは、愛を忘れるということだからだ」

 朱鳥の顔から、笑みが消えた。
 朱鳥は背後のピアノに手をやると、 それを片手で軽々とつかみ上げた。

「うわっ、マジかよ」

 トモキが思わず声をあげた。

「笑わせるなよ、死に損ないの犬ころが。そら、 音楽の贈り物だ。たっぷり味わえ!」

 そう言うと朱鳥は、ものすごい勢いでグランドピアノを投げつけた。
 すかさず一行の前に飛び出す蒼。蒼の体と巨大なピアノが激突した。
 木がへし折れ、たくさんの弦が引きちぎれ、机や椅子がはじけ飛び、 まるで爆発のようなすさまじい音がした。
 砕けたピアノの一部と、バラバラになった無数の破片が、 あなたたちに襲いかかった。

「くッ!」

 蒼のおかげで弱められたとはいえ、その衝撃に吹っ飛ばされて、 あなたとトモキは床に転がった。

「フン……、お前たちにはもうウンザリだよ。ここいらで、 消えてもらおうか」

 朱鳥は、無表情にあなたたちを見すえながらそう言った。

 蒼はピアノの残骸のなかで片膝をつき、 ヘルマーチンは倒れた机のかたわらに横たわっていた。
 ずりっ……。ずりっ……。
 廊下を何かが這いずってくるような音がした。

「あれは……」

「僕はまだ用事があるので、これで失礼するよ。 お前たちの始末は、あいつに任そう」

 朱鳥はそう言うと、教室前方の扉のところへ向かった。

「朱鳥!」

 蒼が叫んだ。
 朱鳥は、扉の前で立ちどまると、肩越しに、

「これまでだ、蒼……。さよなら」

 そうつぶやいて、彼は出て行った。
 みしっ。みしっ。
 反対側の、後方の扉の方から、きしむような音がした。
 開いた扉いっぱいに、なにか、ぬめぬめ、 ぶよぶよした青や黄色のまだら模様のものが、 みっちり詰まっていた。
 詰まって、無理やり、入ってこようとしていた。

「な、なんだ、ありゃあ!」

 とトモキが叫んだ。
 蒼が口を開き、なにか言おうとする前に、めきっ、 バキバキッと、扉のまわりの柱や壁をぶち壊して、ずるり! と、 そいつは押し入ってきた。
 巨大な芋虫のような生き物の頭部らしい先端部から、 何本ものツノのようなものが、にゅるーっと伸びた。

 ツノの先がぱくっと開き、粘液を滴らせながら、 呼吸するかのように開閉を繰り返す。
 あなたは言葉もなく、ただ魅入られたように、 天井まであるそいつの「顔」を見つめていた。

 も゛も゛も゛も゛も゛も゛も゛も゛も゛……!!

 床や壁を振動させて、吠え声のような音を出しながら、 そいつはあなたたちに襲いかかった。

巨大芋虫(たぶん強そう)が現れた!



─See you Next phase─


次回行動選択
(12時間更新)
[選択はありません]




画像、データ等の著作権は、 Copyright(C)2008 SQUARE ENIX CO., LTD./(C)DeNA に帰属します。 当サイトにおける画像、データ、文章等の無断転載、および再利用は禁止です。