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名前二つ 少年Ver



 部屋の扉を開けると、そこには細い櫛を手にしたツヴァイと、椅子に座る黒髪の少女の姿があった。

ツヴァイとアリィ


 少女は、少年と同じようにしてこの“箱舟”へとやってきた、○○と同じ“迷い人”である。
 最初に会ったときは確か両袖が前で一つに括られたような独特の衣服に、顔を覆う濃いヴェールという組み合わせで、 ある種異様な雰囲気を発していたが、今はヴェールを外して素顔を晒し、 服もツヴァイが着ているものと良く似たデザインの白いドレスへと着替えていた。

 長い長い黒髪が、全く日に焼けた気配の無い肌と白のドレスの上に広がる。
 人形のように整った顔立ちは感情の色が殆ど無く、その外見は、本来人形である筈のツヴァイよりも造り物めいた印象を○○に与えた。

「お帰りなさいませ。○○さんも、ちゃんと合流できたようで何よりです」

 こちらを振り向いてそう言いながら、ツヴァイは少女の髪に通していた櫛をそっと外し、にっこりと微笑んだ。
 そして彼女の瞳が、○○の顔から、少年が抱えた果物二つへと移る。

「あら。それは」

 少年の手にある果物を見て、ツヴァイは一度瞬き。
 その反応に少年はにやにやと笑って、手にした果物の一つをツヴァイに差し出した。

「あんたと、そっちの姉ちゃんへの土産だよ。折角採ってきたんだ、要らねーとか言わずに是非味わって──」

「私は物を食べる必要もないのですが、そうですね。頂きましょうか」

「マジでか」

 少年が呆気に取られる。
 箱舟で暮らす彼女が、この果物について知らない筈も無い。大体これについての忠告を自分達にしたのが彼女自身なのだ。
 だというのに、彼女は白手袋を外して臆した風も無く果物を受け取り、上品に一口、二口。
 そして、にこにこと笑顔を維持したまま、あっという間に食べ尽くしてしまった。

(あれ)

 何故平気なのか。少し品無く指先を舐めてみせるツヴァイをぽかんと眺める○○。
 少年は苦虫を噛み潰したような顔で、

「あれが平気とか……。何だよお前、もしかして舌おかしいの?」

「正確には、得られる味覚全てに対して好悪の感情が生まれない、といった所ですね。 わざわざ持ってきていただいてありがとうございます」

「……あんた、見た目の割に結構根性悪いのな」

 小さく舌打ちする少年に、満面の笑顔で一礼するツヴァイ。黒衣の少女の全身に漂う満足感から彼女の性癖が透けて見えて、 ○○は無言で視線を逸らした。
 少年は暫くげんなりとそんな彼女を見ていたが、

「まぁいいや、本命はこっちだし──おい、そっちの姉ちゃん。これ食いな」

 ひょいとツヴァイを避けるように身体を横へと曲げると、奥の椅子に座っていた少女の膝上へとその果物を投げた。
 取り落とさぬよう、なるべく優しく放り投げられたそれは、緩やかな放物線を描いて部屋を泳ぎ、 太股の上辺りに力無く置かれていた彼女の手の中へと飛んでいく。

「────」

 が、彼女はそれを受け取れず。僅かにずれ、膝上辺りで跳ねて落ちる果物を、彼女は目を瞬かせて見送った。

「……何やってんの? つか今の勢いなら取れるだろ、普通」

 少年が拾い上げて、彼女の手の中にぽんと入れた。
 が、少女は細面を俯かせて、じっとそれを眺めているだけで、続くアクションが全く無い。

「もしかして、これの味に気づいている……って感じでもねーよなぁ。おーい、腹減ってねーの? 取り敢えず食っとけよ。 味はアレかも知れんけどさ」

 少女の顔を覗き込むようにして、少年があれこれと話し掛ける。
 と、

「……判りませぬ」

 驚いた事に、言葉が返ってきた。○○は思わず少女を凝視して、少年は一瞬言葉に詰まる。
 彼女の声は細く、まるで喋る事を久しく忘れていたように擦れてはいたが、しっかりとした芯のある音だった。

「──びっくりした。って、判らないって何がよ。食い方わかんねーの? 今下に落としちまったし 、皮は止めといた方が良いかもな」

「…………」

「…………」

「…………」


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