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無感の認識


 ならどうぞ、とツヴァイが扉を開けたまま部屋に引っ込む。
 つられて中に入ると、着替えの途中で動きを止めている少女の姿があった。

アリィ


「…………」

 視線が合う。少女はじっとこちらを見ているだけで、その先が無い。 服を半端に着込んだ状態のまま、慌てる訳でもなく、 しかし気にせず服の着替えを続ける訳でもなく。ただ、身動きもせず、 入ってきた○○を見ている。

「どうされました?」

 そう不思議そうに訊ねてきたのは少女ではなく、 立ち止まった○○に気づいて振り返ったツヴァイだ。
 どう、と言われても困る。答えに窮する○○に首を傾げつつ、 ツヴァイは手にしていた服を適当な場所において、少女の傍へと移動。 そして中途半端に着た状態になっていた少女の服を整え始めた。
 少女の視線がこちらから切れ、ツヴァイの促しに従うように腕や身体が上下する。 どうやら、こちらが入ってきた事に驚いて着替えを止めていたという訳ではなく、 服を着せていたツヴァイが途中で手を離した為、半端な状態のままになっていたらしい。 何故、そのまま自分で着ないのか。その理由はさっぱり判らないが。
 そして首筋から背中、腰近くまで開いていた衣服の留め金がゆっくりと填められていく 様を眺めながら、○○はもう一つ、呆れ混じりに理解する。どうやら、彼女等には着替 えを赤の他人に見られるという事に全く羞恥を感じていないらしい。
 となると、こちらが変に気にするのも良くない。○○もなるべく自然に部屋の 風景へと視線を移し、そしてそれの存在に気づいた。
 先程ツヴァイが置いた服の束に混じった、少女が以前着ていた── 両袖がぴたりと縫い付けられている服。
 何度見ても奇妙な服だった。恐らくこの服では両手をまともに使えない。 何故こんな不自由な服を着ていたのか酷く疑問だ。仕立て自体は非常に良いのだが、 その両袖の部分が……まるでそう、咎人《とがにん》が着せられる拘束衣のようだ。

「はい、完成です」

 そんな事を考えている間に、少女の着替えが終わったらしい。
 表情も無くぼんやりとした風に立っている少女から少し距離を置いて、 ツヴァイは自分が着飾らせた少女の出来栄えに、にこにこといつも以上の笑顔を浮かべていた。
 今の彼女の細身を覆っているのは、ツヴァイが着ているものと系統の近い白のドレス。 長髪の黒とドレスの白が強く対立し、それぞれの色を際立たせている。 服はツヴァイが選んだのだろうが、なかなかセンスが良い。

「さて。では、私は服を片付けてきますね。○○さんはどうぞそのまま彼女のお相手を」

 などと○○が感心している間に、ツヴァイは部屋の隅に積んであった服を抱えて、 部屋を辞するべく出入り口に扉に手を掛けていた。

(いやいやいや)

 ちょっと待て。確かこの少女、最初に会った時の様子を思い出すに、 意思疎通が酷く難しい類の人物であった筈だ。そんな彼女とほぼ初対面、 一対一の状態で話すのは、少しばかり難度が高い。ツヴァイがここに居るのと居ないのとでは、 状況が大きく違ってくるだろう
 せめてもう少しここに居て──と振り返る○○に、 金髪の娘はにっこりと至極愉快そうに微笑んで。

「では、頑張ってくださいなー」

 ああ、それが判っていて立ち去る気か。
 引きつった○○を置いて、小悪魔は優雅に一礼。 長い金髪の先端が、扉の向こうへと流れて消えていった。

 後に残されたのは○○と少女。閉まった扉を暫く睨んでいた○○だったが、 こうなっては仕方が無いと小さな嘆息と共に少女のを方へと振り返り、


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