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日常の終わりに



 〇〇は100zelを支払った!

     ***

 運賃を支払い、〇〇はボーレンス行きの馬車に乗る。
 程なくして、乗り慣れた馬車の振動が、〇〇を心地よいまどろみの中へと誘いだす――。

     ***

「……こうして遺産の認定と研究をするために創られたのが、現在の教会でいう“双架省”なのです。全国の教会にある“開架”と“閉架”は、全部この双架省の管理下にあるんですよ」
 シスター・マリーはいつものように話を締めくくり、教本を置いた。それから、教会の長椅子に座っている子供達に向けて言う。




「それでは、質問の時間にしましょう」

 途端に「はいはーい」と子供達は元気良く声を上げ、一人残らず挙手をした。マリーはその様子を見て小さく微笑んだ。
 どんなに馬鹿馬鹿しい質問でも、何も言わないよりはずっと良い。この教会ではそう教えていた。
 マリーは一通り子供達の顔を見渡し、一番年下の少女に目を留めた。

「それじゃあ、ロッテちゃん」

 はーい、と少女が可愛らしい返事をして立ち上がる。

「アーネム様はどの絵でも天秤と本を持ってるけど、なんで聖杯と聖筆は持ってないの?」

「はっ!」

 マリーは意表を突かれ、聖堂の壁にあるステンドグラスを見上げた。
 確かにそこに描かれた創世の賢者の姿は、右手に天秤、左手に本、それだけを携えたものだ。聖杯と聖筆らしきものは、どこにも描かれていない。
 マリーは数秒ほど考えてから、ロッテに答えた。

「多分、デザイン上の問題だと思うわ。だって、天秤と聖杯と聖筆を同時に持とうと思ったら、『あわわわわ』って感じの絵になっちゃうでしょう」

 マリーの答えに、ロッテは笑った。

「かと言って聖筆を掲げると画家みたいだし、聖杯だと乾杯みたいに見えます。だから、一番無難な天秤に決まったんじゃないかしら」

「わかった!」

 ロッテは元気良く答えてから、納得の笑顔で着席した。

「――実際には、どんな感じで持ち運びしていたのかな?」

 脇で様子を見ていたユルバン神父がそう言った。
「必要なら、聖杯のカップの中に聖筆と天秤を突っ込んでおけば、ちょっと見苦しいけど普通に持てると思います。あ、もしかしたらあの本の中がくりぬいてあって、そこに全部納められるのかも知れませんね」

「なるほど。さすがマリーだ」

「えへん」


 マリーは胸を張る。教会の聖堂に、子供達の笑い声が広がった。

     ***

 和やかな雰囲気の中で、マリーは今日も幾つかの質問を子供達と一緒に片付けていった。

「では、次の質問に移りましょう。今日はこれが最後かな?」

 マリーが言うと、またしても元気良く声が上がり、子供達が手を挙げる。マリーは今度は一人の少年を指名した。

「じゃ、ヤスミン君」

 はい、と少年は返事をして立ち上がり、「今日のお話とは全く関係ないのですが」と前置きをしてから話し出した。

「磁石について、不思議なことに気付きました。磁石って、N極とS極がありますよね。NとSは引き合うけど、NとN、SとSは反発します」

「そうね」

 言いながらマリーは身構えた。比較的身近な話題のようだが、なんとなく難しい問題の気配がする。

「棒磁石の両端を持って2つに折ると、短い2本の棒磁石になりますよね。折れたところが新しくS極とN極になるから、近づけると元通りくっつきます」

 言いながらヤスミンは、架空の磁石を折ったり戻したりする様子を身振りで示した。
 確かに、磁石はどんなに細かく切っても、NとSを持つ小さな磁石になる。それぐらいはマリーでも知っている。ヤスミン少年は続けた。

「でも、棒磁石を縦方向に切ると……薄い2本の棒磁石になります。今度は極の向きが同じなので、断面を元通り近づけると、反発します」

 それも、その通りだ。ヤスミンはマリーを真っ直ぐに見て言った。

「質問です。さっきまで1本の棒磁石だったのに、何故、縦に切った途端に反発しあうのでしょう? 何故、切る前は1つでいられたのでしょう?」

「な――」

 マリーは面食らって、言葉を詰まらせた。

「なんで……なの?」

 考えたことも無い問題だった。
 元に戻らない直接の理由は簡単で、極の向きが同じだからだ。しかし、それはこの問題の本質ではない。
 同じ極同士がくっつかないのなら、何故、切る前はくっついていた? そして何故、それは元には戻らない?
 マリーは助けを求めるように、神父の方を振り返った。子供達も釣られてそちらを見る。
 ユルバン神父は少し思案した後、キッパリ言った。

「わからない」

「ええー!?」と子供達の間に合唱が巻き起こる。今回はマリーまで声を揃えていた。
 神父様までさじを投げてしまったら、一体誰が答えを教えてくれるというのだ?

