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何気ない一時

「はい、どうぞ。御茶です」  部屋の上方に設けられた硝子窓から射し込む、 きらきらと輝く光をぼんやりと眺めていた〇〇の視界の隅に、 黒いドレス姿の少女が姿を現す。 〇〇の前に濃い色の液体が満たされたカップを置く彼女に一言礼を告げて、 早速〇〇はそれを一口。

「あつ」

 意外と温度が高く、〇〇は空いた手で思わず口元を押さえる。 くすくすと笑いながらテーブルの逆側の席に腰を落ち着けるツヴァイを 〇〇は一度睨んでから、軽く息で冷まして再度挑戦。

「どうですか?」

 小さく首を傾げて訊ねてくるツヴァイに、 問題ないと手振りだけで示してやると、常から浮かんでいる少女の笑顔が、 一段と綻ぶのが判った。

 そのまま、〇〇のもツヴァイも暫し無言で、一度二度と御茶を味わう。
 腹の中にじんわりと染みるような温かさと、 濃い味わいが〇〇の身体の緊張を解いて、 のんびりとした時間が部屋の中を流れていく。

「和みますねー」

 対面に座るツヴァイが、美味しそうに一口茶を飲んでから、緩んだ声を出す。

「御茶って誰か来た時にしか出しませんから、私も結構楽しみなんですよね、 この時間。ここで御茶菓子でもあると良いんですけれど……」

 全くだが、そういう台詞が出てくるという事は、今から御茶菓子を出しますね、 という展開にはならないのか。

「残念ながら。御茶菓子自体は無い事も無いのですが、 この“箱舟”では秘蔵中の秘蔵の品ですから。 こんな何でもない時にぽんぽんとは出せませんわ」

 それは全く、残念な話だ。
 そう返しつつも、実際の所はそう気にしている訳でもなく。 椅子に身体を沈め、〇〇はのんびりと深く息をつく。

 ──時にはこういう、何でもない時間を過ごすのも悪くは無いか。

 〇〇は忍び寄ってくる眠気に逆らうべきか否か迷いながら、 惚けた頭でそんな事を考えていた。

─End of Scene─

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