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名前二つ



「……もしもーし」

 背後からの声に、○○とツヴァイ、そして少女の視線が声のした方へと一斉に向く。

「もう着替え終わってる? 入って大丈夫?」

 半開きの扉から恐る恐る顔を出すのは、もう一人の“迷い人”。 明るい金髪の少年だ。どうやら戻ってきたらしい。

「あら、お帰りなさいませ。着替えの方は既に終わっていますが──」

 ツヴァイの迎えの言葉に頷きつつも、少年は顔を僅かに覗かせた状態で用心深く部屋の中を見回す。 そして奥の椅子に座っていた少女の様子を見て安堵の吐息。漸くその警戒を解いて、 室内へと入ってきた。

ツヴァイとエンダー


「先刻はどうされたんですか? いきなり部屋から飛び出して。 まだ少し御話ししておきたい事がありましたのに」

「ええー? それ俺の口から言うの?」

「??」

 心底嫌そうに声を上げる少年に、ツヴァイは素直に疑問符を浮かべて眉を寄せる。 その様に、少年は深々と嘆息し、視線を○○へ。

「ホント判ってないのな。……そっちのあんた、気をつけといた方がいいぞ。 こいつら、見た目綺麗な割にガードが甘い」

 その言い分から、少年の言いたい事と、 そして彼が部屋から駆け出して行った理由が何となく判った。 ……中々律儀というか、初心な少年らしい。

「何だか判りませんけれど、それほど深い理由は無いと取って宜しいのですか?」

「宜しいですよ。で、あれだ、取り敢えず、これ」

 少年は自分の手の中にあるものを、皆に見えるように掲げてみせる。
 それを見て、ツヴァイは一度瞬き。

「その果実は……“木霊の庭園”に行って来たのですか?」

「名前は知らないけど、城の外に広がってた森の中で生ってた。 ちょっとした土産。ほれ、まずそっちのあんた。お近づきの印に一つどーぞ」

 ひょいと投げられ、○○は慌てて受け取る。見た目自体は別段おかしい所も無い、 少し水気の多そうな果物。手触りから、皮などを剥かずとも何とか食べられる類のものだろう。 折角の厚意、ありがたく受け取ろうとそのまま深く考えずに齧り付いて。

「…………」

 不味い、とまではいわないが。
 なんというか──独特。
 無言のまま視線を少年へ向けると、彼はにやにやと笑いながらこちらを観察していた。
 成程、どうやら純粋な厚意だけでは無かったらしい。○○は僅かに苦笑しながらもう一口。 その様子を満足そうに見届けてから、少年は次の標的をツヴァイに切り替える。

「ほい、あんたにも。折角採ってきたんだ、是非残さず──」

「私は物を食べる必要もないのですが、そうですね。頂きましょうか」

 差し出された果物を手に取ると、彼女は白手袋を外して臆した風も無く果物を受け取り、 上品に一口、二口。
 そして、にこにこと笑顔を維持したまま、あっという間に食べ尽くしてしまった。

(あれ)

 何故平気なのか。少し品無く指先を舐めてみせるツヴァイをぽかんと眺める○○。 拍子抜けも甚だしい。少年の方も苦虫を噛み潰したような顔で、

「あれが平気とか……。何だよお前、もしかして舌おかしいの?」

「正確には、得られる味覚全てに対して好悪の感情が生まれない、といった所ですね。 わざわざ持ってきていただいてありがとうございます」

「……あんた、見た目の割に結構根性悪いのな」

 小さく舌打ちする少年に、満面の笑顔で一礼するツヴァイ。 黒衣の少女の全身に漂う満足感から彼女の性癖が透けて見えて、 ○○は無言で視線を逸らした。
 少年は暫くげんなりとそんな彼女を見ていたが、

「まぁいいや、本命はこっちだし──おい、そっちの姉ちゃん。これ食いな」

 ひょいとツヴァイを避けるように身体を横へと曲げると、 奥の椅子に座っていた少女の膝上へとその果物を投げた。

 取り落とさぬよう、なるべく優しく放り投げられたそれは、 緩やかな放物線を描いて部屋を泳ぎ、 太股の上辺りに力無く置かれていた彼女の手の中へと飛んでいく。

「────」

 が、彼女はそれを受け取れず。僅かにずれ、膝上辺りで跳ねて落ちる果物を、 彼女は目を瞬かせて見送った。

「……何やってんの? つか今の勢いなら取れるだろ、普通」

 少年が拾い上げて、彼女の手の中にぽんと入れた。
 が、少女は細面を俯かせて、じっとそれを眺めているだけで、続くアクションが全く無い。

「もしかして、これの味に気づいている……って感じでもねーよなぁ。おーい、 腹減ってねーの? 取り敢えず食っとけよ。味はアレかも知れんけどさ」

 自分を覗き込んであれこれと話しかけてくる少年を、少女は椅子に座ったままじっと見返し、 そして小さく唇を開く。

「……判りませぬ」

 その声に、少年が目を見開いて一瞬口を閉じる。

「──びっくりした。って、判らないって何がよ。食い方わかんねーの?  今下に落としちまったし、皮は止めといた方が良いかもな」

「…………」

「…………」

「…………」


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