「確かにヤスミンの言う通り、不思議だ。何故、切った途端に反発するような状態が、安定して存在しているんだろう」

「で、ですよね」

「磁石を縦に切ると反発する。更に縦に切ると、やはり反発する。当たり前のことのようだけど……これをどこまでもどこまでも繰り返して、原子1個にまで切っても反発するなら、それはなぜ今まで繋がっていた?」

「……のりで無理やり接着したら、どうでしょう」

 マリーは適当に言った。絶対に間違っているという自信があったが、何も言わないよりは良い。

「のりじゃないとは思うけど、悪くない。何か、僕らの知らない力が存在するはずだということだね」

「ま、まあそうです」

「うん――でも、残念ながら僕のレベルでは、ヤスミンの質問に正しく答えるのは、無理のようだ」

 神父は正直に言った。

「……神父様でも、判らないことがあるんですね」

 ヤスミンは逆に感心したように言う。

「当然だよ。そうでないと、勉強なんてやり甲斐が無いだろう?」

 神父は軽く笑った。

「直感的には、これを突き詰めると“霊子論”の分野に踏み込むことになると思う。多分、大人でも正しく答えられる人はそう居ないんじゃないかなぁ……。下手をすると、この世界にはまだ一人も居ない可能性もある」

 真顔でそう言ってから、神父はヤスミンに微笑みかける。

「案外、最初に答えを見つけるのはヤスミンなのかも知れないね」

 言われてヤスミンは、はにかむように笑った。

「じゃあ、もし僕が答えにたどり着けたら、真っ先に神父様の前で発表したいと思います」

「そうしてくれると、僕も嬉しいなぁ」

 そう言った神父は、既に充分嬉しそうだった。

「いい話ですー」

 いつの間にか奥から出てきたコゼットが盛大に泣くフリをして、子供達が笑う。

 神父とマリーも笑った。
 ――それが、この教会における最後の授業になることを、彼らはまだ知らなかった。




「構わないが……ゼネラルロッツなのか? てっきり次はベルケンダールだと思っていたが」

 ユベールは椅子から立ち上がり、読んでいた本を書架に戻した。

「ええ。そちらは当面、用は無くなりました」

「あそう。まあ別に良いんだが、順番的にはグラールの方が妥当じゃないか?」

 言って、ユベールはこの船の何処かに居るであろう、屈強な大男の姿を思い浮かべた。

 無駄とも言える広さを備えたこの船は無数の居住空間を持っており、バルタザール以外には地図を把握している者もいない程だ。
 ここに集っている者達は皆、食事の時間以外はその広い船内で勝手気ままに行動している。
 ユベールは今と同じように書室に居ることが多かったが、グラールの場合は――おそらく、彼の娘の部屋だろう。
 グラールが連れていた幼い娘は、この船に来てから今まで一度も目覚めることなく、夢さえも見ずに眠り続けていた。

「グラールさんにも後で続いてもらいます。今回はですね、出現予測範囲がちょっと広いんです」

 メルキオールはにこにこしながら説明した。
「まずはゼネラルロッツ近辺、続いてリンコルン付近にも出現する見込みです。正確な場所は特定できません。レンツール共和国全域ですね」

「全域だと? いくら誤差があるとはいえ、広すぎるんじゃないのか」

「ええ。ですが、ゼネラルロッツ付近なら、ユベールは慣れているでしょう?」

 そう答えたのはバルタザールだった。
 確かに以前、ユベールは臨時の食料を調達する目的で、ゼネラルロッツには何度か足を運んでいた。
「そこでまずは貴方にゼネラルロッツを担当して頂き、グラールには後程リンコルン方面をお任せしようと考えています。どうも1匹や2匹ではないようですから、首尾よくいけばアウターズ狩りはこれで最後になるでしょうな」


「そういうことなら了解した。えーと、双子はどうしてる?」

 これにはメルキオールが答えた。
「ジュリエッタさんとジュリアンヌさんは、二人とも今朝から『おなかいたい』って部屋でごろごろしてます。戦闘不能だそうです」

「なんだそりゃ。食べすぎか? まー、それじゃ仕方ない。俺だけで行くか」

「送り迎えは僕がやりますね。あ、ちなみに、出現する種族はおそらくワンプだと思います」

「把握した。しかし、閉架探しは良いとしてもワンプはどうするんだ? 何匹いるのか知らんが、ゼネラルロッツ中を歩き回るのは面倒だぞ」

 ユベールの質問に、バルタザールは微笑んでみせた。

「ワンプは屍肉を好んで食べる習性がありますから、まずは教会で、一人でも多くの人間を殺して下さい。そうすることで、以降に出現するワンプを呼び寄せることになるでしょう」

「なるほど」

 ユベールは笑って答えた。

「それなら、おやすい御用だ」


─End of Scene─






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