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虚を掻く手[続き] |
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「近々、“ジルガ・ジルガ”の記名可能期間がやってきます」 “ジルガ・ジルガ”。 以前、茶飲み話に聞いたあの群書世界か。 〇〇の呟きに、ツヴァイは笑みの中に真剣さを秘めて頷く。 「はい。それで、この機会に〇〇さん達を“ジルガ・ジルガ”へと仮記名しておきたいと、そう考えています。“ジルガ・ジルガ”の記名可能時期は極短期ですから、可能なときに逃さず行っておきたいのです。あの群書は色々と不可解な要素を抱えていますから、郡書世界の現状を把握するのに、内部から情報を得られる人材が欲しい」 そういえばそんな事も言っていたが、今までの話の流れからすると“ジルガ・ジルガ”が持つ特殊な要素とやらも、“落丁”が関係する話なのだろうか? その疑問に、ツヴァイは僅かに首を傾げて、 「それをはっきりとさせる為にも、手を貸していただきたい、というレベルですね。単書ならばともかく、群書世界に対しては私達箱舟の存在は完全な部外者――いえ、傍観者に近い立場です。外から見て群書世界に何らかの異常が見受けられたとしても、それはあくまで外から眺めての話。内側が一体どうなっているのか。内側から見てそれはどういったカタチとして映るのか。それを知ることは出来ません。だから、〇〇さん達にはその目になって欲しいのです」 そんな事、わざわざこちらがやらなくとも、ツヴァイ達が自分で――と言い掛けて、〇〇は口を噤む。彼女等なら、自分達で出来るなら既にやっているだろう。こちらにこういう話を振るという事は、何らかの理由でそれが不可能であり、〇〇のような代理を立てる必要がある、という事だ。 「……ちょい待て。その、ジル何とかっての、俺は初耳なんだが。アリィ、聞いてるか?」 「……? おりませぬ」 と、脇から上がった声に、ツヴァイが「あら」と声を漏らす。 「そういえば御話ししていませんでしたっけ。ええと――」 ツヴァイが、以前〇〇に話したものと同じ説明を繰り返すと、エンダーの表情が露骨に渋くなった。 「なんか、滅茶苦茶ヤバそうじゃねーか、そこ。まだ俺、一つの世界に骨を埋める覚悟なんて出来てねーぜ?」 「その辺りは御安心を。〇〇さん達の栞には専用の付加式を限界まで追記して、どうあっても箱舟まで戻ってこられるようにはするつもりです。そうしないと、何のために〇〇さん達を挿入するのか判りませんからね。それで、取り敢えずは――」 そこまで話してから。ツヴァイは小さく咳払いをして姿勢と表情を正すと、机を囲む〇〇、エンダー、アリィを見て、改めて告げた。 「皆様には、私の行う“落丁”調査の手助けをして頂きたい。そして“ジルガ・ジルガ”への仮記名を行って頂きたい。私からのお願いは、この二つです。これは単なるお願いですから、勿論断って頂いても何ら問題はありません。ですが、出来うるなら受けて欲しいと私は考えていますが、――如何でしょうか?」 そしてツヴァイは窺うように〇〇とエンダー、アリィを見る。 対し、〇〇は彼女から視線を外すと何気なく天井を仰いで、 (……ふむ) どう答えたものだろうか。 この箱舟の主であるツヴァイには、大小あれこれと世話になっているのは確かだ。だから、そんな彼女からのお願いであれば、なるべく協力はしたいところだが、正直少し間が欲しいというのも本音ではあった。 他の面子はどう考えているのだろう。〇〇が何気なく視線を向けると、エンダーは両腕を組んだまま深く椅子に腰掛け、両目を閉じて動かない。 と、こちらの注視に気づいたのか、閉じられていた目の片側が開いた。その瞳は〇〇の方を見て、 「俺はまだ“迷い人”としては新参だしな。〇〇の判断、それに便乗させて貰うわ。アリィ、お前はどうする?」 次いで、隣のアリィを見る。 「己は」 話を向けられたアリィは、表情のない顔をゆるりと動かし、 「己は、誰かが示すなら、それに適いたく、ございます」 意訳するなら、誰かがやるならやる、か、誰からでもお願いされたなら受ける、のどちらかだが、アリィの視線がこちらを向いているのを考慮すると、正解は前者か。 (……結局は) 自分で決めるしかないようだ。 〇〇は小さな溜息と暫くの沈思を経て、得た答えを彼女に告げた。 ―See you Next phase― |
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