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朧気な選択 |
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何だか判らないが、逃げてばかりもいられない。 既に退路は断たれている──後はもう、戦うしかない。 「──てっ、貴──が──れてしまう!」 巨人の肩に立つ黒衣の少女が何処か焦りの混じった 声を上げ、その声に後押しされるように巨人の動きが 速まる。鉄の足裏が地面を噛み、蹴る音が深く響いた。 彼我の距離は瞬く間に縮み、迷う時間などもう微塵《みじん》も無い。 ○○は覚悟を決め、迫る巨人に立ち向かう!! 戦闘省略 伸びた巨人の手が、抵抗する○○の身体を掴む。 硬質の五指が胴と片腕をしっかりと挟み、○○の足がふわりと地面から離れた。 「くっ」 僅かに息が詰まる。が、それ以上の締め付けは無い。 ただ巨人の手により身体は地面から持ち上げられ、空中でほぼ完全に固定されていた。 ○○は何とかその拘束から逃れようともがくも、力の差は圧倒的で、 どれだけ暴れてもぴくりともしない。 どうやら握りつぶすつもりは無いようだが、それでも、このままではどうなるか判ったものではない。 動きを完全に封じられる。つまり相手に対して完全に無抵抗な姿を晒しているという事実は、 抗い難い恐怖心を生む。 ○○は半ば無理とは判っていながら、しかし更に力を込めて暴れようとして、 「──いします! それ──かないで、貴方の──がっ!」 それを、巨人の肩上に居た黒衣の少女の声が遮った。 言葉の意味ははっきりと判らないながらも、強い力が込められた声音に○○は縛られ、 動きを止めて彼女を見る。 少女はくすんだ金髪をなびかせて巨人の肩上から足を踏み出すと、 長いスカートを摘みながらとんとんと巨人の太い腕を伝って、こちらへと走ってくる。 そして迫る彼女の勢いに押されて、思わず身をよじった○○に更なる声。 「手を──さい、右ですっ!!」 今度は、断片的にだが意味は伝わった。 (手と、右?) ○○は言われるまま、巨人に掴まれていなかった自身の右の手を見て。 息を呑んだ。 まるで毛糸の玉が解《ほど》けていくように、右の掌がぼろぼろと崩れ始めていた。 「────」 情けない悲鳴が出る。 これに驚かずして一体何で驚けというのか。○○は半ば恐慌状態に陥って、 「ああ、もう……!」 直ぐ傍にまでやってきた娘が、暴れかけた○○の額を覆うように、小さな掌を広げてがしりと掴んだ。 そして、 「いいから、今は大人しくしなさいなっ!!」 少女の掌から○○の額を通し、そして頭の芯の部分へと、鋭い衝撃が突き抜ける。 呻《うめ》く間もない。 ○○の意識は一瞬にして刈り取られ、そして何もかもが暗転した。 まるで波の間を漂うように。 ゆらりゆらりと、身体と心が緩やかに揺れる。 揺り籠の中に居る幼子のような、そんな安らいだ意識の片隅で、○○は二つの声を聞く。 「何とか、落ち着いたようだな」 「……はい。意識水準も覚醒状態寸前にまで達しているようです」 その声は、幾重もの膜を通したように小さく微かで、子守唄のようにも聞こえた。 「それで? 本当にやるつもりかね、上のお嬢ちゃん」 「ええ。今の応急処置では崩滅を完全に抑えることは出来ませんもの。急いで適当な “群書”へと挿入させて、記名変換中に直接干渉して存在概念を修復する必要があります」 「目覚め次第、直ぐに“仮記名”を行うつもりか? 説明は?」 「無理ですね。悠長に話している余裕がないのは、“准将”もお判りでしょう?」 「……確かにな。この状況で覚醒、安定状態を維持できるのはせいぜい数分だろう」 目に映るのは、白く揺れる水面。 時折瞬き、○○の意識を刺激する光の向こう側に、二つの人影が見えたような気がした。 「にしても、そこまでせねばならない者かね、この“迷い人”殿は。特異であるのは否定せんが」 「ここまで本との“縁”が見えない方は初めてですからね。少しだけ、興味があります。 それに、この方は“落丁”と共に現れなかった。それだけでも十分特別なファクターです」 少しずつ、意識を攫《さら》っていた水の嵩《かさ》が減っていく。 揺らいでいた心は徐々に定まり、耳に届く声ははっきりと、遠く見えた水面は既に手を伸ばせば届く位置。 「しかし、調整も不完全な“挿入栞”だけ持たせて群書に放り出せば、 こちらとの同期を取るのも難しいだろう。潜在意識下での基本機能と、 拡張機能使用要請。それに対する並行自動反応処理辺りなら通るだろうが、 他はこちらとの道が繋がらないと不可能だぞ? その御仁が気づかぬ限り、 この“箱舟”に戻る事も」 「それは、この方次第でしょう。私が出来る手助けはここまで。後は、 この方が私達を求めるか否か。それで決めましょう」 「矛盾しとるね。先刻は特別なファクター等と言っていた気がするが?」 「……他に良い手があるなら、そちらを選択しています。でも、これしかないから──」 しかし、あともう少しで水が失せるという所で、意識が深く沈む感覚。どぷんと、 今まで背中を支えていた何かが消失したように、目の前にあった水面が遠のいた。五感が失われ、 その閉塞に耐え切れず、意識が失われる。 「っとと、いかんな。話し込みすぎた。ほら、迷い人殿が落ちかけてるぞ」 「あ……」 その間際、するりと先程の影の一つが自分の真横へと動いた。 穏やかな微笑みを浮かべた小さな顔が、こちらを覗き込むように迫る。 くすんだ金色の長い髪がさらさらと零れて、○○の顔に僅かにかかった。 「──お聞きなさいな」 その感触に意識が少しだけ浮上し、柔らかな少女の声が、 眠りの海の底へと沈みかけていた○○の頭の芯に辛うじて届いた。 「貴方の前には今、二つの夢があります。折角の初“記名”です。 どちらに挿入するか、貴方がお選びになってくださいな」 そっと彼女の手が○○の手と重なる。硬い感触に○○が視線を向ければ、 少女は小さな剣を象《かたど》った奇妙な品を、○○の掌へと滑り込ませていた。 ○○が反射的にそれを握り込むと同時。靄《もや》の掛かっていた視界がクリアになり、 そして頭の中に二つのイメージが浮かび上がる。 最初に浮かんだ光景は、夜の荒野に独り立ち、空を見上げる少年の姿。 次に浮かんだ光景は、闇色に沈んだ街の一角、不思議な影を従えた少女の姿。 傍に居た金髪の少女の姿がふわりと踊り、 もう一つの大きな人影──まるでブリキ人形のような外見をした巨人の隣に着地。 そしてゆっくりとこちらを振り返ると、 「さぁ、どちらになさいます?」 先刻過ぎった二つのイメージ。 より、印象に残ったのは──。 ─See you Next phase─ |
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