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パラティア山脈開拓地



「いかがでした? 冒険は」

 最初に視界に映ったのは、碧い瞳をいたずらっぽく輝かせた、 黒衣の少女の微笑だった。
 ○○は寝ぼけまなこのままふらふらと身体を起こす。

 ……まだすこし、頭の芯がぼうっとする。

 書机に置かれた単書――“ルクレチア物語”から“挿入栞” は抜きとられ、○○は無事、エルアークへの帰還をはたした。

「2度めの“仮記名”のときは、貴方の顔を見るのもこれが最後かと、 覚悟をしましたけれど――」

 そんなリスクの説明は、一切なかったような気がするが……

 ○○がツヴァイを睨むが、少女は楚々とした動作で“ルクレチア物語” の書をとりあげ、もとの書架へともどす。

 少女がふりかえり、床がきゅ、と音をたてた。

「……でも、よい選択をしましたね。途中で起きた物語の“変調” についてはまだ精査の必要がありそうですが――」

 完璧な造形のくちびるが動く。

「もしかすると、この“書”は、もともと“このような物語” として用意されていたのかも知れませんね」

 ――“このような物語?”

 ○○は問いかえす。

「つまり――“正しい結末”をむかえるためには、必ず一度、 “悪い結末”を経験する必要がある――この“嘆きの聖都”は、 そんな風につくられた物語だったのかも知れない、という推論です。 あ、勿論……」

 ――もちろん?

「私が仕組んだわけではありませんけれど」

 わざわざ捕捉されると、逆に疑いを抱いてしまいそうになる。

「或いは――」

 ――あるいは?

「――或いは取りかえしのつかないことを、 貴方はしてしまったのかも知れませんよ」

 両の碧眼にあからさまな嗜虐の色をうかべ、 マウローゼ・ツヴァイはにっこりと微笑んだ。

―End of Scene―






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